September 15, 2019


舞踊公演の音響スタッフとして働いてきた山本直が、現代舞踊の小品を並べた《DANCE夢洞楽》という公演を主催するようになったのは、2000年から。山本が自分の好みで出演者を選ぶ。現代舞踊家が独自に公演を行い作品を発表する機会がしだいに少なくなってきた昨今、今の時代の現代舞踊に手軽に接したい観客で、客席はいつも満員になる。

舞台と客席が高い天井の下でゆったりとひとつになった北沢タウンホールの緩やかな空間で、12作品が上演された。上田チカが新井杏佳と踊った『きみの隣で』から始まった。上田は昨年の《夢洞楽》にも『ショコラ』というかわいらしい作品を出したが、今回の少女っぽい衣裳のふたりの優しい掛け合いも、同じ質感だった。『春は廻る』を作った奥木愛子は、旗野恵美の門下。同門の小峰慶子、佐藤珠美、比留間晴子、中本鉄也、林敏秀と共に日本的な自然の巡りをしっかりと表現した。『哀しくて悔しくて悲しくて』は小林えり自作自演のソロ。昨年の『月明かりに導かれて』に続く登場で、余裕を感じさせる舞台さばきが印象に残った。さとうみどり・上野奈初美の『風が吹く』は、両人共作の女性デュエットだった。しかし、それぞれに自分を前面に押し出して踊るところは、ふたつのソロを同時に見ているような感じ。《夢洞楽》常連のさとうと初登場の上野の質の違う動きの同時進行がおもしろかった。平垣多以子の『祓祭』は、彼女自身が鹿野郁子、嶋井洋子、杉浦まり子、橋本里奈、平城慶乃、山崎真紀、山路由起子の7人を従えて踊った群舞作品。平垣は2013年の『そっと入ってくるもの』以来久々の登場で、舞台に立つことを楽しみつつ全体をリードした。『蟲』は柴野由里香が振付けて、東伊都美、山田愛子と踊ったトリオ。井上恵美子門下の柴野は、3人のマッスを解き放って自然の生態を繊細に表現した。

『沈黙の声』のBLUE MOMENTは、20年くらい前に工藤貴子が立ち上げたダンス・グループの名称だ。17年の《夢洞楽》の『はてのない蒼色の空に』、18年の『Roots』に続き、今回も福田かよ子、佐藤里緒とのトリオで登場した。白い衣裳の3人が、センターの赤いサスペンション・ライトにからんで、人間心理の綾をさまざまに表現した。『氷霜の冬に漂泊う』は山内梨恵子自作・自演のソロ作品。音楽構成を山本直がやっている。昨年のソロ『遠ざかっていくあなたを』もそうだったが、二見一幸の門下らしく切れ味の良い動きが見せ場となった。小林祥子& Pega Aの『Mobius loop』もトリオ。小林の振付を戸塚幸恵、五十嵐由希子と踊った。16年の『ながれたり〜賢治の自然より』、17年の『浄歌〜ゆらぐ花〜』に続き、自分の型を持った振付者として一歩を進めた感じ。『望郷』を作自演した梢ま紀は《夢洞楽》スタート時からの常連として、今回もしっとりと落ち着いたソロを披露した。年齢を重ね無理のない動きの流れに磨きがかかった。花村愛子の『kala-記憶の彼方へ』は池田遼とのデュエット。花村は長く二見一幸が主宰するカレイドスコープの舞台で踊り、《夢洞楽》へは15年の『秘密』以来、たびたび登場して切れ味の良さを示してきた。今回は男性と組み、技を超えた独自の世界を目指した。神永宰良は、福島でジャズダンスのカンパニーを主宰。《夢洞楽》で自作を上演したのは、10年の『おいらは、ドラマー!』が最初だった。今回の『NOISE〜どれもこれもあれも〜』は、曾田もえ、金賀芙美、岩永弥那美、川井彩冬、高橋志菜、中田瑞歩、渡部芹璃、門間春菜、大波優月、鯉渕美安を従えた群舞。いきなり客席へ声をかけたりする気のおけない進行だったが、別のところでは、そこに社会へ向けたメッセージを込めることもある社会派の一面も持つ舞踊家だ。

