February 26, 2021


我らがダンス・タイムズの代表であり、舞踊評論家の山野博大先生が、2021年2月5日に他界しました。享年84。前日にはいつもと変わらぬ様子で笠井叡さんの公演を観ており、本当に突然の旅立ちでした。山野先生はいつまでもお元気で、私達と共に舞台を観て、感動を分かち合い、そして導いてくれると信じていましたので、なかなか事実を受け入れることができません。舞台芸術の歴史や批評のイロハはもちろん、下町の粋や人情、お酒の飲み方まで、私達はありとあらゆる事を先生から学びました。そしてなにより、雨の日も雪の日もバレエでもコンテでも大劇場でも小劇場でも、日本中の舞台に足繁く通い続けたお姿、その舞台について記していた批評を日々目の当たりにしていた私達は、公演を観ること、(美辞麗句を連ねるよりも)そこで何があったかをきちんと書いて後世に伝えることが大切であると身を以て教えてもらいました。もう少し我慢すれば、劇場のロビーでお話したり、編集会議や勉強会をしたり、思いっきり飲んで、笑って…、そんな以前のような楽しい時間を取り戻せると思っていた矢先の出来事だっただけに、悔しくて堪りません。しかし一方で「コロナの騒動があって、余計に舞踊の素晴らしさに気づかせてもらったんだから、良しとしようじゃないの」と先生は微笑んでいるような気もしています。それを表すかのように、昨年は、公演数が少なかったにも関わらず、38編もの批評をダンス・タイムズに遺してくれました。いまはただ、舞踊への愛と情熱に溢れた素晴らしい恩師に巡り合えた幸運に心より感謝しています。

※タイトルは、山野先生がお仲間を悼む際に使っていたものに倣ってみました。

ダンス・タイムズ一同


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jpsplendor at 22:42レポート

December 30, 2020


今年は、三島由紀夫の没後50年にあたる。東京バレエ団が、彼の生涯を描いたモーリス・ベジャール振付『M』を再演した。この作品は1993年7月31日、東京文化会館で世界初演された。舞台の丈を低く抑えて、歌舞伎のような横に拡がる空間を設定し、そこに大勢の青い衣裳の女性ダンサーに仏像のようなポーズをとらせたオープニング。読経のような音が聞こえているが、ダンサーの列が一転して、海の波と化す。三島の「潮騒」を思わせる眺めだ。しかしこの場面は、ベジャールがギリシャの海を往く船上で『M』の発想を固めたためにできたとも言われている。そこへ学習院初等科の制服を着た子どもの頃の三島(大野麻州)が、祖母の夏子に手を引かれて登場し波とたわむれる。三島の人物像は、機Εぅ繊癖阻榁董法↓供Ε法糞楡鄂径隋法↓掘Ε汽鵝塀元康臣)、検Ε掘併燹γ嗚楙与拭砲箸い4人の男性ダンサーが踊る。祖母の夏子が和服を脱ぐと、検Ε掘併燹北鬚涼嗚椶現れる。こうして三島の生涯が絶えず「死」に関わるものであったことをベジャールは観客に伝える。

他に重要な登場人物は、聖セバスチャン(樋口祐輝)と和弓を持った射手(和田康佑)という男性2名。三島が書いた「禁色」「午後の曳航」「鹿鳴館」「鏡子の部屋」と思われる場面が続くが、そこに少年姿の三島、4人の男性ダンサー、聖セバスチャン、射手、海上の月(金子仁美)、女(上野水香)らが登場し、踊りの場面を彩った。

音楽を担当した黛敏郎が、ベジャールの自由な発想の飛躍を、能の囃子、ピアノの演奏(菊地洋子)、ドビュッシー、シュトラウス2世、サティ、ワーグナーなどを気軽に取り込んで助けていた。最後に軍服に身をつつんだ盾の会の面々が登場し、三島は切腹。また海の場面となって『M』は終わる。

ベジャールは2007年に他界しているので、初演に関わった小林十市、高岸直樹、吉岡美佳が指導にあたっての再演だった。周到に仕上げられた舞台から、ベジャールの三島理解、日本の古典芸能の知識の深さが改めて感じられた。ベジャールの傑作を正しく次の時代へつないだ斎藤友佳理芸術監督のバレエ界への貢献は高く評価されるべきだ。

『M』の再演は、10月24、25日に東京文化会館で、11月21日に神奈川県民ホールで行われた。私は10月25日を見て10年ぶりに再演の『M』の奥行きの深さに圧倒された。11月21日の神奈川県民の舞台を見て細部を確認してから、その印象を記した。

