December 18, 2024
東京シティ・バレエ団 藤田嗣治美術『白鳥の湖』〜大いなる愛の讃歌〜
東京シティ・バレエ団(以下"シティ")が石田種生版『白鳥の湖 〜大いなる愛の讃歌〜』を再演した。2018年と2022年の東京公演では、海外からゲスト・ダンサーを迎え、シティのダンサーを交えたダブルキャストで上演されたが、今回は主演全員が所属ダンサーによるトリプル・キャストという意欲的な配役だった。飯塚絵莉と吉留諒が登場した二日目のマチネの様子を報告する。
石田版は、4幕にバランシンの『チャイコフスキーのパ・ド・ドゥ』の楽曲を使ったアダジオが挿入されている点に特色があり、藤田嗣治が手がけたセットも広く知られている。加えて音の後乗りと余韻を生かした振り付けにも見どころが多く、例えば1幕のワルツで、中央の2名の男性がアントルラッセから膝をつき、残りの音を使って腕を後方に流したり、3幕のチャルダッシュで、手を頭の後ろに当てた際に、一拍多くポーズを見せたりと、カウントの面白みにハっとさせられる場面も多い。後乗りを的確に表現するには、踊る側にも高い音楽性が求められるが、音感の良さといえばシティのダンサーの強みの一つである。先日の『コッペリア』では、石井清子の前乗りを多用した振付を軽快に踊っていたダンサーたちが、本公演では石田の後乗りを優雅に踊りこなし、前にも後にも自在にカウントを取れるシティの実力を再確認する舞台であった。
飯塚は登場直後のアラベスクなどの様式美の見せ場や、3幕のテクニックのしどころを難なくこなし、主役に相応しい堂々とした舞台を見せた。か弱さや儚さを強調するよりも、すっきりとした等身大の役作りが自然で現代的である。王子の吉留は2022年の公演で、降板したキム・セジュンの代役でジークフリートを務め、プリンシパルに昇格した。歩いたり腕を差し出したりといった何気ない仕草に、品やパートナーへの敬意を感じさせる貴重なダンサーだ。一幕の踊りだしからキレがあり、ジャンプで空中にいる際も、ブレることなくギリギリまで攻めるソリッドなステップは、周囲と距離を置くストイックな王子様のようであり、生き急ぐ過激なロックスターのようでもある。とまれ命をかけてオデットと添い遂げるジークフリートの姿として説得力があった。
主な出演者は他に、ロットバルトに杉浦恭太、道化に本間響。パ・ド・トロワの三人(松本佳織、新里茉利絵、栄木耀瑠)は特に本作の音楽性を的確に表現し、振付の面白みを引き出していた。
(隅田有 2024/12/01 11:00 東京文化会館大ホール)