December 02, 2019

ダンス・タイムズ編集部が選んだ2019年12月のお勧め公演やイベントをご紹介します。あくまでもメンバー個人の予想に基づいていますので、公演の内容を保証するものではありません。ぜひ、観客の皆さまが劇場へ行ってご確認ください。また、11月20日時点の情報を基にしていますので、日程、出演者、演目等が変更される場合もあります。完売の場合もありますので、事前にご確認ください。

◆名倉ジャズダンススタジオ《Spark x Spark vol.8》
12月6-8日(草月ホール)
◇名倉ジャズダンススタジオは、《CAN’T STOP DANCIN’》という大公演のほかに、2007年から《Spark x Spark》という会を毎年小さな舞台でやっている。ここでは、名倉のジャズダンスの小粋なステップの魅力に間近でお目にかかれる。この公演には”好きなこと やること 生きること”というサブタイトルが付いている。名倉加代子がほんとうにやりたいことを、しかと見届けたい。(山野博大)

◆勅使川原三郎・佐東利穂子『「忘れっぽい天使」ポール・クレーの手』
2019年12月12-15日(シアターχ)
◇コンテンポラリー・ダンスのファンは、往々にして抽象画が好きだ(と思う)。筆者もその一人であり、なかでもパウル(ポール)・クレーはお気に入りの画家であるから、勅使川原三郎がクレーを題材にした新作を上演すると聞いて喜んだ。タイトルの『忘れっぽい天使』は、晩年に病気で手が不自由になったクレーが鉛筆で描いた作品である。その天使に勅使川原は「魂の自由」を感じると言う。画家の商売道具である手の自由を奪われたクレーとその世界を勅使川原はどのように描くのだろうか。(吉田 香)


◆東京バレエ団『くるみ割り人形』
2019年12月13〜15日(東京文化会館大ホール)
◇新制作の『くるみ割り人形』と言えば、設定にひと捻り加えたり、演出に最新技術を駆使したりと、個性的なプロダクションが話題となるが、斎藤友佳理版はむしろ伝統を復刻させる演出・振付となるようだ。装置や衣装はモスクワやペテルブルグのアトリエに依頼し、主役の名前も「クララ」からロシア流の「マーシャ」に変わった。古典作品が再演を繰り返しながら徐々に変化していくのは、作品が生きている証拠であり、バレエという舞台芸術を長年見続ける醍醐味であるが、その後再び原点に戻るというのは比較的珍しい。斎藤の強い信念と研究者としての真摯な姿勢を感じるだけに、舞台の幕が上がるのが待ち遠しい(隅田有)

◆Noism1 + Noism0《森優貴/金森穣 Double Bill》
2019年12月13~15日、2020年1月17~19日(りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館・劇場/彩の国さいたま芸術劇場・大ホール)
◇長くレーゲンスブルク歌劇場ダンスカンパニーで芸術監督として活躍した森優貴が、今夏日本に拠点を移し、帰国後第1作としてNoismに新作を振り付ける。森は、音楽を巧みに視覚化した抽象的なコンテンポラリー作品から全幕バレエの改訂振付、ダンスオペラの演出まで手掛けることができる、スケールが大きく引き出しの多い振付家である。森が、高い身体強度を持つNoismのダンサー達にどれほど難易度の高い振付を与え、どこまで彼らの力を引き出してくれるのか期待したい。(折田)

◆いちやなぎ多鶴バレエ学園『REI*ISM  Catch me if you can』
2019年12月15日(アプラたかいし大ホール)
◇大阪を本拠地とするいちやなぎ多鶴バレエ学園。この学園の主軸として指導に携わる一柳 麗は、かねてより定評のあるその指導力のみならず、彼女の手掛けた作品がコンクールで入賞したり、外部団体から作品委嘱を受けたりするなど、近年、多岐に渡った活躍を見せている。今回の舞台は、ほぼ一柳の振付作品のみで構成されたマチネ&ソワレの豪華版であり、ベテランから新鋭まで、所属の垣根を超えた豪華ダンサー陣が共演。軽妙洒脱で音楽性に富む一柳のエッセンス=REI*ISMを、彼らはどのように抽出するのであろうか。濃密な舞台への期待が高まる。(宮本珠希)

