July 13, 2025
新国立劇場『ジゼル』
2022年に制作されたアラスター・マリオット改訂振付・吉田都演出の『ジゼル』を新国立劇場が再演した。米沢唯と井澤駿が主演した19日のソワレを観た。
米沢が踊る『ジゼル』全幕を見るのは、今回で3度目である。厚地康雄と組んだ2013年の舞台は、若々しく自然体の村娘の役作りが胸を打った。渡邊峻郁と組んだ2022年の舞台はガラリと雰囲気が変わり、村人らしからぬ品を備えたヒロインだった。そして今回も、前二回同様に新鮮な驚きを覚える、完成度の高い舞台だった。柔らかさに磨きがかかった上半身が、音をギリギリまで使いつつ、足元は鋭く正確にステップを踏む。二幕のコーダの中盤でカミテ奥から登場し、アルブレヒトのリフトで宙を飛ぶように移動する場面では、舞台に爪先が触れるタイミングをわずかに後乗りにすることで、浮遊感を高めていた。アルブレヒトを務めた井澤は以前よりも床をしっかりと使うようになり、演技の幅も広がった。二幕のヴァリエーションは手堅くまとめ、後半の連続のアントルシャは最後に足を大きめに開いて見どころを強調していた。高嶺の花のジゼルに対し、余力を残さず情熱的にぶつかっていくアルブレヒトといった印象で、舞台をよりエモーショナルな方向に盛り上げていた。他に主要キャストは、ヒラリオンに中家正博、ペザントのパ・ド・ドゥに飯野萌子と山田悠貴、ミルタに吉田朱里が出演した。
マリオット・吉田版は、繰り返しを排した短い序曲が採用されており、幕が上がる前からヨーロッパ風のプロダクションだと気づかされる。わけてもピーター・ライト版の影響が強く、ジゼルのヴァリエーションの冒頭のアラベスクの後にパンシェをしないなど、振付に複数の類似が見られる。演出面では予定調和に甘んずることなく、それぞれの踊りに必然性を付与することが重視されている。踊ることを母ベルタに止められたジゼルが、代わりに結婚が決まった二人をバチルド姫に紹介してペザントに繋げたり、収穫祭では複数の村人の中から選ばれたジゼルがヴァリエーションを踊ったりと、演出そのものは違っても、原因と結果が重視されている点もまた、ライト版に通ずる。第二幕に登場するウィリは民間伝承の魔物のような存在で、夜明けが近づくと光を恐れて腕で顔をかくすあたりは、ヴァンパイアのようでもある。背景にはたくさんの十字架が見られるが、これら全てが墓というよりも、ウィリを恐れた村人が魔除けとして立てた十字架と見るべきだろう。コール・ド・バレエの配置は見どころの一つで、一幕終盤のコーダでは客席を頂点とする三角形が左右に並んで作られた後、ペザントの二人を頂点とした大きな一つの三角形に変化したり、二幕ではヒラリオンとともにウィリが三角形のフォルムを形成したりと、頂点のあるフォーメーションが特徴的だ。また、ウィリが膝をついてそよ風のように腕を揺らす場面では、ミルタを中心にウィリが放射状に並ぶことで儀式めいた雰囲気が醸し出されていた。セットも豪華で素晴らしい。一幕は青みがかったグレーの木の幹が印象的な寒色系、二幕は十字架を照らすオレンジの明かりが基調となった暖色系でまとめられており、通常の一幕と二幕とは逆の配色を使いながらも、センスよくまとめられている。なお今年7月にはロイヤル・オペラハウスで同作が上演される予定である。
(隅田有 2025年4月19日 新国立劇場オペラパレス 18:00)