October 23, 2012
東京バレエ団『オネーギン』30日
2010年5月の初演から2年ぶりの再演となった『オネーギン』。初日と3日目に吉岡美佳・エヴァン・マッキ―、中日に斎藤友佳理・木村和夫という2組のペアが主演した。今回は、3日目の模様を報告する。
吉岡美佳は、内気で夢見がちな少女から、凛とした品格を備えた公爵夫人へと変貌を遂げる役柄を丹念に表現した。この日は、心情の機微が、彼女の「視線」からも大いに感じ取られ、初恋の高揚や戸惑い、失恋の悲哀や再会の懊悩などが、目の動きやその強弱で精緻に描かれた。揺れ動き、せめぎ合う心の振幅を全身全霊で引き受け、昇華させてゆく姿には心を打たれた。ただ一方で、技術面では、回転に若干の不安が残り、その都度、物語の流れが寸断してしまったのは残念であった。
エヴァン・マッキ―のオネーギンは、登場の瞬間から、田舎の人々とは全く異質な存在であることを印象付ける、洗練された佇まいが際立っていた。タチヤーナを自然とエスコートする所作や、そっと頬に触れる仕草など、女心をくすぐるような振る舞いもスマートで、冷酷な中に影のある色気を醸し出していた。マッキーは、上半身の使い方が非常にエレガントで、身体の美しい見せ方を熟知している。長い手足を生かしたしなやかなラインが、役柄の表現を一層豊かなものにした。
長身の2人が踊るパ・ド・ドゥには迫力があり、マッキーの安定したパートナリングに、吉岡も終始、安心して身を委ねているように感じられた。第3幕では、リフトが十分に上がり切らず、音に遅れてしまいそうになる場面もあったものの、集中力は最後まで途切れることがなく、鬼気迫る感情の応酬が繰り広げられた。
オリガを演じたのは小出領子。可憐さと若さ故の浅はかさが共存し、クリアなテクニックや軽快な身のこなし方が、性格描写に説得力を持たせた。第1幕のレンスキーとのパ・ド・ドゥには、デヴェロッペからアラベスクへと繰り返されるシークエンスに、まるで何度も愛を囁き合っているかのような瑞々しい味わいがある。
レンスキーには、マライン・ラドメーカーの降板によりアレクサンドル・ザイツェフが登場。序盤は、少々踊りに硬さやぐらつきが見られたが、第2幕のソロでは、しなるようなアラベスクで嘆きを強調し、悲痛な最期を予感させた。小出とのバランスも良く、恋人同士という設定に相応しい。
一昨年にタイトルロールを演じた高岸直樹が、紳士的な包容力に富むグレーミン公爵を好演。群舞もフォーメーションが美しく、動きも揃っており見応えがあった。後は民族舞踊風の踊りに泥臭さや気骨が加われば、クラシカルな動きとの差異が明確になり、舞台に更なる重厚感が増すであろう。同演目が、バレエ団の誇れるレパートリーであることを改めて証明してみせた公演であった。(宮本珠希 2012/9/30 15:00 東京文化会館大ホール)