November 07, 2021
(隅田 有 2021/11/06 東京文化会館大ホール 14:00)
November 02, 2021
ツアー前半では、ジル・ロマン振付『人はいつでも夢想する』、ベジャール振付『ブレルとバルバラ』および『ボレロ』の3作が上演された。芸術監督のロマンは2017年の前回の来日公演に引き続き、振付家としての実力を示した。ジョン・ゾーンの曲を使い、映像も用いた『人はいつでも夢想する』は、どこか能を思わせる構成で、ワキのような位置づけの青年(ヴィト・パンシーニ)のもとに、シテのようなミステリアスな女性(ジャスミン・カマロタ)がやって来て、インスピレーションが万華鏡のように展開していく。振付に対して音楽の主張が若干強い部分もあるにはあったが、出演者の個性が生きる振付で、BBLのダンサーの持ち味が観客に良く伝わる作品だった。中性的でしなやかな脚を持つリロイ・モクハトレや、無駄を削ぎ落とした踊りで振付の核心を付く大貫真幹は、とりわけ素晴らしかった。続いて全編としては日本初演の『ブレルとバルバラ』と、来日公演の定番『ボレロ』が上演された。『ボレロ』のメロディはエリザベット・ロスで観た。強さ、恐ろしさ、エロティシズムの全てが、2017年のパフォーマンスを上回っていた。
(隅田有 2021/10/10, 2021/10/17 東京文化会館大ホール 14:00)
September 07, 2021
国内外で研鑽を積む10代の踊り手から、プロの道を歩み始めた新進ダンサー、そしてトップ・プリマに至るまでが集結した《BALLET AT A GATHERING》。主催者である末松かよは、エカテリングルク・バレエ団を経て現在は後進の指導に当たっており、本公演も、出演者や観客に「夢を持って進んでほしい」という彼女の強い想いから実現。プロフェッショナルへの途上であるメンバーが半数以上を占める中でも、各々が美質を存分に発揮し、未来へと繋がる一夜となった。
1部の幕開けは、梅野ひなた(ボリショイ・バレエ・アカデミー/スコレーバレエアート)、石川瑛也(ドレスデン・パルッカ・ダンス大学/スコレーバレエアート)、藪内暁大(サンフランシスコ・バレエ・スクール/ルニオンバレエ)による『フェアリードール』。バランスの良いキャスティングで、時折織り交ぜられる人形振りやユーモラスなマイムも決して大仰ではない。それぞれが役柄を理解しつつも、クラシックの様式を逸脱しない端正な踊りと息の合った掛け合いで舞台の熱量を高めていた。
このパ・ド・トロワを皮切りに、『ライモンダ』第2幕のヴァリエーションで陽性の魅力を引き出した藤本葉月(ヨーロピアン・スクール・オブ・バレエ/アイコ・シーマンバレエスタジオ)、同作第1幕のソロとコンテンポラリー作品『RE-collection』の双方から自身の多彩な身体言語を示した大町こなみ(ドルトムント・ジュニア・バレエ団/スコレーバレエアート)、『ジゼル』第2幕のヴァリエーションでノーブルな身のこなしと豊かな心情表現を見せた森本晃介(田中バレエアート)など、有望株による綿密に練り上げられたソロやパ・ド・ドゥがテンポよく続いてゆく。
そして、2部冒頭に『コッペリア』第3幕のグラン・パ・ド・ドゥを踊ったのは山田ことみ(アメリカン・バレエ・シアター・スタジオ・カンパニー/ヤマダチエサニーバレエスクール)と萩本理王(ヨーロピアン・スクール・オブ・バレエ/山本紗内恵バレエスクール)。山田は、強靭なテクニックと押し出しの良さが際立ち、高く軽やかなジャンプや安定感のある回転に加え、自身から醸し出される溌剌とした雰囲気がスワニルダに適役だ。対する萩本も、音楽と調和した伸びやかなシークエンスが心地よく、踊る喜びに溢れたふたりの化学反応を堪能した。
