November 22, 2020


H・アール・カオスを主宰し、白河直子とともに多くの舞台を創ってきた大島早紀子が、オペラ『トゥーランドット』の演出・振付で舞台に戻った。オペラ全体の演出を担当し、その中で白河直子をトップに、斉木香里、木戸柴乃、野村真弓、坂井美乃理、YUKIのダンサーたちを踊らせた。

大島は、ダンサーを吊って空中に舞わせる振付を見せることが多かった。それがこの『トゥーランドット』でも使われた。トゥーランドット姫(岡田昌子)はその求婚者に3つの質問を行い、それに答えられない者を容赦なく処刑した。しかし王子カラフ(芹澤佳通)は、みごとに3問を正解してしまう。求婚を拒んだトゥーランドット姫に対し、王子は明朝までに自分の名前を示すことができたらと逆に質問を投げかけ、夜明けを待つ。

大島は、舞台を大きく全面的に使い、空中にダンサーを配置してダイナミックにストーリーを進め、姫の難問を王子が解いて行く過程をいくつもの見せ場にこしらえた。宙づりの振付は、空中を自由に舞うところを見せることに尽きると考えがちだが、大島は空中でのポーズを多用し、それをアクセントに使い観客の視線をくぎ付けにした。この手法は、カーテンコールでも使われた。ダンサーたちが空中で動きを止めて姿勢を正し、観客の拍手に応えるところが、また美しい見せ場となった。

テンポの良い舞台進行、迫力あるダンス・シーンの展開を伴った大島の『トゥーランドット』は、新しいオペラの楽しみを創造した。H・アール・カオスはすでに創立25年になるが、大島、白河の勢いはいささかも衰えていない。舞踊の舞台への復帰が期待される。

(山野博大 2020/10/18 神奈川県民ホール 大ホール)

jpsplendor at 14:08短評舞台評

November 18, 2020


SPACE FACTORYの《造形と舞台のあいだ展》シリーズ“夢の浮橋”第1章『苦悩の春』は、「源氏物語」に登場する、藤壺の宮(清田裕美子)、六条御息所(船木こころ)、葵の上(カナキティ)、空蝉(花柳ゆかし)の4人の女性の生き方を描いた舞踊作品だった。ナビゲーター(原佳代子)の語りで進行し、源氏役のテノール(鳥尾匠海)が女性たちの相手を歌で受け持った。この手法は、長唄でストーリーを伝え、それに舞踊を重ねる日本舞踊と同じ。しかし、他分野の舞踊と関わることで新しい語り物の世界を目指す。

六条御息所の霊と葵の上の葛藤シーン以外は、「源氏物語」に登場する女性たちの心情を、日本舞踊、現代舞踊、コンテンポラリー・ダンスなどの踊り手たちがそれぞれに描いた。どこかに舞踊で描くことを納得させるような「ひねり」の部分が欲しかった。しかし個々の踊りを連ねた場面展開には、どこか絵巻物を見るような優雅な感じが漂った。

舞台づくりの中心となった花柳ゆかしは、花柳茂香の門下。新しいことに挑戦する姿勢を受け継ぐ。日本舞踊以外のダンサーとの交流で、新しい舞踊の世界を開こうと、すでに何度もSPACE FACTORY公演を重ねている。コロナ禍を勇敢に克服して、貴重なワン・ステップを踏み出した『苦悩の春』だった。

(山野博大 2020/10/16 3331 Arts Chiyoda)

jpsplendor at 22:58短評舞台評

November 16, 2020


熊川哲也 Kバレエ カンパニーが、3年ぶりに『海賊』を再演した。このバレエは、バイロンの詩劇「海賊」に着想を得てジョゼフ・マジリエが振付け、1856年パリ・オペラ座で初演した。しかしその後プティパの改定などがあり、近年ではロシアのバレエとして全幕の上演が行われることが多くなっている。

2007年、熊川哲也は海賊の首領コンラッドの腹心の部下アリの活躍を際立たたせた独自のバージョンを、メドーラ=吉田都、コンラッド=スチュアート・キャシディ、アリ=熊川哲也の配役で上演した。コンラッドが裏切り者のランケデムに撃たれるところで、アリがその前に立ちはだかり犠牲になるシーンが、衝撃を観客に与えた。今回の公演チラシでも、アリを演ずる山本雅也、伊坂文月、関野海斗3人の写真が最も大きく扱われており、熊川版『海賊』は、アリを中心に組み立てられたバレエであることが、明らかだった。

私が見た15日の配役は、メドーラ=成田紗弥、コンラッド=堀内將平、アリ=山本雅也、グルナーラ=小林美奈、ランケデム=石橋奨也、ビルバント=西口直弥、サイード・パシャ=ビャンバ・バットボルトだった。初演から13年を経た熊川版『海賊』は、手際のよいストーリー展開と活気あるダンス・シーンをリズミカルに融合した絶妙の仕上がりで、最近来日したウィーン国立バレエ(2018年5月、マニュエル・ルグリ版)、イングリッシュ・ナショナル・バレエ(2017年7月、アンナ=マリー・ホームズ版)、ミハイロフスキー劇場バレエ(2016年1月、ファルフ・ルジマトフ版)などにまさるみごとな出来栄えだった。