(山野博大 2020/11/21 神奈川県民ホール 大ホール)

jpsplendor at 22:43舞台評短評

岩淵貞太が、入手杏奈、北川結、涌田悠の女性ダンサー3人と共に『Gold Experience』を踊った。彼は、室伏鴻のところで踊り、山田うんの作品に出たり、関かおりと共に舞台を作ったりして自分の世界を固めてきた。共演の入手と北川は、桜美林大学で木佐貫邦子に学び、涌田は関原亜子に師事し、それぞれの個性を主張する存在だ。

まず岩淵が半裸に近いかっこうで登場。うめき声を発しながらじわじわと動く。次いで女性陣3人が横一列になり、やはりからだを動かす。以後、岩淵は自身の開発した舞踊言語を順次紹介して行く。男女が一本の棒をつかみ合いながらのデュエットがあるかと思うと、舞台上に張った水面に動きを浸してみたりと、普通の舞台ではあまりやらない場面をいろいろと見せた。

そして、全員がうめき声をあげながら苦しそうに踊るラストへ。最後は舞台後方の水を張ったところへ全員が入り、そこでまたしばらくうごめく。水からあがった岩淵と女性3人が、奇声を発しながら客席へと迫るところで終わる。まず自分の使う舞踊の方法をひとつひとつ示しておいて、それを使って舞台のクライマックスを作り、自分の舞踊はこれだと主張するストレートな物言いが潔かった。

(山野博大 2020/11/20 吉祥寺シアター)

jpsplendor at 22:26短評舞台評

December 26, 2020


松山バレエ団の『くるみ割り人形』は、序曲のところでシュタールバウム家の玄関先の様子が、長い時間をかけてたっぷりと描かれる。クララ(森下洋子)らが外に出てクリスマス・パーティーにやって来る客たちを迎えるのだ。ドロッセルマイヤー(鄭一鳴)もそりに乗って雪道をやってくる。大勢の出演者を使って場面をこしらえることが多い演出・振付の清水哲太郎が、その特長をまず最初の場面で見せた。

クリスマス・ツリーが飾られたパーティー会場は大賑わい。客たちの踊りがあり、ドロッセルマイヤーが、ヨーゼフ人形(本多裕貴)、クラウス人形(垰田慎太郎)、ブリギッテ人形(岡村由美子)を踊らせて子どもたちを楽しませる。ドロッセルマイヤーからくるみ割り人形をもらってクララは大喜び。しかしそのうちにクララは眠くなってしまう。

クララの夢の中で、くるみ割り人形(大谷真郷)と玩具の兵隊たちとねずみの大軍の戦争が始まる。このあたりも清水哲太郎の演出は大勢のダンサーを使い、両者の戦いは一進一退。ついにくるみ割り人形とねずみの王様(垰田慎太郎)の決闘となる。あわやというところで、クララはねずみの王様にスリッパを投げつけ、くるみ割り人形が勝つ。クララと、くるみ割り人形が変身したアマデウス王子は、雪の女王カタリナ(石津紫帆)と雪の天使たち(藤原夕子、鎌田美香、鈴木彩ら)に見送られて玩具の国を目指す。

清水哲太郎版『くるみ…』最後のディベルティスマンでは、大谷真郷の慎重なサポートを受けて森下が大勢のダンサーの中心にぴたりと収まった。河合尚市指揮の東京ニューフィルハーモニック管弦楽団の演奏が、森下の演技のテンポをしっかりとフォローした。

(山野博大 2020/11/15 東京文化会館 大ホール)

jpsplendor at 23:16短評舞台評

伊藤キムと森下真樹が太い赤紐を担いで登場。それを結んで舞台中央に置き、シモ手の伊藤、カミ手の森下が、バイオリンの独奏曲を聞きながら一節づつ踊りをつないで行く。さらにバイオリンのメロディーを口ずさみながら踊る。しだいに現れる即興の歌詞が笑いを誘う。どこまで行っても、さらに次を見たくなるみごとなやりとりだった。

休憩の後、伊藤のチーム6人と森下のチーム5人の群舞となる。長い静止の後に少しづつ動きが現れ、しだいに加速する。みごとな群舞展開だ。しかし前半のデュエットと較べると、どこか物足りない。振付はさらに複雑なものとなり、動きの展開はおもしろさを増して行く。しかし、物足りなさは最後まで解消することはなかった。先に伊藤と森下のやりとりがなく、この群舞だけ見たら、十分に満足したと思うのだが…。

(山野博大 2020/11/13 東京芸術劇場 プレイハウス)

jpsplendor at 22:54短評舞台評
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