October 08, 2024
SHIVER『横浜バレエフェスティバル2024』
国内外で活躍するトップダンサーとプロを目指す若手ダンサーが共演する《横浜バレエフェスティバル》が、10周年を迎えた。遠藤康行が芸術監督を務め、例年、古典からコンテンポラリーダンスまで、幅広い演目が上演される。過去に若手枠で出演したダンサーが翌年以降に再登場し、成長した姿に驚かされることもあり、バレエ界の定点観測のような位置付けでもあると感じる。劇場がオフシーズの夏場は、日本各地でガラ公演が目白押しだが、他との差別化がしっかりと打ち出されている公演である。
今年は17作品が上演され、出演者は総勢34名。内15名は次世代の育成を目的として2017年に設立された“ジュンヌバレエYOKOHAMA”（以降“ジュンヌ”）のメンバーだ。第一部のフレッシャーズガラでは、今年も遠藤による2作品が上演された。『スーブニール・ドゥ・チャイコフスキー』は、クラシックのテクニックに加え、オフバランスを使ったり上半身のコントラクションを使ったりと、ネオクラシックの要素も持つ作品で、身体能力の高い若手が挑戦するのにふさわしい。ジュンヌのメンバーから朝倉凛、斉藤真結花、三宮結、周藤百音、芹澤一加、藤原仁椛、水上怜香が伸びやか、かつパワフルに踊った。『「チャイコフスキーの旅」より パ・ド・ヌフ』は『白鳥の湖』の楽曲が使われており、井関エレナ（チェコ国立ブルノ歌劇場バレエ）を中心に、ジュンヌの岡村あずさ、工藤沙久、小林咲穂、�盒郷榛漫�田中優歩、バーンズ慈花、山下沙羅 山下栞が出演した。コーダでは舞台上の移動距離の大きいジャンプを9人が同時に行うといったダイナミックな動きに、現代的な女性ダンサーらしい、強さとしなやかさが表現されていた。第一部は他に、岸琴音、四戸智紀、斉藤佑衣奈、國立桃菜が、それぞれヴァリエーションを1曲ずつ踊った。
第二部はスウェーデン王立バレエ団の芝本梨花子と三森健太朗が『海賊』に、�眄ド茣�子と和太鼓奏者の佐藤健作が�眄タ局佞痢�Mirror of Sarasvati』に出演。また、予定されていた出演者の降板に伴い、佐々晴香（ベルリン国立バレエ団）が一曲追加で『グラン・パ・クラシック』のヴァリエーションを踊った。『「Lilly」より抜粋 Ver.2024』は柳本雅寛と大宮大奨が、引っ張り合う力の相互作用を使った勢いのあるムーヴメントと、マイクを持った柳本による恒例のトークで会場を沸かせた。二部のラストは『ドン・キホーテ』。秋山瑛（東京バレエ団）と二山治雄（フリー）が、超絶技巧をいとも易々とこなしていた。
第三部はイングリッシュ・ナショナル・バレエの加瀬栞とエリック・ウルハウスが『ダイアナとアクティオン』を、モナコ公国モンテカルロ・バレエ団の小池ミモザがジャン＝クリストフ・マイヨー振付『Entrelacs』を踊った。第一回から出演し、日本では上演の機会の少ないマイヨーの作品を毎年披露している小池は、本公演になくてはならない存在だ。続いて二山が2曲目となる『ボレロ』（�眄ド茣�子振付）を踊り、驚異的な柔軟性を単なる技術力としてではなく、中性的な色気として提示することに成功していた。佐々と三森も2曲目となる『ジゼル』を踊り、ラストはイングリッシュ・ナショナル・バレエの高橋絵里奈とジェームズ・ストリーターが、昨年の同公演で絶賛されたリアム・スカーレット振付『ノー・マンズ・ランド』のパ・ド・ドゥを再演した。『ノー・マンズ・ランド』の女性はパートナーである男性が見えておらず、存在のみを感じているという設定で、『ジゼル』第二幕のパ・ド・ドゥに続けて上演されることで、2作品の相補的な関係性が浮かび上がった。
フィナーレは出演者が客席に登場し、手にしたキャンディーを配るというサービス付き。チュチュを触ろうとして手を伸ばす観客には内心ヒヤヒヤしたが、大いに盛り上がり幕が降りた。
（隅田有 2024/08/04 神奈川県民ホール）
