August 21, 2023

《横浜バレエフェスティバル2023》

多くの劇場がオフシーズンの夏場は、所属カンパニーの垣根を越えてダンサーが集結する「ガラ公演」が多く開催される季節だが、わけても2015年に始まった横浜バレエフェスティバルは、国内外の日本人トップダンサーと、これからプロの世界に羽ばたいていく若手のホープが同じステージに立つ、特色のある公演としての位置付けを確立した感がある。

第一部の「フレッシャーズガラ」は、例年オーディションで選ばれた出演者や「ジュンヌバレエYOKOHAMA」のメンバーが多く出演する、若手中心のステージである。遠藤康行振付の『グラズノフスゥイート』は、クラシックバレエのボキャブラリーを使いながらも、同じパを左右の方向を変えて踊ったり、時間差を利用したりと意外性に富んだ作品で、井関エレナ(ベルリン国立バレエ団)を中心に、山下 栞、山下沙羅、小林咲穂、朝倉 凛、バーンズ慈花が出演した。遠藤が振り付けたもう一作の『L’eternite -アルチュール・ランボーの永遠よりー』には、遠藤ゆまを中心に、斉藤真結花、三宮 結、周藤百音、田中優歩が出演。ほかに、オーディションで選ばれた遲澤 杏、八木映利香、藤原仁椛、水上怜香が、それぞれヴァリエーションを披露した。さらに、かつてオーディションを経て出演し、その後も「ジュンヌバレエYOKOHAMA」で活躍した中島 耀(ドレスデン国立歌劇場)も出演し『エスメラルダ』のタンバリンを使ったヴァリエーションを踊った。

休憩を挟み第2部では、『ジゼル』を踊った小野絢子と福岡雄大が素晴らしかった。小野は、普段聞き逃してしまうような小さな音楽の”フラグ”を、次々と振付に結びつけていく。軽やかなジャンプは、空中の最も高い位置に到達した際に、正確に音を捕まえていた。『タリスマン』を踊った寺田翠と大川航矢はロシア・バレエのスタイルで豪快な踊りを見せ、大宮大奨は自身振付のソロ『Jinen』で、息の長いシーケンスを途切れさせることなく、一定の緊張感を保ちながら踊った。スポットライトが照らす場所の変化が、時間の経過や空間の移動を表しているようだった。

第3部は、昨年イングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)で世界初演された、タマラ・ロホ版『ライモンダ』より2幕のパ・ド・ドゥが上演された。ジャン・ド・ブリエンヌが赴く戦争が十字軍からクリミア戦争に変更され、ナイチンゲールのイメージがライモンダの役柄の一部に採用されているという。出演はENBの加瀬栞と仲秋連太で、パ・ド・ドゥで聞かれるライトモチーフから、仲秋の役はアブデラクマンと考えられるが、ライモンダが明確にアブデラクマンに惹かれていることが見て取れる構成であった。小池ミモザのソロはマイヨー振付『Core Meu』よりCorri。小池は第一回から欠かさず出演しており、本公演には欠かせない存在だ。続くリアム・スカーレット振付『No Man’s Land』は第一次大戦100周年に合わせて、2014年に初演された作品。登場するのは戦地に赴いた男性と、国内の軍事工場で働く女性で、同じ空間にいない男女のパ・ド・ドゥである。お互いが目を合わせることなく繰り広げられる、親密でダイナミックな振付を、高橋絵里奈とジェームズ・ストリーターが詩情豊かに踊った。トリは昨年に続き菅井円加と二山治雄が出演し、おおよそガラ公演のラストの演目らしくない『リーズの結婚』を異次元のスケールで披露した。菅井のテクニックに裏打ちされた伸びやかな踊りは、ジャンプや回転はもとより、ポーズで止まっている時ですら感動を呼ぶ。二山は今年1月、同じく神奈川県民ホールで上演された『シンデレラ』に道化で出演した際に、ドタバタをやっても下世話にならない愛嬌たっぷりの役作りで、ダンサーとしての幅の広がりを感じさせたが、本公演でもおなじみの超絶技巧に加えて、コーラスらしい陽気さも表現し、かつてない充実した舞台を見せた。

(隅田 有 2023/08/05 14:00 神奈川県民ホール 大ホール)


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