September 20, 2020
勅使川原三郎+KARAS《アップデイトダンス》シリーズ第74弾『妖精族の娘』
勅使川原三郎+KARASの《アップデイトダンスシリーズ》が8年目に入った。今回はロード・ダンセイニの幻想小説『妖精族の娘』の舞踊化だった。この短編は、死と無関係に生き続ける妖精族の世界のある出来事を描く。彼らは、自然の造形の美しさに対して、人間のように敏感な反応を示すことがないという設定で物語は進行する。その妖精族のひとりの娘が、死によって必ず最後を迎える人間ならではの得難い心のときめきを感じてみたいと願うところから、話は始まる。中央に光の筋が揺れ動くオープニング。しだいに妖精族の娘役の佐東利穂子の姿が見えてくる。暗い舞台の床には白い円形の板があちこちに置かれている。それにサスペンション・ライトをあてて鮮やかな明暗の対比を作り出す。前方に紗幕を下ろした舞台で、朗読、音響と共にダンスが進む。ほとんどが白いドレス姿の佐東のソロで、黒いスーツ姿の勅使川原が物語の流れに応じて、さまざまな役割を受け持った。
娘は人間のように自然の美しさを体験してみたいと願うのだが、そのためには魂を持たなければならない。娘の希望を叶えてやろうと妖精族の大人たちが、自然界のいろいろなものを組み合わせて魂を作り上げる。娘がそれを左胸の少し上のあたりに埋め込むと、人間の感性が芽生える。嬉しそうに踊る妖精族の娘。人間のように、繊細な自然の美しさを楽しんだのだが……。魂を身体から取り出して、元の姿にもどりたいともがく娘を見せて作品は終わる。人間が必ず死ぬ存在であることの意味が伝わった。舞台床の白い円形にライトをあてて場面を組み上げた妖精族の世界が、紗幕の向こう側に広がっていた。そこを佐東が圧倒的な迫力で駆け抜けた。
終演後のトークで、今回の『妖精族…』と前回の『タルホ』で紗幕を使ったのは、コロナ対策だったことが判った。誰もが死を身近に感じる最近の状況下での『妖精族の娘』上演は、死ななければならない人間が、その代償として得ているものの「大切さ」を考えさせる舞台だった。
(山野博大 2020/8/24 カラス・アパラタス)