さまざまなタイプのダンスを集めた山本直の《夢洞楽》は、今回も大入り満員の盛況だった。

(山野博大 2019/8/7 北沢タウンホール)


jpsplendor at 19:34舞台評短評

ロイヤル・アカデミー・オブ・ダンス(RAD)の第28回サマースクールin東京が開催され、その研修成果を劇場で披露した。

RADは、クラシック・バレエの教授と指導の方法を世界的に統一することを目的として、1920年にイギリスで結成された。ヨーロッパのバレエの技術システムは、フランス派、デンマーク派、ロシア派、イギリス派などが並び立ち、指導の方法にも違いがあった。RADは、バレエ各派のエキスパートを集めて研究を重ね、基本技術の世界スタンダードを作ることを目指した。来年は、結成100年となり、RADのバレエ教授法は世界84ヵ国に広まっている。

日本では、ロイヤル・バレエ・スクールで学んだ小林紀子が呼びかけて、1992年にRAD Japanを立ち上げた。インターナショナル・サマー・スクール in 東京を開催して、RADのシステムを教える人材とそのシステムで踊る子供たちを育成してきた。

例年と変わらず、サマースクール参加者から選ばれた子供たちが元気に登場した。第1部は、クラシック・バレエのテクニックを使った練習曲6本。基本的な技術による振付をピアノの伴奏で踊る。まだ場慣れしていない子供たちの新鮮な印象が舞台に広がった。第2部は、スクールの講師として来日したA・バーネットらの振付6本だった。参加者全員に平均して新しい動きを経験させることを目的とした踊りだ。標準外の動きに懸命に取り組む子供たちの姿が印象的だった。

今回のスクールには、中国、韓国からの参加者もあり、彼らは日本の子供たちと共にひとつのバレエの世界を作った。

(山野博大 2019/8/6 あうるすぽっと)


jpsplendor at 19:10舞台評短評

勅使川原三郎+KARASが本拠のアパラタスで継続的に行っている《アップデイトダンス》シリーズの第65弾は勅使川原三郎振付の『ロスト イン ダンス』だった。このシリーズの舞台はだいたい1週間の開催で、日々改良が加えられる。だから、先に行くほど内容が良くなると考えがちだ。しかし作者にとっての「良い」が、そのまま見る側の「良い」になるとは限らない。私はその初日を見た。

『ロスト イン ダンス』の初演は2018年、キューバとのことだ。今回は、リヒテルの弾くベートーヴェン、シューベルトのソナタで、勅使川原と佐東利穂子が踊った。まず勅使川原のゆっくりとした踊りでスタート。佐東がはなやかな動きでそれに続いた。彼女の動きは、このところいちだんと鋭さを増している。寄り添った勅使川原と佐東が、ひとつの黒いコートの袖にそれぞれが交互に腕を通し、衣裳をリレーしながらリヒテルのピアノと微妙に交錯した。いつもと同じ流れであり、動きの質も変っていない。しかし舞台から受ける印象は、みごとにアップデイトされており、いつもと同じではなかった。

踊ると瞬時に、そこまでの自分は失われる。しかし踊り続けることで、そのまま永遠に生き続けなければならないのが、ダンサーの宿命なのだということを『ロスト イン ダンス』は観客に伝えてきた。

(山野博大 2019/8/5 KARASアパラタス)



jpsplendor at 19:01短評舞台評

September 11, 2019


新国立劇場バレエ研修所による《バレエ・アステラス2019》が、8月3、4日に新国立劇場オペラパレスで行われ、海外で踊る日本人ダンサー11人が一時帰国して新国立劇場バレエ団、同研修所のダンサーたちと舞台を共にした。今回は、別にカナダ国立バレエ学校の生徒4人が招かれており『ラ・バヤデール』より“影の王国”のパ・ド・ドゥと創作バレエ『Three Images of Hope』よりのデュエットを踊って海外のバレエ学校の実力を日本の観客に披露した。私は4日の舞台を見た。

《バレエ・アステラス》は、海外で活躍する日本人ダンサーに、自分の国で踊るチャンスを与えようと新国立劇場バレエ研修所が2009年8月に第1回を行い、今回が第10回記念となる。安達悦子、岡本佳津子、小山久美、小林紀子、牧阿佐美、三谷恭三の6人がアステラス委員として運営に当たる(当初は谷桃子が委員長だったが、2015年に死去)。

牧阿佐美振付の『ワルツ』を新国立劇場バレエ研修所の15、16期生らが踊り開幕。ポール・マーフィー指揮の東京フィルハーモニー交響楽団が演奏するグノーのオペラ「シバの女王」のバレエ・シーンの音楽に乗って、日本バレエの次の時代を担う若者たちが研修の成果を示した。また研修所の男性たち4人が三谷恭三振付の『ヴァリエーション for 4』を元気に踊った。これは2007年の牧阿佐美バレエ団の《ダンス・ヴァンテアン》公演で初演された小品で、ウィリアム・ウォルトンの音楽を使った男性『パ・ド・カトル』。2014年の研修所公演でも上演した。