◆現代舞踊協会《新進舞踊家海外研修員による現代舞踊公演》
2019年12月25、26日(新国立劇場小劇場)
◇現代舞踊協会が、次の時代を担ってもらおうと期待している池田美佳、工藤朋子、佐々木紀子が登場する。池田は、すでにはなやかな個性を認められ、多くの舞台を踏んできた。工藤は、鍵田真由美のところで踊るフラメンコの期待の星。佐々木は、二見一幸のところで創作を修行し、かなりの実績をあげている。三者三様の開花を拝見しよう。(山野)



outofnice at 05:52公演情報

November 27, 2019


アリエル・ドーフマン原作の『PURGATORIO プルガトリオ-あなたと私のいる部屋-』を、周防正行の脚本、ニコラス・バーターの演出により、草刈民代と眦萓宏が演じた。

2009年にバレエ界を退き、演劇に転じて10年目の草刈が登場した舞台は、シモ手にベッド、カミ手に仕事机を置いた簡素な白い部屋。監視カメラがその室内に向けられている。白衣の男(眦茵砲寝ている女(草刈)を起こして問いかける。女は家族のことなどを話しはじめる。これは、はたして精神科の治療行為なのか、犯罪の尋問なのか。問いと答えのかけひきの中から、しだいに女の本音が浮かび上がる。

休憩後、同じような場面でこんどは白衣の女が男に問いかける。追い詰められる男。二人は立場を入れ替えながら、自分の置かれた状況を語り続ける。

このような舞台に立った草刈は、その「女」をありのまま観客に示すことに全力を傾けた。彼女は、踊っている頃から、型通りのお姫様ダンサーではなかった。自分のすべてを見せようと全力を尽くすバレリーナであり、そのからだの奥底からにじみ出てくるキャラクターには、確かな手ごたえがあった。

この作品のタイトルの「プルガトリオ」は「煉獄」を意味する。死者は、そこに一時とどまって自分の生をふり返る。ドーフマンの世界で草刈は、演技者としての自分を確かめたのかもしれない。そして、バレリーナ時代から持ち続けてきた自分に出会ったのではないか。

(山野博大 2019/10/8 東京芸術劇場 シアターウエスト)


jpsplendor at 23:45舞台評短評

牧阿佐美バレエ団が『三銃士』を再演した。このバレエはアンドレ・プロコフスキーが1980年に初演し、それを1993年10月に牧がレパートリーに加えた。以後、再演を繰り返し、今回が9回目の上演だ。

プロコフスキーの振付は、クラシックの動きを主に使うことと、段取りの良さが特色だ。彼は、ロシア人の両親のもとでフランスに生まれ、バレエの道に進む。世界のあちこちで踊り、多くの経験を積んできたので、バレエの仕組みについて豊富な知識を持つ。『三銃士』では、随所にその職人芸が発揮された。

まず1625年当時のイギリスとフランスの政治状況下における敵味方の構図を観客に示し、ダルタニヤン(ドミートリ―・ソボレフスキー)を登場させるプロローグから。ダルタニヤンは、リシュリュー枢機卿(保坂アントン慶)に仕える護衛隊とルイ13世直属の銃士隊の三銃士(清瀧千晴、山本達史、水井駿介)の争いに巻き込まれ、三銃士を助けたことから、その仲間に…。

