March 14, 2026
東京シティ・バレエ団『ジゼル』
東京シティ・バレエ団(シティ)は、2022年まで金井利久版『ジゼル』〜生と死、二つの世界を一筋に貫くジゼルの愛〜を上演していたが、今回披露されたのは、芸術監督の安達悦子改訂演出・振付による『ジゼル』だった。ジゼルを当たり役としていた安達の思いがこもったプロダクションであった。
『ジゼル』は最も上演頻度の高いバレエ作品の一つで、主要な踊りには定番の振付がある。とはいうものの複数の"定番"を持つ曲もあり、それらはロシア系であったり、ヨーロッパ系であったりといった傾向はあるものの、プロダクション単位では組み合わせに厳格な決まりがあるようには見られない。安達版は複数のバージョンがある振付では、主に難易度の高い方が採用されており、例えばペザントのアダジオは、ロシアのカンパニーでしばしば見られる、リフトやバランスのしどころの多いバージョンが選ばれていた。音楽についても、序曲はリピートを省略せずに全部聞かせるロシア流、また2幕のヒラリオンの死の場面では、一旦クライマックスを短調で聴かせてから長調に転じるバージョンで、これはヒラリオンがウィリの手に落ちる様子が、音楽を通じてまざまざと感じられる。総じて独自の解釈を追加してオリジナリティを追求するというよりは、『ジゼル』という作品そのもののポテンシャルを引き出すことに向き合った、見応えのあるプロダクションであった。
とはいうものの、若干の歯痒さを感じる場面もあった。例えば一幕は、ジゼルの持病やヒラリオンが感じる疑惑など、舞台上で何が起きているのかが明確で、ストーリーを知らない観客にもわかりやすい。しかし「分かりやすさ」がフォーカスされた結果、必然性の伴った仕草というよりも、観客に向かって説明しているように感じられる場面があった。また狂乱の場面では、バチルドがジゼルがぶつかり易い位置に移動するなど、段取りが見えてしまう部分もあった。ダンサーは個々に役を掘り下げてはいたものの、このプロダクションが目指す物語を共有しきれていなかったのではないだろうか。それもあってか、出演者同士のやりとりを通じて物語が展開する一幕よりも、踊りを積み重ねる先にドラマが立ち上がる二幕に、見どころが詰まっていた。
筆者が見た8日の舞台は、昨年秋のショルツ振付『オクテット』での好演が記憶に新しい斎藤ジュンと、ノーブルな王子役が似合う吉留諒が主演した。斎藤は飾り気のない村娘役にも伸びやかさが見られたが、二幕は通常よりも演奏速度が若干速かったこともあり、キレの良いアレグロの足捌きや、移動距離の長いジャンプなど、斎藤の強みがより発揮されていた。吉留も持ち前のストイックさで、テクニックの難所をきっちりと仕上げ、迫力のある踊りを見せた。終盤のワルツの連続のアントルシャ・シスは、途中で切り上げずに音を全部使い切り、夜明けの鐘がなる直前のジャンプは、正面から見て肩越しに、アチチュードに上げた脚先が見える程、脚を高く上げて飛んでいた。出演は他に、ヒラリオンに務台悠人、ミルタに折原由奈、ペザントに新里茉利絵と林高弘。ジゼルの友人によるパ・ド・シスはテキパキとした動きが音楽を的確に捉え、シティのダンサーの長所がよく現れていた。久しぶりに都内に本降りの雪が降った週末で、初台に乗り入れる京王新線は動いたり止まったりと、頼りない運行状況であったが、15分遅れでスタートした会場は熱気にあふれていた。
(隅田有 2026/02/08 15:00 新国立劇場中劇場)