August 20, 2024
第17回世界バレエフェスティバル全幕特別プロ『ラ・バヤデール』
三年に一度の世界バレエフェスティバル、今回のオープニングを飾ったのは、マカロワ版『ラ・バヤデール』。27日はロイヤル・バレエ団のプリンシパル、マリアネラ・ヌニェスとリース・クラークが主演した。
1980年にマカロワ本人の主演で、アメリカン・バレエ・シアターが初演した本作は、ニキヤの死までを1幕におさめ、2幕が「影の王国」、3幕はソロルとガムザッティの結婚式および屋台崩しという構成である。「影の王国」ではクラシック・バレエの様式美をたっぷりと見せつつ、1幕や3幕では20世紀中盤以降の物語バレエのスタイルも取り入れられており、踊りとストーリーが同時に進行する箇所が多いのがマカロワ版の特色とも言える。婚約式序盤の壺の踊りや太鼓の踊りをカットし、ブロンズ・アイドルのソロは3幕冒頭の誰もいない寺院に移動させるなど、ストーリー展開に整合性が意識されている点も現代的だ。ロイヤル・バレエ団のドラマティックなレパートリーを踊り込んできたヌニェスは、このマカロワ版の特色を体現するのにふさわしいダンサーである。1幕のパ・ド・ドゥは、オーソドックスなプティパの振付に、オフバランスのアラベスクやリフトが追加されているが、ヌニェスは回転の際に頭を傾けたり肘をリラックスさせたりと、まるでマクミラン作品を踊っているかのようにダイナミックに表現する。婚約式のソロでは、アティテュードからアラベスクに至るラインをはっきりと見せる、強靭な軸を生かしたバランスなど、技術面でも見応えがあった。ヌニェスの踊りのスタイルは1幕と3幕では効果抜群だったが、欲を言えば2幕では、あとわずかにクラシックに寄せたスタイルで踊る選択肢もあったかもしれない。「影の王国」は、純クラシックの様式をソリッドに仕上げた、東京バレエ団の踊りに圧倒された。
リース・クラークは、本作のソロルを踊るのは今回が初という。長身で押し出しがよく、持ち上げる際に力みを感じさせないスムースで安定感のあるリフトが素晴らしい。ガムザッティはベテラン上野水香が初役で挑んだ。宮川新大は高度なテクニックもなんのその、すっきりと肩の力を抜いた美しいブロンズ・アイドルであった。ハイ・ブラーミンに安村圭太、マグダヴェーヤに岡崎隼也とキャラクテールの配役も豪華だ。「影の王国」では、斜面を降りてきたコール・ド・バレエが出揃った時点で、曲の途中ながら大きな拍手が湧いた。
(隅田 有 2024/07/27 15:00 東京文化会館)