February 18, 2023
東京バレエ団特別公演《上野水香オン・ステージ》Bプログラム
3回公演の中日でありながら、東京文化会館は大入りで、1階には補助席が出る盛況ぶりであった。一曲目の『白鳥の湖』第2幕より は、王子役として出演を予定していたマルセロ・ゴメスが舞台稽古中の怪我で降板。柄本弾が代役で登場したが、長年パートナーを務めているだけあって息のあった踊りを見せた。幕が上がるとアダジオから始まる構成で、観客を一気に作品の世界に引き込む力は見事である。四羽、三羽、オデットのヴァリエーション、コーダと、2幕後半をすべて上演した。キリアンの『小さな死』は技術的な精密さが詩情に結びつく作品だ。剣、布、バロックドレスなどを使いこなすというタスクも多い。安全圏(comfort zone)を突き破るようなスリリングな踊りを見せた、中川美雪と生方隆之介のパ・ド・ドゥが印象に残った。
二幕はプティの二作品に上野が出演し、ゴメスとは『チーク・トゥ・チーク』で共演した。舞台中央にテーブルが置かれ、女性ダンサーはヒール付きの靴で踊る粋な作品で、芝居っ気たっぷりのゴメスもめっぽう上手い。もう一つのプティの作品は、二組の男女が登場する『シャブリエ・ダンス』。上野水香と柄本弾、政本絵美とブラウリオ・アルバレスが出演した。二作の間に挿入された『パキータ』より は涌田美紀と秋元康臣がプリンシパルとして出演。純クラシック作品をすっきりとまとめ、公演全体を引き締めた。
第三幕はベジャールの『ボレロ』。上野といえば日本人離れしたスタイルや、身体性の高さに注目が集まるダンサーだが、本作は出演すること自体がファンの期待に応えているという点で、踊り手と作品との関係性が、他の作品とは異なるのではないだろうか。東京バレエ団への電撃的な移籍から早19年。次年度からはゲスト・プリンシパルとして活動していくことが発表された。日本を代表するプリマ・バレリーナの舞台を、これからも観続けることができるであろう素晴らしいニュースである。
(隅田有 2023/02/11 14:00 東京文化会館大ホール)
(隅田有 2023/02/11 14:00 東京文化会館大ホール)