July 13, 2025
新国立劇場『不思議の国のアリス』
2011年に世界初演されたクリストファー・ウィールドン振付の本作は、英国ロイヤルバレエ(ロイヤル)が2013年の来日公演で日本初演、そして2018年10月に新国立劇場が日本のバレエ団として初演した。2018年はダブルキャストだったが、今回はロイヤルのプリンシパル、高田茜を含むクワトロキャストで上演された。前回に続き今回も初日のキャストとなった米沢唯(アリス)、渡邊峻郁(ハートのジャック)、奥村康祐(白ウサギ)の出演する回を観た。
原作よりも複雑な筋書き、古典バレエのパロディ、打楽器が印象的なオリジナルの楽曲、パペット、映像とプロジェクションマッピング、ユニークで贅沢な大道具と、本作はダンス以外にも見どころが盛りだくさんの作品だ。少々詰め込みすぎで余韻を楽しむ余白が少なく、たとえば冒頭とラストでアリスとジャックが同じ振りを踊る、バレエならではの構成の面白みなどが埋もれがちである。とはいえ3幕構成の豪華なプロダクションを、国内のバレエ公演では珍しく、2018年の初演時は10日間、今回に至っては約3週間にわたって上演するロングランで、カンパニーの実行力には深い敬意を示したい。
アリスの米沢は、スピーディーな振付にもメリハリや揺らぎを加え、ポール・ド・ブラを駆使して叙情性を表現する。2024年の日本バレエ協会公演『パキータ』で見せた、サザエさんのような明るいコメディエンヌぶりを本作でも発揮していた。勇敢なアリスが助けるジャックは、古典作品の文脈ではお姫様のポジションだ。渡邊は体のラインの美しさと品の良さで、"ヒロイン" の役回りを的確に捉えていた。世界初演時はエドワード・ワトソンが演じた白ウサギは、飄々とした雰囲気を備えた奥村の当たり役である。観客に背を向けて写真を撮る場面で、ウサギの尻尾がポンっと現れると客席から笑い声が聞かれた。ハートの女王は世界初演をゼナイダ・ヤノウスキーが、日本人としては本島美和が初演した大役である。今回は木村優里が、クセの強い美女役で存在感を示した。水井駿介は初役ながら色気たっぷりにイモ虫を演じた。背筋を伸ばすポジションが優位なバレエにおいて、上半身の可動域が大きい点は水井の強みである。また本公演で話題となったのが、スティーブン・マックレーの客演だ。彼のために創られたマッドハッター役で登場し、軽やかにタップダンスを披露した。貫禄のあるマッドハッターというのも良いものである。
(隅田 有 2025/06/21 新国立劇場 13:00)