October 12, 2020

勅使川原三郎ダンス公演『銀河鉄道の夜』


勅使川原三郎が、宮沢賢治原作の『銀河鉄道の夜』を舞踊化した。彼は2008年頃から、舞台と客席がひとつになったシアターχの開放的な空間を使って、さまざまな作品を世に送り出してきた。文学作品の舞踊化が多く、B ・シュルツ原作『春』による『春、一夜にして』、『ドドと気違いたち』、『空時計とサナトリウム』、『天才的な時代』、『青い目の男』、原作『肉桂色の店』による『シナモン』、S・レム原作『ソラリス』による『ハリー』、S・ベケット原作の『ゴド―を待ちながら』、ドストエフスキー原作の『白痴』、A・ランボー原作の『イリュミナシオン〜ランボーの瞬き〜』などが並ぶ。

『銀河鉄道の夜』は、彼自身が作ったエレクトロミュージックと朗読でスタートする。まず勅使川原のジョバンニが登場し夢の世界へ。銀河に沿って走る列車の中の風景が繰り広げられる。佐東利穂子のカンパネラが乗っている。舞台カミ手には全身灰色の旅行客6人が座る。舞台の前に置かれた白い布の帯は、宇宙を流れる天の川だ。ジョバンニはどこまでも親友のカンパネラといっしょのつもりなのだが、とつぜん舞台は地上の日常に。カンパネラの父親が登場して、息子が溺れた子供を救おうとして水死したことを伝える。

いつのまにか列車からカンパネラの姿が消えている。ひとりになったジョバンニ。彼は舞台の奥へ静かに消え『銀河鉄道の夜』は終る。しかしその先に、勅使川原と佐東の長いデュエットがあり、宮沢賢治の原作にない、踊りでなければ表現できない何かを観客に伝えた。勅使川原の文学作品の舞踊化は、朗読をバックに流し、シアターχの照明、音響の機構を巧みに使い、舞台上に抽象的な小道具を置いたりして、原作の内容を伝え、そこに勅使川原と佐東の踊りを重ねる。

しかしバレエや現代舞踊の分野でストーリーを伝えようとする時には、動きをどのように創るかが大事なポイントになる。原作の朗読をそのまま使う方法は、安易な手段として一段低く見られてきた節がある。ところが日本の芸能では古来、言葉に重要な役割を担わせる。長唄、義太夫などの歌詞がストーリーのすべてを語りつくしくれるので、踊り手は踊ることに専念することができる。勅使川原の『銀河鉄道の夜』は、その手法を用いて今回も大きな成果をあげた。

(山野博大 2020/9/19 シアターχ)

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