December 02, 2020


小林和加枝ダンス展で、ていねいに仕上げられた現代舞踊の小品3本を見た。最初の『Energy』は、熊木梨乃の振付。高橋ゆかり、栗原理佐子、澤琴音と共に熊木が中心を踊った。彼女は小林門下。歯切れの良い動きが印象的な踊り手だ。その良さを芯に据え、踊りの楽しさをストレートに見せた佳品だった。
 
次の『こ木・こ木・こ木の…』は、小林和加枝が2011年のザ・ネリマ現代舞踊展で初演したもの。小林は、荻野陽子、荻野直子、武井良江に動くところをすっかり任せきり、武田晴子デザインの樹齢を経た大木を思わせる衣裳を身につけ、背を向けて中心に立ちつくす。タイトルの「こ木」のところに「古木」「枯木」「孤木」の漢字をあてはめると、これが深い森の景色であることがはっきりする。しかし小林は、そのあたりに何の細工も施さず、ひたすら老木を演じきった。
 
小林和加枝の師は、志賀美也子のところから巣立った塩穴みち子だ。塩穴は自分の世界にこもり、身辺の様子をこと細かに描くタイプの舞踊家だった。観客の理解を得ることにはあまりこだわらず、自分の詩の追求に専心したので「難解」と言われることが多かった。しかしひとたび、彼女の世界に引き込まれてしまうと、どこまでも奥へ奥へと共に進むことになる。小林は、塩穴のそのようなところを引き継いでいるのかもしれない。『こ木・こ木・こ木の…』は、ふとそんなことを思い起こさせる作品だった。明快な仕上がりの『Energy』の次に上演されたせいで、その創作の姿勢がいっそう強く印象付けられたような気がする。
 
最後は『一通の手紙』だった。小林和加枝の振付を中村友美門下のベテラン幕田晴美、小林門下の荻野陽子、荻野直子、高橋ゆかり、熊木梨乃の5人が踊った。それぞれのダンサーに個性を生かした動きを与え、五つのソロが同時に進行するような状態を作り上げ、そこに小さなドラマを潜ませた。ここに「難解」はなく、観客はしっかりと構成された踊りを見た満足感を胸に、晴れやかに家路につくことができた。

(山野博大 2020/11/6 川口総合文化センター リリア 催し広場)

jpsplendor at 21:55舞台評短評

November 29, 2020


山本裕が新作『Night Parade』で芸術祭に参加した。無線機の発するようなとぎれとぎれの無機的な音が響く中で踊りが始まる。ストーリーはなく、1時間を動きで埋めつくした。山本は、京都の水谷みつるのところから石井みどり・折田克子へと進み、今では現代舞踊界有数の男性ダンサーのひとり。彼がここで使った動きは新しい時代の中からにじみ出てきたものであると同時に、日本の現代舞踊が長い時間をかけて積み上げてきた歴史を感じさせた。山本は、石井漠の系統を超えて江口隆哉、芙二三枝子らのアーカイブ作品などでも主要パートを踊れる蓄積を持つダンサーだ。

有路蘭、飯塚友浩、近藤みどり、鈴木遼太、藤村港平、船木こころ、南帆乃佳、脇坂優海香を、まずたっぷり動かし、彼自身と船木こころがそれそれ主要パートを踊り、さらにデュエットになる。サキソフォンの即興的な演奏も加わり。激しい起伏を伴う作品の核心が出現した。『Night Parade』はていねいに動きを選び、それを地道に盛り上げて行くことで、今の時代そのものを舞台上に出現させた佳品だった。

(山野博大 2020/11/4 座・高円寺2)

jpsplendor at 17:00短評舞台評

藤間蘭黄が、創作舞踊『徒用心(アダヨウジン)』〈セビーリャの理髪師〉と『禍神(マガカミ)』〈ファウスト〉の再演により《日本舞踊の可能性》を広げるための公演を行った。

モーツァルトのオペラ『セビーリャの理髪師』を翻案した『徒用心』は、2012年11月の第18回蘭黄の会で初演。台本を河内連太が書き、蘭黄の振付・主演で、五耀會のメンバーの協力出演を得ての上演だった。しかしその振付は、蘭黄の弟子の女性たちを使ってまず創り、それを五耀會のメンバーに移して初演の幕を開けたのだった。今回は、かつて最初に稽古場で『徒用心』を踊った女性たちの出演により再演を果たした。

アルマヴィーヴァ伯爵(藤間蘭翔)とロジーナ(花柳楽彩)をめぐる、髪結いフィガロ(花柳喜衛文華)らの大騒ぎを、色違いの衣裳を着た5人の女性舞踊家が達者に演じた。ナヴィゲーター役の桂吉坊(落語家)が開演前に内容をていねいに説明したばかりか、公演パンフレットにもストーリーを詳細に記し、ことの顛末を観客に伝えることに万全を期した上での上演だった。しかしそこまでやっているにもかかわらず、元のオペラになじみのうすい日本舞踊の観客には、入り組んだ人間関係のおかしさが完全に通じていなかったのではあるまいか。女性舞踊家5人の動きのやりとりのおもしろさを楽しむ段階で満足していたような気がする。

舞踊で複雑なストーリーを語ることは、なかなか難しい。だから日本舞踊は三味線伴奏の語りで成り行きを説明する。この『徒用心』もそうしているのだが、初めての場合はなかなか歌詞を聞き取れないものだ。だから、再演を重ねて、観客に慣れてもらわなければならない。この『徒用心』は、動きのおもしろさは十分に出来ている。何度も上演して観客の心にストーリーを焼き付けて行くうちに《日本舞踊の可能性》が拡がり、海外の人たちにも理解してもらえる演目になると思う。

