January 24, 2026

ウクライナ国立バレエ『ドン・キホーテ』

元ハンブルク・バレエのプリンシパル、菅井円加とアレクサンドル・トルーシュが、恒例となった新春のウクライナ国立バレエ来日公演にゲスト出演した。菅井は昨年、降板したアリーナ・コジョカルの代役として『ジゼル』に主演したが、その大成功を受けてか、今年は当初から菅井の出演が発表され、演目も菅井の超絶技巧が存分に堪能できる『ドン・キホーテ』であった。

高い身体能力と明るく朗らかな菅井の持ち味は、キトリというキャラクターとの親和性が高い。女性ダンサーの技術力はバランスや回転が注目されがちだが、菅井はこれらに加えて跳躍力も驚異的だ。登場直後の、グラン・ジュテ・ア・ラ・スゴンを筆頭に、空中で一瞬静止しているかのように見える高いジャンプは、陽気なヒロインの比類ない魅力を的確に表していた。大きな跳躍を伴うパは、音よりわずかに早く床を離れ、空中の一番高い位置で音を掴む必要がある。菅井は空中で次々と正確に音を掴んでいくため、テクニックが音楽的な必然性を伴って作品の中に回収されていく。回転技では3幕のフェッテの美しさが、とりわけ心に残る。空中でロン・ド・ジャンブする右脚が正確なラインを通り、パッセに入る前のア・ラ・スゴンをたっぷりと見せていた。バジルのトルーシュも、明るく情熱的な床屋の青年が良く似合っていた。回転技に強く、菅井とも息のあった演技で、舞台を盛り上げた。

他のダンサーでは、エスパーダを踊った同団プリンシパルのニキータ・スハルコフが心に残る。マントのあしらいが巧みで、キャラクテールらしい誇張された動きも違和感なくダンディにまとめ、踊りと演技がシームレスに繋がっていた。他のダンサーもそれぞれ踊り手としての魅力はあるものの、全体的には少し寂しい印象を受けた。会場となった東京国際フォーラムAホールは、オケピットを使用した際の音響効果に恵まれているとは言いがたく、音楽が響かなかったことは寂しく感じた一因だろう。さらに年末年始にかけて、キーウをはじめウクライナ全土で激しい空襲があったというニュースに接していたことも、筆者の印象に少なからず影響を与えていた。それらのバイアスを認めたうえであえて指摘するならば、ソリストが踊っている間、コール・ド・バレエが舞台上で休息しているように見える瞬間があり、結果として舞台全体に奇妙な静けさがもたらされていた。バルセロナの街並みを描いた背景画が、どこかデ・キリコの絵画を思わせ、明るく活気に満ちているはずの本作に、時折深い影が落ちていた。

(隅田 有 2026年1月3日 14:00 東京国際フォーラム ホールA)


outofnice at 14:47舞台評 
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