また、『眠れる森の美女』第1幕よりローズ・アダジオのヴァリエーションを踊った田中月乃(チューリッヒ・タンツ・アカデミー/YOKOクリエイティブバレエ)が、初々しさと気品を兼ね備えた佇まいやラインの美しさに加え、音楽をたっぷり使ったバランスや回転数の多いピルエットもこれ見よがしではなく、流れの中で自然に取り入れていたことも印象深い。続く江見紗里花(プリンセス・グレース・アカデミー/橋本幸代バレエスクール&Jr.co)による『サタネラ』も、ひとつひとつのパが丁寧で、そのコケティッシュな表現からも将来性を感じさせた。
ゲストとして登場した二山治雄は『ブルージュの大市』『エスメラルダ』のソロを披露。とりわけ前者においては、持ち前の柔らかなムーヴメントがブルノンヴィル作品に不可欠な浮揚感に結びつき、正確無比なステップや鮮やかなバットゥリー、跳躍の際に空中に描かれるポーズの造形美が出色であった。
『白鳥の湖』とウヴェ・ショルツ振付『ソナタ』で1部、2部ともにトリを飾ったのは中村祥子とヴィスラフ・デュデック。登場の瞬間から空気を変えるほどの圧倒的な存在感はこの日も健在で、特に『白鳥…』第2幕のグラン・アダジオでは、細部に至るまでの研ぎ澄まされた動きがいっそう円熟味を増し、観客を一気に物語へと引き込んだ。
今回の舞台を通して、出演ダンサーも観客もインスピレーションを感じ取ったのではなかろうか。終演後には、来年の開催も告知され、清々しい気持ちで会場を後にした。無限の可能性を秘めた踊り手たちに再び出会えることを心待ちにしたい。(宮本珠希 2021/8/6 長岡京記念文化会館)
August 18, 2021
2009年の世界フェス特別プログラムに主演した直後からスターダムを駆け上がっていったダニール・シムキン(アメリカン・バレエ・シアター他)は、バレエのお手本のような丁寧な踊りで、パトリス・バール版『白鳥の湖』第1幕の王子のソロを踊った。他にオニール八菜とマチアス・エイマン、アマンディーヌ・アルビッソンとマチュー・ガニオの2組のパリ・オペラ座勢や、ボリショイバレエのマリーヤ・アレクサンドロワとヴラディスラフ・ラントラートフ、オリガ・スミルノワ(ボリショイ・バレエ)とウラジーミル・シクリャローフ(マリインスキー・バレエ)、エカテリーナ・クリサノワ(ボリショイ・バレエ)とキム・キミン(マリインスキー・バレエ)が舞台を盛り上げ、客席からは大きな拍手が湧いていた。
本公演ではさらに、海外でプリンシパル・ダンサーとして活躍する、菅井円加(ハンブルク・バレエ団)と金子扶生(英国ロイヤル・バレエ団)の2名の日本人ダンサーが出演した。世界フェスに出演する東京バレエ団以外の日本人ダンサーとしては、1991年の坂東玉三郎と、1994年から3回連続で出演した小林十市以来である。菅井はアレクサンドル・トルーシュをパートナーに『パーシスタント・パースウェイジョン』(振付ノイマイヤー)を踊り、心を揺さぶるような強いエネルギーと、研ぎ澄まされた無駄のない動きで観客を圧倒した。ワディム・ムンタギロフと『マノン』の寝室のパ・ド・ドゥを踊った金子は、ポアントで歩く一歩一歩にも魅力が溢れ、マクミラン独特のスリリングなオフ・バランスを、善人も悪人も惹きつけてしまうマノンという役柄と見事にリンクさせていた。世界フェスでは1991年以降『マノン』の第1幕もしくは第3幕のパ・ド・ドゥが毎回上演されているが、金子は過去の様々なダンサーの名演技と比べても一段と素晴らしかった。第2部の『マノン』から、アレッサンドラ・フェリ(英国ロイヤル・バレエ団他)とマルセロ・ゴメス(ドレスデン・バレエ)の『ル・パルク』に続く中盤流れは、今回の公演のクライマックスであった。