November 30, 2025

新国立劇場『シンデレラ』

新国立劇場は開場の翌年から2020年頃まで、例外はあるものの、年末は『くるみ割り人形』と『シンデレラ』を交互に上演していた。『くるみ割り人形』はこの期間に三度プロダクションが代わっているが(今シーズン上演されるウィル・タケットは通算四作目だ)『シンデレラ』は一貫してアシュトン版を上演している。池田理沙子は2016年に新国立劇場に入団し、同年末に本作で主演デビューした。臆することなく生き生きとタイトルロールを踊る姿が心に残る。チャーミングな持ち味は役にぴったりであったが、今回はさらに磨きがかかった仕上がりであった。

本作の演出には興味深い点がある。例えば仙女は登場の際、シンデレラと向かい合い同じ振りを踊る。また仙女は一幕で四季の精を左右に従えているが、二幕ではシンデレラが四季の精を従えている。まるで仙女とシンデレラは、お互いの分身のように振る舞っているようなところがあるが、三幕のシンデレラは、自らの逆境を支えた妖精たちを背後に残して、王子と歩む新たな人生に踏み出してゆく。運命を切り開く強さと楽観性は、アシュトン版シンデレラに欠かせない要素だが、仙女をはじめとする一連の魔法をシンデレラの無意識の創造物と仮定すると、彼女の特異性やスピリチュアリティが際立つのである。

池田のシンデレラは終始明るく、皆が舞踏会に去っていった後も物悲しさはない。スカートをつまみ「こんな服じゃ舞踏会に行くのは無理ね」と可笑しげに肩をすくめ、早々に箒を相手に短いワルツを踊る。床に立てた箒との合力を生かし、レバレッジを効かせた踊りがダイナミックだ。プロコフィエフの楽曲は重厚で時に難解だが、池田はどの楽器のどの音を使って踊っているのかが良く見える。2幕のヴァリエーションやパ・ド・ドゥでは、池田の指先の動きや顔をつけるタイミングによって、これまで聞き流していた旋律に気付かされる瞬間が度々あった。ポーズの角度や止め方など振付の"アシュトンらしさ"は控えめながら、悲壮感を排したシンデレラの役作りはアシュトン版の本質を捉えていた。

昨年入団した水井駿介は、本作が新国立劇場での初の王子役となった。先シーズンは『ジゼル』のペザントや『不思議の国のアリス』のラジャ/イモ虫で、技術力と個性を発揮している。ロマンティックというよりは現代的で爽やかな王子で、きちんとプリエに降りる正確なステップが、踊りにキレを与えていた。アグリー・シスターズに仲村啓と菊岡優舞、仙女の内田美聡、道化に上中佑樹が出演。この日は学校単位の芸術鑑賞会の学生で会場が埋まっていた。一幕終了後の休み時間に「あの続きをもう少し見ていたかったなぁ」という先生と男子高校生の会話を耳にした。本作は全ての幕が(この続きはどうなるんだろう?)いう余韻を残して幕が降りる。20世紀中盤に華開いたネオクラシックの物語バレエの面白みのつまった、本作の魅力を言い当てている一言であった。

(隅田有 2025/10/23 13:00)


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