バレエの主役は、ダルタニヤンとアンヌ王妃(茂田絵美子)お気に入りの侍女コンスタンス(青山季可)のカップルだが、枢機卿がスパイとしてアンヌ王妃のもとに送り込むミレディが、ストーリーの展開では大事な役割を担う。『白鳥の湖』のオディール、『ジゼル』のミルタ、『眠れる森の美女』のカラボスなど、悪女の動向をキーにした作品は、ことの成り行きが観客を引き付ける。このバレエでは、ミレディとバッキンガム公爵(菊地研)が王妃の首飾りを取り合うところが大きな見せ場だ。今回の上演では中川郁がミレディを演じた。すでにこの役を経験済みの中川は無難にこなしていた。しかしさらに一歩踏み込んで、観客の視線を独り占めにするような、悪女ミレディを見せてもらいたかった。

プロコフスキーは、ヴェルディがオペラのバレエ・シーンに使った曲をうまく並べて全体をテンポよく運ぶ。編曲のガイ・ウールフェンデンが良い仕事をしている。最後に出演者全員が登場してストーリーを手短かに再現し、自分の役割を観客にアッピールする。こういうはなやかなフィナーレの見せ場作りは、経験豊富なプロコフスキーならではのもの。ヴォルフガング・ハインツの指揮、東京オーケストラMIRAIの演奏。

(山野博大 2019/10/5 文京シビックホール)



jpsplendor at 23:38舞台評短評

内田香が主宰するルッシュワルツが『note』『crossroad』の2作品を上演した。『note』は、一脚の木製の椅子を置いた舞台。黒いドレスのダンサーが続々と登場して、いろいろな組み合わせで踊る。これまでの内田の作風そのままのはなやかでダイナミックな展開だ。椅子の数を増やし、踊りに変化をつける。さらに赤い表紙の本を持って踊るところも…。

休憩後の『crossroad』は、赤いドレスの上に黒いロングコートをはおり、コートを脱いだり、着たり。動きを加速して、いっそうあでやかさを増幅する空間を出現させる。ダンサーたちがひとしきり踊ったところで内田のソロとなる。圧倒的な存在感。全員で盛大に踊り、幕を降ろす。

内田は、金井芙三枝の作品を踊って才能を開花させ、大島早紀子主宰のH・アール・カオスや鹿島聖子主宰のザンゾランなどで、みごとなプロポーションとさっそうたる舞台さばきで注目を集めた。そして仲間を集めてルッシュワルツ(赤い髪のワルツという意味)を2003年に創立。以後、『なみだ』(2005年)、『ブルーにこんがらがって』(06年)、『ピクニック』(08年)、『Note』(09年)、『真実』(11年)、『冷めないうちに召し上がれ!』(13年)、『彼女のredな味』(14年)、『concentration〜記憶のカケラ〜』(16年)、『Concert 共存する身体・響き・景色』(17年)、『tide』(18年)と踊り続ける。

今回の公演で内田と共に2作品を踊った寺坂薫、佐藤宏美、西田知代、内田奈央子、小野寺紗恵、井上みな、大川采恵、有水梓、荒生由梨香、原裕子の10人は、長く舞台を共にする同志が大多数。彼女たちは、内田の創るはなやかな高揚感にどっぷりと浸り、そこで自分の個性を開花させる。ひとりひとりがソロ・ダンサーの意識で主体的に踊る。その壮大な集積が、内田の創る「群舞」なのだ。

(山野博大 2019/10/3 セシオン杉並)

