October 07, 2012

東京バレエ団『オネーギン』29日

オネーギンの木村和夫は、当たりを取った2010年の初演時を超えた。一幕中盤、初めてタチアナを持ち上げるリフトは、入りの音を味方につけて大胆さを強調し、タチヤーナが恋に落ちる瞬間を印象づける。初演時は ”元・社交界の寵児” らしさが薄かったが、今回は二幕でオリガを捕まえる不躾な仕草に、過去の放蕩の片鱗が見られた。身分にそぐわない扱いをされていることに気づかないオリガもまた、役に相応しい。一幕と三幕の二つのパ・ド・ドゥには、オネーギンが上手に向かってアントルラッセをした後、走りこんでくるタチヤーナをリフトするシークエンスがある。木村は早くから、左右の腕の高さを変えた姿勢を取り、タチヤーナを待つ様子を見せた。さらに三幕では、タチヤーナの愛情を取り戻すかのような期待を示し、同じ振りが二つのパ・ド・ドゥに出てくることに対する、演じ手側の解釈を加えた。斎藤友佳理のタチヤーナは、前回の気迫溢れる演技には及ばなかった。上半身の柔らかさが不足ぎみで、組んで踊っている際に体の向きが固定されて、オネーギンを意識している様子が伝わりにくい。レンスキーの長瀬直義が活躍した。朗らかさを生かしつつ、しかし地に頼りすぎずに、恋する詩人役を構築した。レンスキーのトレードマークのアラベスクなど、ステップやサポートを更に丁寧に仕上げていくことで、今後ますます役に深みが生まれるだろう。オリガに高村順子、グレーミンに後藤晴雄。(森本ゆふ 2012/09/29 15:00 東京文化会館大ホール)

outofnice at 18:17短評 
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