October 28, 2024
東京バレエ団『ザ・カブキ』
東京バレエ団が代表作『ザ・カブキ』を6年ぶりに再演した。主演は、柄本弾と秋元康臣、そして今回、宮川新太が由良之助役を披き、トリプルキャストで上演された。秋元が由良之助を務めた2日目の舞台を報告する。
モーリス・ベジャールが1986年に東京バレエ団に振付けた本作は、歌舞伎の『仮名手本忠臣蔵』をフレームワークとして用いているが、ヨーロッパの騎士道物語として読み替えることも可能だろう。現代の若者が突然現れた不思議な刀に導かれて過去にタイムスリップし、円卓の騎士ならぬ大星由良之助として討ち入りへと突き進む。晴れて高師直を討ち取ると塩冶判官の亡霊が現れ、師直の首を持ち去っていくが、この展開にもヨーロッパの神話や民話に登場する魔術的な要素が感じられる。過去と現在、西洋と東洋がマトリックスを構成しており、由良之助役は演じ手の国籍を問わない。すなわち日本人が由良之助を務めるということも、マトリックスの座標の決定に影響を及ぼす項目の一つと考えられる。
さてその注目の舞台であるが、本年の舞踊公演を代表する素晴らしい出来栄えであった。秋元は、軸のぶれないピルエットや、深いプリエで止まる高い技術力に加え、足の裏で掴むように床を使うことで緻密さと力強さを強調し、流れのあるムーヴメントでも、一つ一つのステップをはっきりと見せる。ポーズに入った後にさらに上半身を伸張させるなど、上半身の可動域の広さを生かしたダイナミックな表現は、一幕ラストの長丁場のソロで特に生かされていた。
顔世御前は近年メキメキと実力をつけている榊優美枝。脚を高く上げる際にも体幹のコントロールがあり、動きの繋がりが美しい曲線として浮かび上がる。白塗りの顔をわずかに傾けて哀しみを表し、摺り足で舞台を横切る際の高い集中力に凄みを感じさせた。大塚卓のノーブルな塩冶判官と、鳥海創のアクの強い高師直は、それぞれの個性が生きる配役。松の廊下の場面では、二人の演技の掛け合いが化学反応を起こし、まるでセリフが聞こえてくるかのような緊迫感が漲った。井福俊太郎は柔軟さを生かした飄々とした風情で一癖ある伴内を踊り、おかる寛平は、足立真里亜と樋口祐輝が刃傷事件に運命を翻弄される人間の悲劇を、現代のおかると寛平を踊った安西くるみと山下湧吾が作品のスパイスとなる明るさを、それぞれ表していた。直義は岡��司が、討ち入りのシーンのヴァリエーションは岡崎隼也と池本祥真が踊った。出演者は総じて、振付に込められた意図を引き出すことに成功し、個々の持ち味と結びつけることで役を体現していた。
（隅田有 2024/10/13 東京文化会館大ホール 14:00）