ハンガリー国立バレエ団で踊る高森美結と森本亮介の『ダイアナとアクテオン』、国立モスクワ音楽劇場バレエの直塚美穂とアリシェイ・カリヴァイの『海賊』第2幕のパ・ド・ドゥと、次々に海外で踊っている舞台そのままを日本の観客に見せた。その中で注目したのは、ウヴェ・ショルツ振付の『天地創造』よりパ・ド・ドゥを踊った、ハンガリー国立バレエ団の石崎双葉とダービット・モルナーだった。特徴のある動きを的確にとらえて、振付者の意図するところを明らかにした。ジョージア国立バレエ団の横山瑠華とディエゴ・ブッティリオーネが踊った『ラ・シルフィード』第2幕よりパ・ド・ドゥも印象に残った。ブルノンヴィルの振付けたロマンティック・バレエの優雅な妖精との交流の模様を鮮やかに見せたのだ。またバランシン振付の『タランテラ』を踊ったワシントン・バレエの宮崎たま子と滝口勝巧の鮮やかな身のこなしにも注目。

最後は、新国立劇場バレエ団の『ドン・キホーテ』第3幕よりパ・ド・ドゥだった。キトリの米沢唯、バジルの渡邊峻郁を芯に、第1ヴァリエーションを奥田花純、第2を廣川みくり(11期研修終了)が踊り、日本バレエの実力を示した。日本人ダンサーの海外での活躍ぶりを見て、日本のバレエの著しい水準の向上を実感した。しかし彼らが日本のバレエ団で踊ることのできない事情を考えると、喜んでばかりもいられない。彼らは向うで踊っていればとにかく生活ができる。しかし日本に帰ってくると給料を払ってくれるバレエ団がないので、生きていくことができなくなってしまう。世界で踊れる実力を持った日本人ダンサーが日本でも踊っていける社会の仕組を、早急に作る必要がある。

(山野博大 2019/8/4 新国立劇場 オペラパレス)


jpsplendor at 23:14舞台評

バレエスタジオDUOの第21回発表会が2日間にわたり行われた。このスタジオは、東京バレエ団で踊っていた田中洋子の主宰。優秀な人材を育てて、あちこちのバレエ団に送り込んできた。そんなダンサーたちが古巣にもどって踊るので、発表会の配役には豪華な顔ぶれが並ぶ。

田中洋子構成・振付による『パティヌール』で幕を開けた。このバレエは、アシュトンがマイヤーベーアの音楽を使って1937年に初演したもので、日本では『スケートをする人々』というタイトルで知られている。しかし田中は、それをデフィレに使って、渡辺与布(3日は柴山紗帆)、檜山和久を頂点とする出演者全員を舞台に勢ぞろいさせた。

発表会で上演される小品の中に、池田理沙子と関口啓が踊る『タランテラ』、池田理沙子、井澤駿、檜山和久が踊る『海賊』のパ・ドトロワといった、見落としたら損という演目が組み込まれているので、舞台から目を離す間がない。そればかりか日原永美子振付の『La Source』という本格的な創作バレエの上演もあった。これは12日に新国立劇場オペラパレスで行われた日本バレエ協会の《全国合同バレエの夕べ》での初演を先取りした舞台だった。谷桃子バレエ団に所属する日原が、バレエスタジオDUOの振付者としても名を連ねている関係で、こんなことが起こったのだ。作品の評価は《全国合同バレエ…》で書く予定だが、日原の代表作と云ってよいほどの舞台を先に見られたという「得をした感じ」があった。

その他にもいろいろあり、最後に『ドン・キホーテ』第1幕が上演されたが、その配役がまた絢爛豪華だった。私が見た日は、キトリ=柴山紗帆(4日は池田理沙子)、バジル=檜山和久(井澤駿)、メルセデス=徳永比奈子(渡辺与布)、エスパーダ=岡田紫苑、ドン・キホーテ=松野乃知、サンチョパンサ=関口啓、ガマーシュ=谷口真幸、ロレンツォ=安楽葵というもの。これだけの顔ぶれをそろえるのは、一流バレエ団でも大変なことだ。サンチョの関口がテクニシャンぶりを披露する場面などもあって、これも「得をした感じ」充分の舞台だった。

(山野博大 2019/8/3 メルパルクホール東京)

jpsplendor at 22:58舞台評
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