短評

November 29, 2020


舞踊作家協会の連続公演第213回《時空を超えて世界を巡る》では、大谷けい子が芸術監督を務め、歌と踊りを組み合わせた舞台を創り観客を楽しませた。彼女は、中国発の現代舞踊である鳳仙功舞踊の技術を身につけて舞踊界に登場したキャリアの持主。大鳳真陽振付の、中国風の大きな扇を使った女性トリオ『宇宙の樹』、譚嗣英の滑稽な振付を鈴木恵子が巧みに踊った『猪八戒』、鳳仙功出身の鈴木彩乃が自身振付けて踊った格調高い女性ソロ『永花』などを並べ、日本の現代舞踊と一味違う世界を披露した。その他に雑賀淑子振付のバレエ『アラビアの踊り』、渡邊美紀振付の子どものための踊り『さぁ、不思議の国へ…Hurry up』も加え、舞踊にはさまざまな世界があることを示した。

そして最後を大谷けい子振付の、和風を混ぜ込んだ色模様『内藤新宿色模様』で締めくくった。これは遊び人の亀三郎(西川箕乃三郎)を争う3人の女、お倉(大谷けい子)、小まん(曲沼宏美)、小梅(花柳奈光)の競演。津軽三味線の演奏が、派手な衣裳の3人の踊りをひき立てた。

(山野博大 2020/11/1 テイアラこうとう 小ホール)

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November 22, 2020


新国立劇場バレエ団が、アレクセイ・ファジェーチェフ版『ドン・キホーテ』を、4年ぶりに再演した。この5月に新型コロナ感染が広まったために中止にした『ドン・キホーテ』を、新任の吉田都芸術監督が、5か月後に復活上演したのだ。

新国立劇場バレエ団が『ドン・キホーテ』を最初にとりあげたのは1999年3月で、それを吉田都はアンドレイ・ウヴァーロフを相手に踊った。以後、新国立劇場バレエ団はこの作品をたびたび上演し、私は酒井はな/小嶋直也(2000年3月)、宮内真理子/イルギス・ガリムーリン(2000年3月)、宮内真理子/小嶋直也(2002年5月)、寺島ひろみ/デニス・マトヴィエンコ(2007年7月)、寺島ひろみ/山本隆之(2009年10月)、米沢唯/福岡雄大(2013年6月)、木村優里/中家正博(2016年5月)と見た。そして今回は小野絢子/福岡雄大の24日を見ることにした。

ファジェーチェフ版の第1幕“バルセロナの広場”はにぎやかで踊りたっぷり。キトリの友人役の奥田花純と飯野萌子が街の人々を演ずるコール・ド・バレエと共に広場の空気を活気づけたところへ、小野のキトリがさっそうと登場して雰囲気を盛り上げる。

エスパーダ(木下嘉人)の登場、キトリとバジルのカップルにドン・キホーテ(貝川鐡夫)と田舎貴族のガマーシュ(奥村康祐)がからむところなど、次々に展開する場面をはっきりと作り分け、しだいに調子を上げて行った吉田都のていねいな舞台づくり、それに同調して曲想を自在にコントロールした指揮者の冨田実里の働きが、第1幕“バルセロナの広場”のにぎわいぶりを観客にくっきりと印象付けた。

キトリとバジルが逃げ出し、それをドン・キホーテとサンチョ・パンサ(福田圭吾)、キトリの父親のロレンツォ(福田紘也)とガマーシュが追って、居酒屋のシーンとなる。この場ではまず緩やかなテンポの朝枝尚子のカスタネットの踊りで、夕闇迫る街のはずれにある酒場の落ち着いた情景を見せる。そこでバジルの狂言自殺があり…。

ドン・キホーテがジプシーの居留地で一騒動起こした後、優美な“夢のシーン”となる。このあたりもさまざまに踊りを組み合わせ、場面の変化を楽しませた吉田の演出意図がはっきりと表れたところだ。ファジェーチェフ版は、公爵の館でのキトリとバジルの結婚式に出席したドン・キホーテとサンチョ・パンサが、次の冒険の旅へ出発するところであっさり幕を下ろす。

小野のキトリは動きの切れが良く、歴代のキトリと比べても出色の仕上がり。吉田新芸術監督の個々の踊りを大事に扱う演出の意図が随所にあらわれたファジェーチェフ版『ドン・キホーテ』再演だった。

