August 23, 2010

【公演の見どころ紹介:7】カメルーン国立舞踊団

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「カメルーン国立舞踊団」が
9月、全国14都市で縦断公演を行う。来日は愛知万博以来5年振りだ。カメルーンと言えば 日韓共催ワールドカップの際のキャンプ地、中津江村との交流が話題になった。サッカーが盛んな国という印象があるが、芸術面では未だ馴染みが薄い。カメルーンのダンス、そしてダンスを育んだ文化や習慣について紹介する。



地理 〜アフリカ大陸の縮図〜

アフリカ大陸の西、赤道よりやや北に位置する、ギニア湾に面した国で、ナイジェリア、チャド、中央アフリカ共和国など6カ国と国境を接している。南北に長い三角形をした国土は日本の約1.26倍。アフリカ大陸で見られる地理的特色を一カ国に抱えることから「アフリカの縮図」という言葉がしばしば使われる。首都ヤウンデ(Yaounde)と、商業都市ドゥアラ(Douala)は共に、中央から南側に位置している。

文化 〜争いの少ない多民族国家〜

多くの死者を出した1950年代の植民地独立戦争以降、大規模な紛争はなく、他のアフリカ諸国と比べて安定した経済発展を遂げてきた。キリスト教徒50%(主に南部)、イスラム教徒22%(主に北部)の他、25%の人々は伝統的な神々や先祖を信仰している。サッカーの試合に呪術師を同行させることがあると言われており(時にはチームドクターとして!)、キリスト教徒、イスラム教徒であっても、いにしえの信仰が国民の生活習慣に根付いている。

国内には250以上もの異なる民族が暮らしている。第一次世界大戦後、フランスとイギリスの支配下にあった歴史から、公用語としてはフランス語が最も広く使われ、次に英語が話される。現大統領の出身民族が公務員として多く採用されるなど、偏った優遇がないではないが、特定の部族が支配権を独占することはない。多くのアフリカ諸国が紛争を経験するなか、カメルーンは何十年にも渡り対話を重視した政策で、民族同士の敵対を回避してきた。

衣装 〜多様なコスチューム〜

気候や習慣の違いから国内には様々な民族衣装が存在し、現在も多くの地域で日常的に着られている。現地の人々は衣装から出身地域が分かると言われており、本公演ではコスチュームが見所の一つだ。鳥の羽を模した髪飾りを被り、腰ミノを付けた熱帯雨林の装いや、色鮮やかな高原地方のドレス、ゆったりと身体を覆う北部のアラブ風ガウンなど、服装を通して地域ごとの特色が感じられるだろう。 

音楽 〜マコッサとビクツィ〜

カメルーンは音楽性豊かな国である。特に地方では、祭りや宴会のような特別な席に限らず、水汲みの合間や畑を耕しながら、日常的に歌が歌われる。伝統的な音楽に楽譜やテキストはなく、代々口伝で受け継がれてきた。

20世紀以降に発展した音楽分野では、マコッサ(Makossa)とビクツィ(Bikutsi)が有名だ。マコッサのジャンルで有名なミュージシャンに、ドゥアラ出身のマヌ・ディバンゴ(Manu Dibango)がいる。1933年生まれのディバンゴはファンクやフュージョン・ジャズとマコッサを融合させ、70年代にヨーロッパやアメリカで大ブレイクし、アフロ・ファンクの先駆者の一人となった。今回の公演では、『カメルーンヘようこそ』という作品で、ディバンゴの曲が使われるそうだ。またビクツィはヤウンデ周辺の民族ベティ(Beti)の音楽がルーツとなり、フォークソングからポップミュージックに発展した。

舞踊団 〜カメルーン国立舞踊団〜

カメルーン国立舞踊団は首相令により国立文化事業の一部門として、国立劇場、国立楽団と共に1975年に結成され、1977年から正式に活動している。海外公演を主とするカンパニーで、専属のダンサーたちは国内の様々な地域から集まっている。ダンスはカメルーンの人々の生活に密接しており、国民は皆ダンサーと言っても過言ではないが、舞踊団のメンバーは自身のルーツの踊りだけでなく、国内の様々な民族舞踊を習得している。現地では「Ballet National du  Cameroun(カメルーン国立バレエ団)」と呼ばれていることからも、専門的なダンス集団として認知されている様子が伺われる。ダンサー達は日々、バレエやモダンダンスのレッスンを受けており、今回上演される演目にはモダンダンス色の濃い作品も見られる。

