December 06, 2020

東京シティ・バレエ団《CITY BALLET SALON vol.9》


《CITY BALLET SALON》は、次の時代に作品を残すことを目指して、2011年2月に第1回を行った。第9回となる今回は、振付者として数々の実績を残す大ベテラン石井清子が2002年5月の《ラフィネ・バレエコンサート》で初演し、以後も何度か上演されてきた『ノスタルジー』、第1回の時に公演監督を務め、その後も第3回に『白いまじわり』、第4回に『白い命』、第7回に『終息への扉』、第8回に『セレナーデ』を発表してきた中島伸欣の新作『檻の中で』、第3回から『What is the true love?』『Road You Chose』『Road You Chose』『sinfonia eroica』『孤独の先に…』『未来への扉』『Finding Happiness』と毎回作品を出してきた草間華奈の『Life is…』、前回『The Seventh Position』を発表して振付者としての才能を印象付けた新進ジョン・ヒョンイルの新作『Two fethers』の4作品だった。

1本目は、ヒョンイルの『Two feathers』。『白鳥の湖』のメロディーをピアノで流し、白と黒の衣裳のダンサーたちにクラシックのステップを踊らせた。チャイコフスキーの感動的な主題を抽象的なダンスに仕立て直して、動き主体の舞台を出現させたのだ。最後にフォーキン振付の『瀕死の白鳥』まで、白と黒のデュエットに代えてしまい、抽象的なダンスの世界を観客に押し付けた。しかし「やはり元のままの方が…」という観客の想いを抑えきることはできなかった。そのような観客個々の心に葛藤を引き起こした白と黒のダンサーの動きが、ヒョンイルのねらい目だった。

草間の『Life is…』は、人生の折々にふと現れる美しいシーンを、好きな音楽を鳴らしてメモ書き風に並べた感じの舞台だった。繊細な感覚からにじみ出る何気ない動きの流れは美しい。しかしそれをひとひねりしたところに「作品」は現れる。メモ書きが作品になるまでには、もうしばらく待たなければならないようだ。

中島伸欣の『檻の中で』は、檻の中に閉じ込められている現代人の姿を描く。はじめに看守が消毒液を噴射するシーンがあり、バッハの無伴奏チェロ組曲第1番を使い、囚われのいろいろな場面を見せる。最後にまた舞台両袖からの噴射があり、幕となる。全体の構成に無理がなく、動きの統一感が整っている上に、音楽の使い方もたくみだ。ダンサーがそろいの青い手袋をはめていて、牢獄の雰囲気を漂わせる衣裳の使い方もうまい。檻の中の人々にコロナ禍に悩む現代人の姿が重なって見えた。

石井の『ノスタルジー』は、過ぎ去った遠い日々の美しい思い出を描く舞台。彼女ならではの動きの流れの魅力が随所に感じられ、そこに安心して浸っていたいという気分にさせる。すでに東京シティ・バレエ団のレパートリーに入っており、今後も見る機会のある佳作。

《CITY BALLET SALON》も次回は10回目。これまでに登場した多くの作品の中から、バレエ団のレパートリーに残したいベストの数本を選び、改めて見せてもらいたいと思う。

(山野博大 2020/11/8 豊洲シビックセンターホール)

jpsplendor at 22:55舞台評 | 短評
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