October 04, 2010

薔薇の人 黒沢美香・高野尚美編 『南国からの書簡』

黒沢美香のソロダンスシリーズ《薔薇の人》に今回は彼女の30年来の友人である高野尚美が加わった。満を持して、二人で踊るタイミングが「律儀にきた」というだけあって、むせかえるような強烈な個性をぎらぎらと出し合って、とんでもなく楽しい作品に仕上がっていた。

二人とも小柄で、襟にリボンのついた白ブラウスに紺の半ズボン、そして白いハイソックスというヨーロッパの寄宿学校にいる少年のような格好をしている。それなのに顔は白塗りで目張りがきつくて老けて見え、少年のようなカツラは顎に白いゴムで固定されていて、首から上と下のギャップに笑ってしまう。

手前中央に小箱があり、後ろから二人が馬跳びや組み体操のような大仰な振りで前に出てきておもむろに蓋をあける。中には、あこがれの南国に住む大好きなおじさんからの手紙やら、カーニバルのときに腕に付ける派手なフリフリやら、卵やらが入っていて、一つずつ取り出すことで、場面が変わる。それらを大事そうに愛でながら、二人はたんたんとステップを踏む。南国でバナナを食べることをどれだけ楽しみにしているか、正座をして大真面目におじさんへの手紙を読み上げたり、「やっちまった!」と可愛らしく叫んだり、黒沢が高野の背中に立って飛び降りる時に「はいっ!」と小さく言ったり、少ない台詞が効いている。

観客は開幕と同時に二人の不思議な雰囲気に魅了され、愛着を感じて、終始微笑みながら見守った。「美香さん、ちょっとカツラがずれちゃってますよ」「尚美さん、目張りが怖くて少年じゃなくなってます」等々のつっこみを心の中で入れながら。愛すべき二人の最強タッグ。新作が待ち遠しい。(吉田香 2010/09/28 19:30 日暮里d-倉庫)


jpsplendor at 16:49舞台評 
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