April 20, 2025
トータルステーイプロデュース『イノック・アーデン』
アルフレッド・テニスンの叙事詩『イノック・アーデン』を、原田宗典が朗読向けに翻訳した同名作品*が舞台化された。演出・振付はウィル・タケット、朗読は田代万里生と中嶋朋子、そして東京バレエ団の秋山瑛、生方隆之介、南江祐生が、アニー、フィリップ、イノック役で出演。舞台シモテにグランドピアノが置かれ、リヒャルト・シュトラウスが同作のために作曲したピアノ曲を、櫻澤弘子が演奏した。
舞台には船の帆を連想させる装置が吊るされ、中央に置かれたベンチより前方が踊りのためのスペースである。ダンサーと観客との距離が近く、通常のバレエ公演にはない臨場感があった。振付は、リフトやオフバランスを用いた20世紀後半の物語バレエのボキャブラリーが用いられ、南江は型破りなイノックを、生方は穏やかで辛抱強いフィリップを好演し、二人の男性に愛されるアニー役の秋山は、ソリッドなテクニックをヒロインの透明感に昇華させていた。
田代と中嶋の声には豊かな表現力と説得力があり、朗読単体でも十分に心を揺さぶる舞台となっただろう。同時進行する朗読とダンスは、概ね表すものが重複していたため、冗長に感じられる部分もあった。反対に、朗読と踊りが相乗効果を上げていたシーンとして印象に残るのは、アニーが三男を亡くした場面である。田代と中嶋が秋山の左右に立ち、畳み掛けるように朗読することで、アニーの内なる声が激しく己を責める様子が強調された。フィリップが求婚する場面で、テキストでは直接語られないアニーの困惑と恐れが表現されていた点も、朗読とダンスの融合の可能性を感じさせた。ラストは観客席から啜り泣きが聞かれ、カーテンコールでは大きな拍手が送られた。
*アルフレッド・テニスン著、原田宗典訳『イノック・アーデン』2006年4月 岩波書店(東京) ISBN 4000221582
(隅田有 2025/03/14 新国立劇場小ホール)