国立舞踊団は、国内に存在する様々な舞踊を、劇場芸術として海外の観客に披露することを主としている。一晩中踊られる習慣のあるダンスなどは、そのままでは舞台作品として適切ではない。上演される作品は全て、各地に伝わるステップを元に、劇場の若手振付家の手によって、5分から10分のダンスピースとして再構成されたものである。カメルーンの伝統舞踊では殆どの場合、男性と女性は別々に踊る。同時に踊る際は、円の内側と外側に別れるなどのフォーメーションを取り、お互いが接触する事は極めて稀である。本公演では男性と女性が交互に並び、時には組んで踊る様子が見られるが、これは劇場用に再構成された演出の特徴と言えるだろう。時には、狩り・採集の様子や、食事を連想させる振りなど、ステップと関連した地域の生活習慣が紹介されておりユニークだ。

来日メンバーは、振付家・ダンサー共に若く、伝統舞踊と劇場芸術の融合から導かれる芸術性には、未知数の部分もある。しかし「文化の紹介」という枠を超えて、現代の観客の目にうったえる作品を発表しようとする意欲が感じられる。著名なジャズ・ミュージシャン、リチャード・ボナの楽曲を使った『水の流れ』という作品では、しっとりとしたモダンダンスのムーヴメントで、同国の「今」を表現することに挑戦している。民族舞踊を劇場芸術として再構成し成功を収めた先例としては、スペイン舞踊界の巨匠、故アントニオ・ガデスの功績などもあり、国の代表として各地で公演を行うカンパニーが、どのような方向に発展していくのか注目していきたい。

作品について

ダンサーと作品の魅力は、実際に劇場で感じていただきたいので、ここでは個々の作品を紹介するのではなく、全体的な特色を述べたい。

他国の民族舞踊の中には、脚さばきが見所であったり、腕の動きが独特であったりと、身体の一部が注目されるものがあるが、本公演の多くのダンスは全身をフルに使う。トルソを前後にうねらせるように大きく動かすと同時に、足は細かいステップを踏み、腕は激しく前後や上下に動く。バレエのように身体の軸を一本に絞って踊る技法と異なり、サハラ以南のブラックアフリカ各地で見られる「多中心的」なダンスだ。身体の各パーツが別々に動いているように見えることがあり、ジャズダンスやブレイクダンスで用いられる「アイソレーション」のテクニックに通ずるものがある。

ステップはエネルギッシュな生演奏に合わせ、休みなく続く。木琴のリズムで足踏みを繰り返していたかと思うと、今度はドラムのリズムに乗り換えたりと、打楽器を中心に構成された演奏ならではの、ダイナミックな音の取り方が面白い。個々のダンサーには存在感があり、誰もがソリストでありアンサンブルである。舞台構成は、15名前後のダンサーと5名のミュージシャンを予定しているようだ。

公演情報 

素晴らしい身体能力を持つダンサーと、250以上の民族が育んだ伝統的なステップという財産を持つカンパニーである。フレッシュなメンバーたちはBunkamuraオーチャードホール(東京都渋谷区)を始め全国14都市で、どのようなステージを見せてくれるのか。ダンスに興味がある方、アフリカやカメルーンという国に感心がある方は、是非とも実際に劇場で確かめていただきたい。

公演情報: http://www.min-on.or.jp/special/2010/cameroon/index.html

(隅田有 2010/08/23)
 

参考文献
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1. 
体験取材!世界の国ぐに 42

「カメルーン」ポプラ社 (2009/04) 渡辺 一夫 ()

小学校高学年以上を対象にした、世界各地の文化を紹介するシリーズのカメルーン版。写真をふんだんに用いて、豊かな自然や、人々の暮らしが紹介されている。

2. カメルーンがやってきた中津江村長奮戦記 宣伝会議(2002/11) 坂本  ()

2002年に日本中の話題をさらった、中津江村とカメルーン代表選手団との交流が

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記されている。本公演と直接関連はないが、中津江村の村民やボランティアの人々の奮闘、柔軟なアイデア、大らかさなど、当時の村長・坂本氏以外の人々の声も多く掲載されていて、とにかく面白い。本国では国民的ヒーローであるナショナルチームのメンバーの、暖かい人となりが端々に感じられる。
 

3. Culture and Custom of Cameroon.  
Greenwood Press (2005/06) John Mukum Mbaku
(著)

カメルーンの歴史や文化、信仰や習慣について、各地域の代表的な民族ごとに丁寧に説明されており、専門的だが分かり易い。「音楽とダンス」について一章が割かれている。

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