November 19, 2024
シュツットガルト・バレエ団『オネーギン』
前回2022年の日本ツアーは、コロナ禍の影響を受けて11名のダンサーによるガラ公演に変更されたため、フル・カンパニーとしての来日は6年ぶりとなる。東京公演初日はタイトルロールにフリーデマン・フォーゲル、タチヤーナにエリサ・バデネス、オリガとレンスキーに、今年8月の世界バレエフェスティバルで見事なパフォーマンスを見せた、若手プリンシパルのマッケンジー・ブラウンとガブリエル・フィゲレドが登場した。
プーシキンの韻文小説は美しき放蕩児オネーギンの18歳から26歳までを描いているが、バレエ版のオネーギンの年齢はこれよりも高めに設定されているようだ。キャリアを積んだベテランダンサーによって踊り継がれてきたことや、オネーギンのペテルブルクでのパーティ三昧の様子を省略していることなど、複数の要因から原作とは異なるオネーギン像に進化を遂げたものと考えられる(加えてオペラ版の影響もある)。しかしオネーギンのタチヤーナの扱いや、オリガにちょっかいを出す2幕の行動は、自惚れの強い若者のそれであり、成熟した男性像との間に乖離が生じる。この差異をどう料理するかが、オネーギンを踊るダンサーの課題であり、見所でもあるだろう。これについてはマニュエル・ルグリ、イリ・イェリネク、木村和夫など過去の名演でも見られたように、表現者としての経験に裏打ちされた名人芸で、年齢と行動との矛盾を些細な問題に置き換えるというのが定番の作戦ではないだろうか。
フォーゲルに関しても、2015年の来日公演はこの路線にあったと記憶する。先行してレンスキー役で当たりを取っていたことから、違いを打ち出すことが意識されていたのかもしれない。役をしっかりと作り込んでいた9年前の舞台と比較すると、今回はより自然で、チャーミングなフォーゲルの持ち味の延長線上にキャラクターが形作られており、原作とバレエ版のギャップを埋めるようなオネーギン像であった。現在45歳という年齢を感じさせない若々しさがあり、2幕でタチヤーナに泣かれた際には、苛立つよりもどこか得意げに振る舞う内面の幼さにも説得力がある。手袋を脱いだり椅子に座ったりといった、ちょっとした仕草も曲のタイミングを上手く使い、ジャンプの着地の足音を響かせない等、踊りの質を優先するアプローチが随所に観られ、それら一つ一つが、洗練されたマナーを身につけているオネーギンの人物像に結びついていた。
フォーゲルに関しても、2015年の来日公演はこの路線にあったと記憶する。先行してレンスキー役で当たりを取っていたことから、違いを打ち出すことが意識されていたのかもしれない。役をしっかりと作り込んでいた9年前の舞台と比較すると、今回はより自然で、チャーミングなフォーゲルの持ち味の延長線上にキャラクターが形作られており、原作とバレエ版のギャップを埋めるようなオネーギン像であった。現在45歳という年齢を感じさせない若々しさがあり、2幕でタチヤーナに泣かれた際には、苛立つよりもどこか得意げに振る舞う内面の幼さにも説得力がある。手袋を脱いだり椅子に座ったりといった、ちょっとした仕草も曲のタイミングを上手く使い、ジャンプの着地の足音を響かせない等、踊りの質を優先するアプローチが随所に観られ、それら一つ一つが、洗練されたマナーを身につけているオネーギンの人物像に結びついていた。
バデネスのタチヤーナは、感受性の強さを全面に押し出した役作りが成功していた。鏡を見て驚くシーンでは、ビクッと肩をすくめる仕草を音のタイミングからわずかに遅らせることで強調したり、2幕のソロでは胴よりも後方に腕を投げ出すなど、クラシック・バレエのラインが崩れることを厭わない踊りが、タチアナの混乱した感情を表していた。グレーミン役のロマン・ノヴィツキーは舞台に登場するだけで目を惹く存在感があるダンサーだが、3幕のタチアナとのパ・ド・ドゥではサポートに徹するなど助演としての役割も上手い。オリガとレンスキーの二人は高い技術を身につけたポテンシャルの高いダンサーではあるが、ポーズごとに動きが止まってしまうなど、クランコの振付には苦戦しているようであった。コールドバレエは踊りのスタイルにばらつきがあり、1幕後半の見せ場を盛り上げきれない部分もあったが、それを補ってベテラン勢が高い集中力で物語を牽引していた。各場面においては、1幕ラストの鏡のパ・ド・ドゥが、クランコの振付としては、類を見ないほどオフ・バランスを効かせ、迫力満点であった。飛び込んできたバデネスをフォーゲルが片手で抱えてぐるりと回すシーンは、バデネスが回転に入る前に頭を傾けることで更に勢いが増す。前半から中盤にかけての疾走感が強烈だったため、タチヤーナが立った姿勢でリフトされるポーズがクライマックスとして印象付けられなかったが、とまれダイナミックなシークエンスはタチアナの高揚感を的確に捉えていた。変化を恐れず作品の可能性を探求することは、名作を長く生かし続ける重要な要素であろう。素晴らしい舞台に、大入りの劇場から拍手喝采が送られた。
(隅田 有 2024/11/02 14:00 東京文化会館大ホール)