『禍神(マガカミ)』は、ゲーテの長編「ファウスト」を藤間蘭黄が一人芝居に仕立て直し、2008年に中村梅玉が踊った。今回は蘭黄自身が、ファウストの多くの登場人物のすべてを一人で演じた。杵屋勝四郎の作曲・作調、藤舎呂英の作調で筋書を流し、ファウストの数奇な行状を手際よく伝えているのだが、一回聞いただけでは複雑なストーリーをなかなか理解できない。紫綬褒章受章が報道されたばかりの蘭黄の、多彩な動きのおもしろさに目を瞠るうちに幕が下りてしまう。このソロ作品も、再演を重ねて観客に十分に慣れてもらう必要がある。《日本舞踊の可能性》を広げて行くのは、なかなか大変だ。

(山野博大 2020/11/3 浅草公会堂)

jpsplendor at 16:50舞台評短評

舞踊作家協会の連続公演第213回《時空を超えて世界を巡る》では、大谷けい子が芸術監督を務め、歌と踊りを組み合わせた舞台を創り観客を楽しませた。彼女は、中国発の現代舞踊である鳳仙功舞踊の技術を身につけて舞踊界に登場したキャリアの持主。大鳳真陽振付の、中国風の大きな扇を使った女性トリオ『宇宙の樹』、譚嗣英の滑稽な振付を鈴木恵子が巧みに踊った『猪八戒』、鳳仙功出身の鈴木彩乃が自身振付けて踊った格調高い女性ソロ『永花』などを並べ、日本の現代舞踊と一味違う世界を披露した。その他に雑賀淑子振付のバレエ『アラビアの踊り』、渡邊美紀振付の子どものための踊り『さぁ、不思議の国へ…Hurry up』も加え、舞踊にはさまざまな世界があることを示した。

そして最後を大谷けい子振付の、和風を混ぜ込んだ色模様『内藤新宿色模様』で締めくくった。これは遊び人の亀三郎(西川箕乃三郎)を争う3人の女、お倉(大谷けい子)、小まん(曲沼宏美)、小梅(花柳奈光)の競演。津軽三味線の演奏が、派手な衣裳の3人の踊りをひき立てた。

(山野博大 2020/11/1 テイアラこうとう 小ホール)

jpsplendor at 16:22短評舞台評

November 22, 2020


新国立劇場バレエ団が、アレクセイ・ファジェーチェフ版『ドン・キホーテ』を、4年ぶりに再演した。この5月に新型コロナ感染が広まったために中止にした『ドン・キホーテ』を、新任の吉田都芸術監督が、5か月後に復活上演したのだ。

新国立劇場バレエ団が『ドン・キホーテ』を最初にとりあげたのは1999年3月で、それを吉田都はアンドレイ・ウヴァーロフを相手に踊った。以後、新国立劇場バレエ団はこの作品をたびたび上演し、私は酒井はな/小嶋直也(2000年3月)、宮内真理子/イルギス・ガリムーリン(2000年3月)、宮内真理子/小嶋直也(2002年5月)、寺島ひろみ/デニス・マトヴィエンコ(2007年7月)、寺島ひろみ/山本隆之(2009年10月)、米沢唯/福岡雄大(2013年6月)、木村優里/中家正博(2016年5月)と見た。そして今回は小野絢子/福岡雄大の24日を見ることにした。

ファジェーチェフ版の第1幕“バルセロナの広場”はにぎやかで踊りたっぷり。キトリの友人役の奥田花純と飯野萌子が街の人々を演ずるコール・ド・バレエと共に広場の空気を活気づけたところへ、小野のキトリがさっそうと登場して雰囲気を盛り上げる。

エスパーダ(木下嘉人)の登場、キトリとバジルのカップルにドン・キホーテ(貝川鐡夫)と田舎貴族のガマーシュ(奥村康祐)がからむところなど、次々に展開する場面をはっきりと作り分け、しだいに調子を上げて行った吉田都のていねいな舞台づくり、それに同調して曲想を自在にコントロールした指揮者の冨田実里の働きが、第1幕“バルセロナの広場”のにぎわいぶりを観客にくっきりと印象付けた。

キトリとバジルが逃げ出し、それをドン・キホーテとサンチョ・パンサ(福田圭吾)、キトリの父親のロレンツォ(福田紘也)とガマーシュが追って、居酒屋のシーンとなる。この場ではまず緩やかなテンポの朝枝尚子のカスタネットの踊りで、夕闇迫る街のはずれにある酒場の落ち着いた情景を見せる。そこでバジルの狂言自殺があり…。

ドン・キホーテがジプシーの居留地で一騒動起こした後、優美な“夢のシーン”となる。このあたりもさまざまに踊りを組み合わせ、場面の変化を楽しませた吉田の演出意図がはっきりと表れたところだ。ファジェーチェフ版は、公爵の館でのキトリとバジルの結婚式に出席したドン・キホーテとサンチョ・パンサが、次の冒険の旅へ出発するところであっさり幕を下ろす。

小野のキトリは動きの切れが良く、歴代のキトリと比べても出色の仕上がり。吉田新芸術監督の個々の踊りを大事に扱う演出の意図が随所にあらわれたファジェーチェフ版『ドン・キホーテ』再演だった。

(山野博大 2020/10/24 新国立劇場 オペラパレス)

jpsplendor at 14:46舞台評短評
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