March 10, 2015
Noism2《春の定期公演 2015》(「ユルリ島の馬」「かさねのいろめ」)
Noismの付属研修生カンパニーNoism2が、春の定期公演を催した。上演されたのは、Noism2の専属振付家兼リハーサル監督に昨シーズン就任した、山田勇気の演出・振付による「ユルリ島の馬」と、Noism1の創立時メンバーであり、現在はドイツのフォーサイス・カンパニー等でダンサーとして、また、近年では酒井はなとのユニットでダンサー・振付家として活躍する島地保武の演出・振付による「かさねのいろめ」の二作品である。
会場は、カンパニーの活動拠点であるりゅーとぴあ(新潟市民芸術文化会館)のスタジオB。ブラックボックスの空間に客席が設けられ、中央には幕が吊るされている。仮面をつけた二人のダンサーが幕の前で狂言回しよろしく踊り始め、幕が開くと円周上にひもを吊るした空間内に横たわるダンサーたちがいる。外部と半ば隔絶した無人島を象徴的に示す美術と馬たちを表す美しいシーンから始まる。世話をする漁師の高齢化によって馬の飼育が困難になり、牡馬を間引きし、現在は野生化した雌馬のみが残っているという状況が、ナラティブになりすぎず、甘ったるい情感は排しながら描かれていく。馬を島へ運び入れて労力として使用し、しかし都合によって切り捨てる人間と、翻弄される馬の関係性にフォーカスしながら抽象性と強度のある身体によって表現したため、二者の関係性は自然と人間、個人と社会など観客がどのようにもでも読み替え、想像を広げることが可能となる。時間をかけて練られた構成と的確な振付、そしてそれを十分な身体能力と集中力、表現力をもって踊りきったダンサーたちに拍手。ジュニアカンパニーと言えども、すでにプロフェッショナルなダンサーとしての資質を備えた若いダンサー(女子7名、男子2名)と、有望な専属振付家である。
一方、島地の「かさねのいろめ」は、フォーサイス風に身体の可動域をバレエから大きく逸脱させながら、スリリングに身体と身体が交錯する振付と、定型を破る構成の中断や遊び、ライブで操作される音楽との即興的な反応が入り混じる作品。蓮沼執太の作曲・演奏による音楽は、ミュージックコンクレートのような現実音(ダンサーたちがスタジオで出した音や声、水の音などの録音)と既存の音楽などが使われており、シーンごとに表情を変える。タイトルの意味は、「平安貴族の衣の表地と裏地の配色、また複数の衣を重ねた配色」であり、衣装のデザインには奇抜さを加えながら、十二単のような美しい色が乱舞する。若いグループの瑞々しさや柔軟な発想、身体の可能性そのものが作品となった。
さて、このように作品もダンサーも十分に楽しむことができるのであるが、本稿では、日本で唯一の劇場専属のコンテンポラリーダンス・カンパニーであるNoismの存在に関しても触れておきたい。彼らが拠点としている新潟に、コンテンポラリーダンスの理解や観客の需要が初めからあったわけではない。カンパニーを主宰し、劇場の舞踊芸術監督でもある金森譲を始め、ダンサー、スタッフたちが自らのダンスの水準を高めると同時に、地域に根付き支持されるカンパニーとなるよう活動を積み重ね、信頼関係を築いてきたのである。今回の公演で会場を満席にしたのは、老若男女の観客であり、客層がほとんど固定して若者ばかりになっている東京とはまったく異なる状況だった。しかも、公演後のアフタートークでは、場所をスタジオからロビーに移して行われたにも関わらず、ほとんどの観客が残っていたのである。これも東京ではあり得ない(そういえば、神戸のdance boxでも様々な層の観客のほとんどがアフタートークに残っていたことに驚いたことがあるが)。
本公演で、物語性があり理解しやすい作品と抽象的・実験的な作品を組み合わせたプログラムのバランスもよかったのだろう。観客の想像力と創造力を十分に刺激したと思われる。リラックスした雰囲気で話をする金森、島地、蓮沼に対して、熱心な質問が観客から寄せられ、出来上がった作品の解釈のみならず、作品を創造する過程、カンパニーメンバーの成長などに対して、積極的に知り、関わっていこうとする観客の様子が伺えた。
また、山田作品の美術は、新潟で建築と美術を学んだ若手美術グループKiKiKoが、衣装は新潟で活躍する山田志麻が担当している。美術と衣裳でも地元新潟とかかわりのあるアーティストを加えて、総合芸術としての舞踊の特質を活かした、地域からの発信力がある作品作りを目指していることがわかる。
現在、新潟には有志(観客)によって設立された「Noismサポーターズ」があり、ブログだけでなく、立派な会報を作成して公演レポートやインタビュー、情報の発信を熱心に行っている。昨年には、「舞踊家・井関佐和子を応援する会」として「さわさわ会」も設立されたようだ。地元の人々に愛され、応援され、それが人々の創造性やコミュニティ作りに繋がっていることがわかる。
但しこのような劇場、専属カンパニー、地域、観客との関係は自然発生的に生まれたわけではないだろう。公演時の折込チラシに「ポスター、チラシを置かせてもらっている店舗・企業」の一覧があった。ダンサーが個々に訪れて、協力を依頼したことも書かれており、ダンサー側からの働き掛けも熱心に行っていることがわかる。また、Noism2は地元のイベントやオープンスペースでの公演も行い、普段劇場に来ない人、コンテンポラリーダンスに興味のない人たちにも見て、知ってもらう活動を行っている。ダンサーたちは単にダンスの技術を磨くだけでなく、地元に根付き、支持されるために自ら働いているのである。