October 18, 2019

Iwaki Ballet Company《Ballet Gala 2019》


キミホ・ハルバート振付の『AGUA』で幕を開けた。この作品は2008年に札幌で初演し、以後改訂を加えてきたもの。暗い客席のあちこちで懐中電灯のライトが点滅し、それを持ったダンサーが続々と舞台に上がってきた。移動式の姿見が立ち並ぶ舞台にコンテンポラリーの動きを多用した複雑な群舞が広がり、観客を魅了した。

次いで上演されたのは『THE 黄帝心仙人』。踊ったのは黄帝心仙人と称する舞踊家だった。作品タイトルと出演者が同じというのは珍しい。彼はアニメーション・ダンスを名乗り世界的に知られる人物とのこと。機械のこすれるような音を聞かせ、ロボットのぎくしゃくとした動作を踊り、バレエの舞台ではあまり味わえない、別の世界の感覚を客席に振りまいた。そんなダンスを見せようという公演制作者としての井脇幸江の大胆な発想が、ガラに集った観客に大きな刺激を与えた。

そして篠原聖一振付の『太陽の黒点』を下村由理恵と浅田良和が踊った。大ベテランの登場だ。自分が踊るところを見せようという公演の場合、普通はこういう人選はしないのではないか。このあたりも井脇のユニークなところだ。篠原の抑制の効いた振付を下村・浅田のコンビがしっかりとフォローし、観客の心をつかみ取った。

井脇自身は『瀕死の白鳥』と『シェヘラザード』を踊った。『白鳥…』の風格ある演技はさすがに一級品だった。菅野英男の金の奴隷を相手にゾベイダを踊った『シェヘラザード』は、濃厚なエロスを大量に発散するところまでは行かなかったと思う。ガラの最後を飾ったのは、新国立劇場バレエ団の米沢唯と芳賀望を芯に据えた『パキータ』だった。しっかりとした仕上がりの舞台は文句のつけようがない。踊りたくて公演をやっている本人がトリを取るのが一般的だと思うが、このプログラム編成も井脇流だった。

公演パンフレットの内容が、またユニークだった。出演した井脇、キミホ、下村、米沢の女流4人による座談会が10ページも掲載されていたのだ。「4人の出会い」に始まり、「ダンサーの結婚のお相手は」「人生の苦悩、挫折と光」「長く踊り続けるのに必要なことは」と続き「踊りとは生き様そのもの」まで、4人が本音をさらけ出した内容は読みごたえ充分。これも普通ではない。

(山野博大 2019/9/6 新宿文化センター 大ホール)

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