December 14, 2020
東京バレエ団『くるみ割り人形』
昨年新制作された斎藤友佳理版は、『くるみ割り人形』の作品本来の面白さを引き出し、高く評価された。今年はちょうど一年ぶりの再演。3公演トリプルキャストの2日目は、マーシャと王子に秋山瑛と宮川新大が、ドロッセルマイヤーに柄本弾が出演した。
斎藤版はストーリーが細部までわかりやすく描かれる。パーティのシーンに続く、マーシャの寝室の場面は、短いながらも夢と現実の世界を繋ぐ、重要な役割を果たしている。クリスマスツリーが伸びる場面では周囲のセットも大きくなり、マーシャが小さくなっていることがはっきりと示される。おもちゃの兵隊とねずみの戦いの場面は、トゥシューズを履いた女性ダンサーが兵隊を、男性ダンサーがジャンプの多いねずみの役を踊り、動きの違いが際立つのが面白い。チャイコフスキーの音楽の中に立つ”フラグ”が丁寧に拾われて、むろん騎馬隊も登場する。雪の国はコール・ド・バレエの見せ場だ。二幕前半は各国の踊りのダンサーが、窓のついたクリスマスツリーのセットから顔を出し、まるでアドベントカレンダーのよう。花のワルツではセットが変わり、お菓子の国の宮殿でワルツとグラン・パ・ド・ドゥが披露される。
王子の宮川は、この一年で大きく変わった。9月のChoreographic Projectではこれまでにない色気を感じさせた。同月の『ドン・キホーテ』ではバジルを務めているが、筆者が観た日はエスパーダにキャストされていた。ニンに叶った気迫のある立ち振る舞いで、同役を踊った前年の『ドン・キホーテの夢』と比べ、その差は明らかだった。『くるみ』の王子としては、癖のない爽やかな役作りに昨年の初演時も好感を覚えたが、今年はマーシャを宝物のように扱う、うやうやしい仕草に磨きがかかっていた。昨年も宮川と組んだ秋山は、近ごろ次々と主役を射止めている。難しいパも軽々とこなす、はつらつとした踊りが持ち味だ。本作に限らずマーシャという役柄は泣き虫という設定だが、秋山の演じる現代的で明るいマーシャに沢山の涙は似合わないかもしれない。オーソドックスな味わいが魅力の斎藤版だが、現在の欧米の価値観に合わせて、今年は一幕に登場するムーア人の人形が木彫り人形に変更になっていた。
新型コロナウィルスの影響でしばらく舞台の上演が途絶えていたが、ようやく少しずつバレエ公演が再開し始めた。劇場スタッフはマスクとフェイスシールド、観客は観劇中もマスク着用が求められ「ブラボー」の掛け声は禁止。さらに終演時は時差退場を行うなど、徹底した感染対策が行われている。年末恒例の『くるみ割り人形』が観られることの幸せを、あらためて噛みしめる舞台だった。
(隅田有 2020/12/12 14:00 東京文化会館)