October 13, 2010

【公演の見どころ紹介:9】茂田絵美子インタビュー:牧阿佐美バレヱ団『ラ・シルフィード』

1023日、24日に、牧阿佐美バレヱ団が12年ぶりに上演する『ラ・シルフィード』。その舞台で、一人の若きバレリーナが主役デビューを飾る。入団4年目の茂田絵美子だ。NHK教育テレビで先ごろ再放送された『スーパーバレエレッスン ロイヤル・バレエの精華 吉田都』にも生徒として出演し、ジゼルとキトリのヴァリエーションを披露していたのが記憶に新しい。バレエ団でも、『ジゼル』のドゥ・ウィリ、『眠れる森の美女』のフロリン王女等を踊り、注目していた方も少なくないだろう。本番を1か月後に控えてリハーサルに励む茂田に、初の主役、初役に臨む意気込み、そしてバレエ人生について、聞いた。

45dc5235*役作り、エンジョイしています

今回の配役を知った時は、ただただ驚きました。「私でいいのかな?」と不安になることがあったくらい……。でも今は、シルフを踊らせていただく喜びの方が大きいです。

リハーサルが始まって、3か月が過ぎました。シルフのように、演劇性の強い役は初めてですから、役について考えたり、映像をたくさん見たりする時間がしっかりとれてよかったです。そして、作中のマイムを練習していくうちに、シルフのキャラクターを理解できるようになりました。彼女はとても純粋な性格。ジェイムスのことがただただ好きで、彼のことしか見えていないんですね。自分で言うのも恥ずかしいですが()、人を一途に思う点、シルフと私は似ているかもしれません。牧阿佐美バレヱ団がレパートリーとしているブルノンヴィル版には、一人で踊るシーンも多いのですが、そんなときも「ジェイムスが私のそばにいる」……そう思いながら踊っているんですよ。

演技に関する心配は、少しずつ解消できています。でも、踊りで「空気の精らしさ」を表現するのは大変ですね。お客様もそこを期待されていると思いますし……。踊りにちりばめられている小さなジャンプも難しい。ボリショイ・バレエのナタリア・オシポワさんが踊るシルフィードをビデオで見ましたが、本当に飛んでいるような、軽やかなジャンプにはびっくりしました。そこで、ジャンプの練習に加えて、妖精らしい軽やかさを私なりに見せるために、上半身の動きを研究しているんです。今年の夏に、ソレラ・エングルンド先生(デンマーク・ロイヤル・バレエ・ミストレス)がリハーサルのために来日された時には、「呼吸」について教えていただきました。息を止めて踊っているように見えては、動きと動きがつながらずにブツブツ切れてしまう印象をお客様に与えてしまい、踊りにも軽やかさが出ない。そこで、実際に鼻で呼吸するだけでなく、ポール・ド・ブラ(編集註:腕の動き)も生かして体全体で息をしているかのように、上半身を意識的に動かします。そうすることで、個々の動きが滑らかにつながって見えるようになり、踊りに軽やかさが出るんです。リハーサルを重ねて、『ラ・シルフィード』の世界がますます好きになりました。自分なりに見どころを考えても、「全部」としか答えられません。ふと気が付くと音楽を口ずさんでいることが多くて、「どれだけ好きなの?」と自分でもあきれてしまうくらい、この作品にはまっています! 主役を踊るということは、自分が中心となって舞台が進んでいくということ。責任を感じますが、「思いがけない抜擢だからこそ、皆さんの期待に応えたい」という気持ちでいっぱいなんです。

 

