November 15, 2020

牧阿佐美バレヱ団『眠れる森の美女』再演


牧阿佐美バレヱ団がテリー・ウエストモーランド版の『眠れる森の美女』を3年ぶりに再演した。配役は、オーロラ姫が青山季可(3日)と中川郁(4日)、フロリモンド王子が清瀧千晴(3日)と水井駿介(4日)、リラの精が茂田絵美子(3日)と佐藤かんな(4日)、カラボスが保坂アントン慶(3日)と菊地研(4日)で組まれた。私は、中川・水井の4日を見た。それは、3年前に初めてオーロラ姫を踊った中川のその後の成長ぶりを確認したかったからだ。

彼女は2007年に橘バレエ学校を卒業して、2015年に『リーズの結婚』で初主役を踊り、愛らしい小柄な肢体とシャープなテクニックで注目を集めた。2017年のオーロラ姫では、ローズ・アダジオの初々しさ、幻影・目覚めの背景の森に溶け込む幻想的な透明感、グラン・パ・ド・ドゥの堂々たる存在感など、『眠れる…』ならではの多面的な見せ場を踊りこなす技を身につけていた。

牧阿佐美バレヱ団は、ウエストモーランドの『眠れる…』を1982年10月に初上演したが、そこでオーロラ姫を踊ったのは、川口ゆり子、ゆうきみほ、清水洋子、矢都木みつる、森下洋子の6人だった。森下の11年ぶりの牧阿佐美バレヱ団復帰出演は、当初予定されていた大原永子が英国での舞台出演のつごうで帰国できなくなったためで、大きな話題となった。私は、川口と森下の日を見たが、川口を中心にひとつにまとまった舞台と、松山のトップ森下を招いたことで緊張感みなぎる舞台という、全く別の印象の『眠れる…』を見ることになった。

ウエストモーランド版『眠れる…』のプロローグは、カラボス(菊地研)が登場する中盤あたりからの緊迫感がすばらしい。それが彼の創るダンス・シーンの緻密な振付とからみ合い、今回もいろいろと楽しい場面が並んだ。中川は、フロリモンド王子の水井駿介をはじめリラの精の佐藤かんなら有望な若手たちをリードする立場にあり、カラボスの菊地研らベテラン演技陣と協力して舞台をまとめあげる役割を果たした。

このところ牧阿佐美バレヱ団の指揮者は、ずっとデヴィッド・ガルフォースだった。今回の『眠れる…』も彼が振ることになっていた。しかしコロナ騒動で来日できなくなったために、冨田実里に代わっての上演となった。彼女の、テンポを目いっぱい上げてパンチを利かせた序曲による幕開けが、舞台進行を一段と活気づけた。冨田は、イングリッシュ・ナショナル・バレエなどでの海外の経験を経て、現在は新国立劇場バレエ団の常任指揮者だ。ダンサーの名演に、指揮棒で左手を叩いて観客の拍手に同調するなど、劇場空間の一体感を高めることに積極的な姿勢がうれしい。

(山野博大 2020/10/4 文京シビックホール 大ホール)

jpsplendor at 21:37舞台評 
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