jpsplendor at 23:25舞台評短評

November 14, 2019


熊川哲也Kバレエカンパニーが、プッチーニのオペラ『マダム・バタフライ(蝶々夫人)』をフルイブニングのグランド・バレエに仕立て上げた。その初日の舞台を見た。蝶々さんの肖像を浮世絵風に描いたタイトル幕を見上げながら開幕を待つ。指揮者の井田勝大が登場して、シアター・オーケストラ・トーキョー演奏の序曲が始まる。プッチーニのおなじみのメロディーと思いきや、なんと聞こえてきたのは「君が代」。すぐプッチーニの序曲につないだが、意表をつかれた感じだった。紗で出来ているタイトル幕の向うにライトがあたると、蝶々さんの父親の切腹シーン。そこで使われた短刀が蝶々さんに形見として遺される。こういうプロローグを見せて、彼女が外国人の嫁になって生きていかなければならない事情にあったことを観客に知らせ、第1幕第1場の幕を上げる。こんどは「星条旗よ永遠なれ」が鳴り響く。冒頭の「君が代」と並べて聞かされると、トランプ登場後一方的になりつつある現在の日米関係が、蝶々さんとピンカートンの結末にどうしても重なってしまう。

舞台いっぱいにひるがえる大星条旗の前に、白いセーラー服姿の士官候補生たちが並ぶ。ここはKバレエカンパニー男性陣の見せ場だ。教官のピンカートンが登場する。ピンカートンには恋人のケイトがいて、結婚を約束している。しかし彼は、エイブラハム・リンカーン号の士官として長崎へ赴任せよとの命令を受け、出航する。

第1幕第2場は、長崎の遊郭街。蝶々さんの叔父のボンゾウ、遊女を客に斡旋するゴロー、遊女のとりまとめ役のスズキらが登場。ボンゾウにアメリカの士官がからみ乱闘となったり、花魁道中があったりの賑やかな街中で、ピンカートンと蝶々さんの偶然の出会いがある。

第2幕第1場は、港を見下ろすピンカートンの家の庭。ピンカートンは、アメリカに残してきたケイトのことを忘れ、長崎駐在のアメリカ領事シャープレスの忠告に耳を貸すこともなく、蝶々さんとの結婚話を進めてしまったのだ。花嫁衣裳の蝶々さんが登場。結婚道具の中に父の遺品の短刀が納められている。黒子ふたりが短刀を操って踊り、蝶々さんの父への想いを観客に示す。ピンカートンと終生連れそうつもりの蝶々さんは、キリスト教に改宗する。それをボンゾウが怒り騒ぎとなる。

第2幕第2場は、ピンカートンの家の中。ひとり残された蝶々さんは、ピンカートンとの想い出にふけるばかり。慰めるスズキ。息子が蝶々さんに甘える。そこへ、ピンカートンからの手紙を届けにシャープレスがやって来る。シャープレスはピンカートンがもう戻ってこないことを知らせるつもりだったが、言い出せずにそれをスズキに頼んで帰る。スズキの言うことを蝶々さんは信じようとしない。とつぜんアメリカの軍艦が長崎港に到着したことを知らせる大砲の音が響く。

第2幕第3場は、ふたたびピンカートンの家の庭。ケイトが現れ、蝶々さんは自分の望みが絶たれたことを知る。そればかりか息子をケイトに渡すことに…。ひとり残された蝶々さん。父の遺品の短刀で自害する。プロローグの父親の切腹と重なるこのラスト・シーンに「ある晴れた日に」のメロディーが響く。

オペラ作品のバレエ化は、『カルメン』などのようにその主人公が行動的で、肉体の動きによりストーリーを語る例が多い。しかしそれと正反対の日本人女性の孤独な死を描いた『マダム・バタフライ』を、派手な踊りの場面もある前半、蝶々さんの心理を追う後半に、熊川は作り分けて、観客の心をつかんだ。踊りの部分にドヴォルザークの音楽を追加して編曲し、全体の流れを完成させた横山和也の働きもあり、動きの少ない原作のオペラをバレエで「見せた」のだ。颯爽たる海軍士官のピンカートン(堀内將平)と可憐な蝶々さん(矢内千夏)、このふたりをとりまく花魁役の中村祥子、スズキ役の荒井祐子、ボンゾウ役の遅沢佑介らの好演が、舞台にいっそうの「見る」楽しみを付け加えた。

(山野博大 2019/9/27 オーチャードホール)

jpsplendor at 23:40舞台評
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