October 29, 2023
東京バレエ団 創立60周年記念シリーズ1『かぐや姫』
金森穣振付『かぐや姫』全三幕がついに完成した。全幕世界初演の様子を報告する。
「世界に発信できるバレエ」というコンセプトのもと、2021年11月にまず一幕、続いて2023年4月に二幕が発表された。ひと幕ごとに、期間をあけて発表するというこれまでにないスタイルは、作品が形作られる様子を垣間見るような得難い体験であった。同時に、一年半の期間をおいて二幕が公開された際は、一幕とのトーンの違いが気がかりでもあった。しかし全幕公開にあたっては、一幕初演時の具象的な映像・衣装・セットがばっさりと料理され、二幕のスタイリッシュなデザインに寄せられており、トーンの違いは杞憂に終わった。カットするには忍びないアイデアもあったことだろうが、統一感を優先したのは英断である。また、筆者の記憶が正しければ、二幕で出演者が左右対象に並んでいた場面も、アシンメトリーに改められていたように思う。斜めのラインが舞台に奥行きや立体感を加え、さらに三幕ラストのシンメトリーなポーズとも相互作用し、欠けた月(二幕)と満月(三幕)のような対比も生まれていた。
緻密に計算され構成された見所の多い舞台であったが、音楽が課題として残っていた。本作には本格的な編曲が必要ではないだろうか。海外公演を見据えたグランド・バレエを制作するという目的のもと、日本最古の物語である『かぐや姫』をテーマに選び、ドビュッシーを使うという発想は理にかなっている。しかし曲の方向性や強度と、ムーヴメントが表現するものが必ずしもフィットせず、振付が効果を発揮しきれていない場面が見られた。さらに一幕の竹藪の踊り、二幕の影姫と大臣たちのパ・ド・サンク、三幕冒頭の光の精の場面など、曲が続いているために踊りも続いているように感じられる場面もあった。これらは演奏方法や尺の調整で印象が大きく変わるのではないだろうか。その中において、二幕ラストのかぐや姫が逃げる場面では、音楽と物語がマッチして疾走感に繋がっていた。
二幕のトーンをメインとした今回の上演では、翁という役を残す必要があるかどうかについても考えさせられた。冒頭から登場し、愛憎や欲望など人間らしい様々な感情を体現する存在であり、さらに昨年逝去した飯田宗孝が初演を務めた大きな役ではあるものの、全幕を通して観るとやや趣が異なるキャラクターに感じられた。これまでの金森作品であれば、本作にも登場する黒衣たちが担っていた役ではないだろうか。
緻密に計算され構成された見所の多い舞台であったが、音楽が課題として残っていた。本作には本格的な編曲が必要ではないだろうか。海外公演を見据えたグランド・バレエを制作するという目的のもと、日本最古の物語である『かぐや姫』をテーマに選び、ドビュッシーを使うという発想は理にかなっている。しかし曲の方向性や強度と、ムーヴメントが表現するものが必ずしもフィットせず、振付が効果を発揮しきれていない場面が見られた。さらに一幕の竹藪の踊り、二幕の影姫と大臣たちのパ・ド・サンク、三幕冒頭の光の精の場面など、曲が続いているために踊りも続いているように感じられる場面もあった。これらは演奏方法や尺の調整で印象が大きく変わるのではないだろうか。その中において、二幕ラストのかぐや姫が逃げる場面では、音楽と物語がマッチして疾走感に繋がっていた。
二幕のトーンをメインとした今回の上演では、翁という役を残す必要があるかどうかについても考えさせられた。冒頭から登場し、愛憎や欲望など人間らしい様々な感情を体現する存在であり、さらに昨年逝去した飯田宗孝が初演を務めた大きな役ではあるものの、全幕を通して観るとやや趣が異なるキャラクターに感じられた。これまでの金森作品であれば、本作にも登場する黒衣たちが担っていた役ではないだろうか。
かぐや姫と道児を務めた秋山 瑛と柄本 弾はともに当たり役で、アレグロでもリフトでもラインの美しさが引き立つ秋山の踊りは、さながら澄んだ夜空に冴え冴えと輝く月の光のようであった。柄本は安定感のあるサポートにかぐや姫に慕われる暖かみと大らかさが感じられた。帝の大塚 卓は男性陣が全員同じステップを踊る迫力のある場面で、首や腕に抑揚をつけて群舞との差を打ち出し、踊りの芯となっていた。この抑揚は踊りに面白みを加えるものであり、さらに強調してもよいのではないだろうか。影姫の沖香菜子は悪女役が板につき凄みが感じられ、木村和夫は翁の利己主義に寂しさを追加した。各幕ごとに三種類制作され、ポスターやプログラム等に広く使われた小栗卓巳のビジュアルイメージが、甘さと辛さを兼ね備えていて美しかった。
(隅田 有 2023/10/20 東京文化会館大ホール)