*他キャストにも注目

私以外の主要キャストの皆さんは、経験豊かな先輩ばかり。本番を視野に入れて、普段のコンディションも整えていることなど、間近で見ていて学ぶことばかりです。パートナーの菊地研さんは、パッと役になりきってしまうタイプで、情熱的な演技をされる方です。私も研さんに負けないように、しっかり演じなきゃと思うのですが、リハーサルでは先生から「絵美ちゃん、負けてるわよ!」って()。私が初めて主役を踊るので、研さんはすごく優しく接してくださいます。心強くてありがたいですね。2日目の主役、青山季可さんのシルフは、無邪気でちょっといたずら屋さんな雰囲気があります。リハーサルを見学していると、「かわいいなあ」って思わずにはいられないですね。私と同じ日にエフィを踊る日高有梨さんは、初役なのにもうエフィを自分のものにしています。最近キャスト変更があって、宮内浩之さんが私の出演日にグエンを踊ることになりました。まだリハーサル回数は少ないのに、彼らしいグエンができつつあるんですよ。マッジ役の吉岡まな美さんの演技は大迫力! 2日間マッジを踊られますが、私も自分が踊らない日に、まな美さんのマッジを見るのが楽しみです。

 

*母のような恩師、鍛えられた留学生活、そしてプロ生活へ

私は6歳の時、北海道の内山玲子バレエスタジオでレッスンを始めました。小さい頃はできないことがあると悔しくて泣いていましたが、それでもバレエをやめたいって思ったことは一度もないんです。バレエの道は果てしない。でも、できないことは全部できるようになりたい、そう思ってレッスンを続けてきました。玲子先生は厳しさの奥に母親のような優しさをもって、私を育ててくださった。先生は、今年3月に亡くなられましたが、今でも私を見守ってくださるという気がしてなりません。5月にフロリン王女を踊った時、舞台に出て行けないんじゃないかと思うくらい緊張したのですが、先生のことを思い出すと、その緊張もすっと抜けたんですよ。その後、2004年にモスクワ・バレエ・アカデミーに留学しました。同年にNBA全国バレエコンクールでスカラシップをいただき、アカデミーの校長先生にお話をいただいたのですが、私はロシア・バレエが大好きだったので、とにかく嬉しくて。両親にも相談せずに留学を決めてしまいました ()。私は脚が弱かったのですが、アカデミーではバー・レッスンをすべてルルヴェ(踵を上げること)で行うこともあり、鍛えられました。6時まで授業があり、その後学校公演のリハーサルが入る……とハードな毎日。でも、本場の舞台に立たせていただき、独特の緊張感を味わえて、充実した留学生活でした。親元を離れ、決して治安のよくないロシアで生活したことで、精神的にも強くなれたと思います。
牧阿佐美バレヱ団には、憧れのダンサーが多くいらしたこともあり、日本で踊るならここがいい、とずっと思い続けていました。入団してからは、学生だった頃と違い、体調や体型も自分で管理し、踊りのクオリティも向上させていかなくてはならない。無我夢中でレッスンするうちに、あっという間に月日が流れていったという気がします。

 

*公演に向けて

同じバレエスタジオ出身の秋山珠子さんが踊るコンテンポラリー作品を見たときに、踊りが心に響いてきて余韻が残る……そんな強い印象を受けたことがあります。クラシック作品でも、そんな感覚をお客様に抱いていただけるダンサーになりたいですね。
今回の公演では、「茂田絵美子」というダンサーを知っていただけたら嬉しい。でも、それ以上に、舞台全体を素晴らしいものにしたいという気持ちが強いんです。『ラ・シルフィード』と一緒に上演される『セレナーデ』も、独特の構成が見どころです。おとぎ話そのもののシルフの世界と、バランシンの抽象的な世界。タイプの違う2つの作品を同時に楽しめる――そんな贅沢を味わえますので、ぜひ公演にいらしてください。私も、お客様のご期待に応えられるよう、残された時間で精いっぱい努力したいです。どうぞ、よろしくお願いします!

 (安藤絵美子 2010/09/23 牧阿佐美バレヱ団にて)

 

★牧阿佐美バレヱ団『ラ・シルフィード』<全幕>(同時上演『セレナーデ』)

20101023日(土)15時開演、24日(日)14時開演

※茂田の出演日は23

会場:ゆうぽうとホール

問い合わせ:牧阿佐美バレヱ団公演事務局 電話:03-3360-8251, http://ambt.jp
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emiko0703 at 22:09公演の見どころ 
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