April 04, 2013
ドキュメンタリー映画『そしてAKIKOは…』
2011年9月23日、75才の生涯を終えたアキコ・カンダの後半生から死の直前までを描いたドキュメンタリー映画『そしてAKIKOは…』が公開される(2013年6月1日から岩波ホールで)。
アキコの踊りを記録した映画としては、他に1985年の『AKIKO…あるダンサーの肖像』が知られている。その制作にあたった工藤充と演出を担当した羽田澄子が、この『そしてAKIKOは…』も作った。この二人のことをアキコは「お父さん、お母さん」と呼んでいたそうだ。そういう関係にあった人たちだけに、彼らがこしらえた映像には、アキコという稀有な芸術家の姿のありのままが、暖かく写し出されていた。
前作の『AKIKO…あるダンサーの肖像』から、アキコの若き日の活躍ぶりを手際よく取り入れて紹介した後、2010年11月に青山円形劇場で行われたアキコ・カンダ・モダンダンス公演《愛のセレナーデ》のかなり綿密な記録映像となる。ここでのアキコは、まだかなり元気に踊っていたし、公演終了後、来てくれた人たちと客席で交歓する姿も、いつもと変わりがなかった。
しかし2011年9月の《花を咲かせるために〜バルバラを踊る》では、状況が一変していた。ヘビー・スモーカーのアキコは、肺を癌に冒されていたのだ。入退院を繰り返しながらも公演の準備を進める姿が、そのまま映っていた。そして公演当日アキコが踊った新作の『生命のこだま』と再演の『黒いワシ』の映像となった。私は「黒い衣裳で中央の椅子に座ったアキコは、病後のやつれが痛々しかったものの意外に元気だった。椅子を使ってバランスをとり、懸命にからだをコントロールする姿は彼女のどこまでも踊り続ける意志そのものを現わしていた」と『生命のこだま』について書いたのだった(オン・ステージ新聞)。
踊ること以外には、ほとんど何もなかったアキコの生涯をこの映画はたんたんと記録して、その輝きを見る者に示した。そのアキコに破天荒な生き方を許し、彼女を物心両面から支えた姉たちの存在に、映画は少しだけ時間を割いていた。アキコ・カンダという一人の芸術家を世に送り出してくれた神田家の皆さんをはじめ、彼女のソロを支えたカンパニーのメンバーのひとりひとり、そして多くの隠れた支援者たちに感謝しつつ、この映画を見終えた。
アキコがアメリカに渡り、マーサ・グラーム舞踊団のスター・ダンサーとして踊る姿から、帰国して作った多くの舞台の映像なども少しづつだが紹介されている。この映画には、アキコ・カンダという舞踊家のことを知る上で、絶対に欠かせない資料としての価値がある。
(山野博大 2013/04/03 TCC試写室)
(山野博大 2013/04/03 TCC試写室)