サン=レオン

July 25, 2016

 《コッペリア》は、ドイツ・ロマン派の作家、E・T・A・ホフマンの奇怪な幻想小説を原作にしている。だがバレエには不気味な要素はほとんど感じられず、ドリーヴの甘くキャッチーな音楽に乗せて、様々な踊りで観客の目を楽しませてくれる。演奏はロイヤルチェンバーオーケストラ、指揮は冨田実里。

 今回、特に観客を沸かせたのは、ゲストで、ドイツ国立デュッセルドルフ歌劇場・デュイスブルク歌劇場バレエ団ソリストの中ノ目知章(フランツ)。安定した技術と貫禄、背が高く恵まれた容姿で、他の男性ダンサー達と一線を画し、村の若者のリーダー的存在という性格を印象づけた。

 美術と衣装はピーター・ファーマー。色鮮やかな衣装で、特に1幕のマズルカとチャルダッシュの群舞を盛り上げた。1幕の山間の湖畔の村を描いた背景もため息が出るほど美しい。一方、コッペリウスの家が、外から見たひなびた家(1幕)と、人形達が並ぶだだっ広い屋敷のような内部(2幕)との間に少々ギャップを感じた。また、3幕の鐘もクリスマス・ベルのようであった。

 スワニルダを演じたのは、初役の西川知佳子。緊張していたのか、3幕のパ・ド・ドゥで、パートナーに頼らずに立つ位置を見つけられないまま終わってしまったように見えた。だがそれよりも、そのことを打ち消すかのような「ブラボー!」の絶叫の方が興醒めだった。ベテランのバレリーナでも常にベストの状態を保つのは難しい。まだ若いし初めての大役を最後まで踊り切ったのだから、今後に期待したい。

 その他、「戦い」の土方一生のはつらつとした踊り、「祈り」の阿部碧の落ち着いた踊りと見た目の美しさが印象に残った。もちろん、ベテランの本多実男が演じた孤独なコッペリウスも忘れてはならない。

 なおあまり注目されないが、バレエ《コッペリア》の舞台はポーランドである。これは原作者のホフマンが一時期、ポーランドに滞在していたことと無関係ではないのかもしれない。

(平野 恵美子 2016/07/24 15:00 文京シビックホール 大ホール)

emi_hirano at 17:20
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