November 15, 2023

K-BALLET TOKYO 創立25周年記念 熊川版 新制作『眠れる森の美女』

K-BALLET TOKYOが熊川哲也振付『眠れる森の美女』を新制作した。東京、大阪、福岡で計15公演、オーロラ姫に日眄ず據飯島望未、成田紗弥、岩井優花、デジレ王子に山本雅也、石橋奨也、堀内將平、栗山 廉、リラの精に成田紗弥、岩井優花、小林美奈、戸田梨紗子、カラボスに浅川紫織、日眄ず據⊂林美奈と、トリプルキャストやクワトロキャストの豪華な顔ぶれで上演された。

19世紀末にマリインスキー劇場で初演された『眠れる森の美女』は、最も有名なクラシック・バレエの一つである。しかし多数登場するソリストそれぞれに見せ場が用意されており、ストーリーに直接影響しない踊りが続くため、一言で言うと、長い。多幸感に溢れる完成度の高い上演も稀にあるが、主人公のスター性を堪能したり、ソリストに抜擢された若手に注目したりと、出演者の名人芸を鑑賞するというのが、本作の楽しみ方の主流ではないだろうか。しかし熊川版はディヴェルティスマンを整理し、新たな設定を追加することで、かつてなく"ドラマチックでスピーディ"な『眠れる森の美女』を作り上げた。

通常二回の休憩を挟む3幕構成だが(プロローグに噴水を出すような大掛かりな演出では休憩を三回挟むこともある)、熊川版は休憩一回で全幕を上演する。前半・後半とも1時間以上と長丁場で、『眠れる森の美女』以外の曲も挿入されているが、それでも上演時間は3時間を切る。プロローグに登場する妖精は通常より一人少ない5人。リラの精以外はヴァリエーションを踊らず、優しさの精の音楽で5組の妖精とカヴァリエがパ・ド・ディスを、勇気の精の音楽でリラの精以外の4人の妖精が揃って踊る。さらに近隣諸国の王族が連れてきた、四人の小さな王子たちが、やんちゃの精の音楽で踊るのだが、彼らが後日オーロラとローズアダジオを踊る王子で、さらにそのうちの一人がデジレ王子という設定だ。続く第二場の森のシーンは、成長したオーロラ姫がデジレ王子と出会い惹かれ合う重要な場面である。ここで早くもブルーバードや猫のパ・ド・ドゥが披露され、コール・ド・バレエにはアシュトン振付の『ピーターラビットとなかまたち』に登場するジェレミー・フィッシャーどんのようなカエルも登場する。様々な生き物の踊りを森のシーンにまとめることで、オーロラ姫と動植物との親和性の高さや、ひいてはスピリチュアルな一面が強調された。赤ずきんちゃんがカラボスの手下という設定で登場し、騙されたデジレ王子がカラボスの魔力に囚われて前半の幕が降りる。

二幕では本作に欠かせないローズ・アダジオが序盤に披露されるが、その後の展開に薔薇という小道具が生かされていた。オーロラ姫は糸車の針ではなく、カラボスに操られたデジレ王子が差し出す、薔薇の棘に刺されて眠りにつくのである。オーロラ姫が昏睡状態に陥ってからは、一転してロマンティック・バレエ風の展開となる。恋人の過ちで命に危険が及ぶバレエのヒロインは複数いるが、苦悩するデジレ王子の元にオーロラの幻影が現れる夢の場は、さながら『ジゼル』の二幕のようであった。魔力から解放された王子がカラボスを倒し、王子の口づけでオーロラが目覚めると、休憩を挟まず第三幕に続く。すでにディヴェルティスマンの一部を一幕で消化しているため、結婚式もテンポよく進んだ。伏線を回収し、技術的な様式にも変化をもたせることで、全幕の構成には立体感が感じられた。わけても一幕と二幕の森のシーンは、あの世とこの世を結ぶ中二階のような位置付けで、構成にメリハリを与えていた。

主演の日發隼核椶魯ラシック・バレエの技術をしっかりと見せる場面と、ドラマ性を打ち出す場面を巧みに演じ分けていた。リラの精の成田をはじめ女性ダンサーは、テクニックはもとより、上半身の表現が豊かである。足さばきと上半身の動きに時間差を持たせることで、後乗りの音どりの余韻を余すところなく表現していた。本公演でオーロラ姫を務めた日發亙未瞭にはカラボスにキャストされているが、日發妨造蕕坤織ぅ廚琉曚覆詭鬚魎鑞僂砲海覆好瀬鵐機爾揃っているのは、K-BALLET TOKYOの強みだろう。ソリストだけでなく、コール・ド・バレエのダンサーたちも、それぞれの役に許される範囲内で最大限に存在感をアピールし、舞台の成功に貢献していた。

(隅田有 2023年10月27日 14:00 東京文化会館)


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