November 30, 2025
東京バレエ団『ラ・シルフィード』
1832年にパリ・オペラ座で初演され、1972年にピエール・ラコットが復刻した『ラ・シルフィード』は、1984年に東京バレエ団が国内で初演した。団長の斎藤友佳理は1989年の公演で主役に抜擢されて以来、当たり役として再演を重ねた。斎藤はラコットから信頼を寄せられたリハーサル指導者でもある。東京バレエ団は国内外を通じて、本作の上演に最も適した環境が整っているカンパニーの一つだろう。前回2020年の上演時は、ロマンティック・バレエのスタイルを体現した沖香菜子の名演技に胸を打たれた。その舞台でエフィを踊った秋山瑛が、初役でタイトルロールを踊った3日の舞台を観賞した。
秋山といえば、強靭なテクニックに裏打ちされた、切れ味の良い踊りを得意とする、チャーミングなダンサーである。しかし本公演ではこれらのフィジカルな持ち味を封印し、ロマンティックバレエのボキャブラリーを徹底的にやり抜いた。1989年のプログラムに寄せられたラコットのエッセイによると、マリー・タリオーニのシルフィードは「完全に停止すると言うことがなかった。常になめらかでしなやかな動きが無限に引出された。ポーズは決まっていても完全に停止でなかった」と評されたそうだが、秋山の踊りは、前に屈むポーズの際に一呼吸おいて続く腕の柔らかな動きや、グリッサードの際の胴のひねりがもたらす心地よい揺らぎなど、ラコットの文章の中に描かれたタリオーニの動きそのものであった。
同じく初役でジェームズを務めた生方隆之介は、シルフィードに見染められる特別な存在として観客を納得させる、ロマンティックな雰囲気を備えている。シルフィードが思い通りにならず、感情的に振る舞う場面では、シルフィードよりも幼い印象を受ける。これは、シルフィードはジェームズが生まれた時から彼を見守ってきたとの解釈と親和性が高い。二幕でシルフィードとジェームズが交互に踊る場面では、早いステップでも床を使って一つ一つ丁寧に仕上げていた。
気取らない愛らしさのあるエフィーに足立真里亜、エフィー一筋のガーンに南江祐生、一幕のパ・ド・ドゥに金子仁美と二山治雄、マッジに安村圭太が出演。安村はティボルトやヒラリオンなどを演じる際は、男臭さを打ち出した役作りが巧みであったが、本作ではアクの強い老婆(魔女)を説得力を伴って演じた。男も女も鮮やかに演じる安村は、幅広いレパートリーを持つ東京バレエ団においてなくてはならない存在である。
(隅田有 2025/11/03 14:00 東京文化会館大ホール)