(山野博大 2020/10/15 オーチャードホール)

jpsplendor at 22:02短評舞台評

November 15, 2020


バレエシャンブルウエストが、第88回定期公演で今村博明・川口ゆり子振付の『コッペリア』を再演した。幕が開くと、ポーランドのガルシア地方の、とある村の風景。2016年から使っているヴァチェスラフ・オークネフの舞台美術が、はなやかな雰囲気を漂わせた。

スワニルダを川口まり、フランツを藤島光太、コッペリウスを正木亮が演じた。川口まりは、2017年の『くるみ割り人形』で定期公演の主役デビューを果たし、その後の着実な成長ぶりが見込まれ、スワニルダに指名された(清里の野外バレエでは他にもいろいろと踊っている)。小柄でかわいらしいタイプだが、しっかりした動きを身につけており、芝居もできる。

バレエシャンブルウエストが定期公演で『コッペリア』を初めて上演したのは1996年だった。スワニルダ役の川口ゆり子、吉本真由美の着実な演技が手堅いストーリー展開と調和し、オークネフの美術・衣裳となじんで安心して見ていられるレパートリーの一本となっている。その後を川口まりら、次の世代が担って行くことになった。フランツの藤島光太は、四国高松の樋笠バレエ出身。勢いのある舞台さばきが爽やかだ。そして今回コッペリウスを演じた正木亮は、時に優雅な雰囲気を漂わせるところもあり、新しい役作りへの意欲がうかがえた。

市長の逸見智彦、村の人ソリストの山田美友、コッペリアの石本紗愛、時のワルツのソリストの柴田実樹と江本拓、夜明けの石原朱莉、祈りの石川怜奈、伊藤可南、河村美希、キューピッドの近藤かえでなど、新旧の団員がひとつになって、次の時代を目指そうという意気込みが感じられる『コッペリア』だった。磯部省吾指揮、大阪交響楽団の演奏。

(山野博大 2020/10/10 オリンパスホール八王子)

jpsplendor at 21:59舞台評短評

牧阿佐美バレヱ団がテリー・ウエストモーランド版の『眠れる森の美女』を3年ぶりに再演した。配役は、オーロラ姫が青山季可(3日)と中川郁(4日)、フロリモンド王子が清瀧千晴(3日)と水井駿介(4日)、リラの精が茂田絵美子(3日)と佐藤かんな(4日)、カラボスが保坂アントン慶(3日)と菊地研(4日)で組まれた。私は、中川・水井の4日を見た。それは、3年前に初めてオーロラ姫を踊った中川のその後の成長ぶりを確認したかったからだ。

彼女は2007年に橘バレエ学校を卒業して、2015年に『リーズの結婚』で初主役を踊り、愛らしい小柄な肢体とシャープなテクニックで注目を集めた。2017年のオーロラ姫では、ローズ・アダジオの初々しさ、幻影・目覚めの背景の森に溶け込む幻想的な透明感、グラン・パ・ド・ドゥの堂々たる存在感など、『眠れる…』ならではの多面的な見せ場を踊りこなす技を身につけていた。

牧阿佐美バレヱ団は、ウエストモーランドの『眠れる…』を1982年10月に初上演したが、そこでオーロラ姫を踊ったのは、川口ゆり子、ゆうきみほ、清水洋子、矢都木みつる、森下洋子の6人だった。森下の11年ぶりの牧阿佐美バレヱ団復帰出演は、当初予定されていた大原永子が英国での舞台出演のつごうで帰国できなくなったためで、大きな話題となった。私は、川口と森下の日を見たが、川口を中心にひとつにまとまった舞台と、松山のトップ森下を招いたことで緊張感みなぎる舞台という、全く別の印象の『眠れる…』を見ることになった。

ウエストモーランド版『眠れる…』のプロローグは、カラボス(菊地研)が登場する中盤あたりからの緊迫感がすばらしい。それが彼の創るダンス・シーンの緻密な振付とからみ合い、今回もいろいろと楽しい場面が並んだ。中川は、フロリモンド王子の水井駿介をはじめリラの精の佐藤かんなら有望な若手たちをリードする立場にあり、カラボスの菊地研らベテラン演技陣と協力して舞台をまとめあげる役割を果たした。

このところ牧阿佐美バレヱ団の指揮者は、ずっとデヴィッド・ガルフォースだった。今回の『眠れる…』も彼が振ることになっていた。しかしコロナ騒動で来日できなくなったために、冨田実里に代わっての上演となった。彼女の、テンポを目いっぱい上げてパンチを利かせた序曲による幕開けが、舞台進行を一段と活気づけた。冨田は、イングリッシュ・ナショナル・バレエなどでの海外の経験を経て、現在は新国立劇場バレエ団の常任指揮者だ。ダンサーの名演に、指揮棒で左手を叩いて観客の拍手に同調するなど、劇場空間の一体感を高めることに積極的な姿勢がうれしい。

(山野博大 2020/10/4 文京シビックホール 大ホール)

jpsplendor at 21:37舞台評
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