January 31, 2025
Ballet Art KANAGAWA2025『眠れる森の美女・全幕』
日本バレエ協会関東支部神奈川ブロックが、松下 真 演出・再振付『眠れる森の美女』全幕を上演した。3回の休憩を挟む4時間の大作で、立ち見席も出る大入りの公演であった。
オーロラ姫に米沢 唯、デジレ王子に秋元康臣が出演。米沢は音楽性と技術力に秀でた素晴らしいダンサーだが、近年は上半身の動きを音の限界まで柔らかく使うことで、いっそう風格が増した。アダジオではサポートを必要としないバランス力、そしてヴァリエーションでは音を掴み瞬時に正確なポジションに入るキレの良さで、古典の大役を見事に演じきった。デジレ王子の秋元は、2022年から3年連続で本公演に主演している。正確でノーブルな踊りはデジレ王子にふさわしく、2幕冒頭で颯爽と登場した際は、舞台がパっと明るくなったように感じられた。テクニシャン同士のソリッドな踊りは親和性が高く、米沢と秋元のパートナーシップは抜群である。リラの精の松平紫月は、体幹の強靭さに裏打ちされた安定感が舞台を引き締めた。1幕のイタリアンフェッテは、アラスゴンに上げた脚の勢いに頼らず、回転からアティテュードまでを見事なコントロールで丁寧に繋いでいた。フロリナ王女と青い鳥の岸本 凜と孝多佑月は、丁寧なプリエやプレパラーションを意識した落ち着いた踊りを見せ、宝石の精の高橋真之は、勝田菜々穂、西沢真衣と共に、軽快な音楽に乗って次々とテクニックを披露した。小林貫太はモデルさながらのウォーキングで色気たっぷりにカラボスを演じた。江本 拓、春野雅彦、福田圭吾、古道貴大という豪華メンバーがローズ・アダージオの求婚者に名を連ねた。
『眠れる森の美女』は作品の長さゆえに、短縮したバージョンも多く作られている。しかしディヴェルティスマンには手をつけず、物語に関連する端々をカットするアプローチは、本来見所である踊りのシーンを冗長に感じさせてしまう副作用もある。その点松下版は、1幕冒頭や、2幕第1場、そして3幕のシンデレラとフォーチュン王子や親指小僧と人食い鬼など、通常はカットされたり短縮される曲も丸ごと採用する作戦で、一貫してゆったりとした贅沢な時間の流れを作り上げることに成功していた。出演者はこの舞台のために集まったメンバーだが、主要キャストからコール・ド・バレエまで、本作に相応しい落ち着いた雰囲気を共有していた点も印象に残る。松下は、若手ダンサーの間が持つように、細部にも振りを与えたと語っていたが、その配慮は全体のトーンの統一に貢献していたと考えられる。ミストレスの秋山かおると岡本小夜子の功績も称えたい。
(隅田有 2025/01/19 神奈川県民ホール 16:00)