(山野博大 2020/10/24 新国立劇場 オペラパレス)

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H・アール・カオスを主宰し、白河直子とともに多くの舞台を創ってきた大島早紀子が、オペラ『トゥーランドット』の演出・振付で舞台に戻った。オペラ全体の演出を担当し、その中で白河直子をトップに、斉木香里、木戸柴乃、野村真弓、坂井美乃理、YUKIのダンサーたちを踊らせた。

大島は、ダンサーを吊って空中に舞わせる振付を見せることが多かった。それがこの『トゥーランドット』でも使われた。トゥーランドット姫(岡田昌子)はその求婚者に3つの質問を行い、それに答えられない者を容赦なく処刑した。しかし王子カラフ(芹澤佳通)は、みごとに3問を正解してしまう。求婚を拒んだトゥーランドット姫に対し、王子は明朝までに自分の名前を示すことができたらと逆に質問を投げかけ、夜明けを待つ。

大島は、舞台を大きく全面的に使い、空中にダンサーを配置してダイナミックにストーリーを進め、姫の難問を王子が解いて行く過程をいくつもの見せ場にこしらえた。宙づりの振付は、空中を自由に舞うところを見せることに尽きると考えがちだが、大島は空中でのポーズを多用し、それをアクセントに使い観客の視線をくぎ付けにした。この手法は、カーテンコールでも使われた。ダンサーたちが空中で動きを止めて姿勢を正し、観客の拍手に応えるところが、また美しい見せ場となった。

テンポの良い舞台進行、迫力あるダンス・シーンの展開を伴った大島の『トゥーランドット』は、新しいオペラの楽しみを創造した。H・アール・カオスはすでに創立25年になるが、大島、白河の勢いはいささかも衰えていない。舞踊の舞台への復帰が期待される。

(山野博大 2020/10/18 神奈川県民ホール 大ホール)

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November 18, 2020


SPACE FACTORYの《造形と舞台のあいだ展》シリーズ“夢の浮橋”第1章『苦悩の春』は、「源氏物語」に登場する、藤壺の宮(清田裕美子)、六条御息所(船木こころ)、葵の上(カナキティ)、空蝉(花柳ゆかし)の4人の女性の生き方を描いた舞踊作品だった。ナビゲーター(原佳代子)の語りで進行し、源氏役のテノール(鳥尾匠海)が女性たちの相手を歌で受け持った。この手法は、長唄でストーリーを伝え、それに舞踊を重ねる日本舞踊と同じ。しかし、他分野の舞踊と関わることで新しい語り物の世界を目指す。

六条御息所の霊と葵の上の葛藤シーン以外は、「源氏物語」に登場する女性たちの心情を、日本舞踊、現代舞踊、コンテンポラリー・ダンスなどの踊り手たちがそれぞれに描いた。どこかに舞踊で描くことを納得させるような「ひねり」の部分が欲しかった。しかし個々の踊りを連ねた場面展開には、どこか絵巻物を見るような優雅な感じが漂った。

舞台づくりの中心となった花柳ゆかしは、花柳茂香の門下。新しいことに挑戦する姿勢を受け継ぐ。日本舞踊以外のダンサーとの交流で、新しい舞踊の世界を開こうと、すでに何度もSPACE FACTORY公演を重ねている。コロナ禍を勇敢に克服して、貴重なワン・ステップを踏み出した『苦悩の春』だった。

(山野博大 2020/10/16 3331 Arts Chiyoda)

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November 16, 2020


熊川哲也 Kバレエ カンパニーが、3年ぶりに『海賊』を再演した。このバレエは、バイロンの詩劇「海賊」に着想を得てジョゼフ・マジリエが振付け、1856年パリ・オペラ座で初演した。しかしその後プティパの改定などがあり、近年ではロシアのバレエとして全幕の上演が行われることが多くなっている。

2007年、熊川哲也は海賊の首領コンラッドの腹心の部下アリの活躍を際立たたせた独自のバージョンを、メドーラ=吉田都、コンラッド=スチュアート・キャシディ、アリ=熊川哲也の配役で上演した。コンラッドが裏切り者のランケデムに撃たれるところで、アリがその前に立ちはだかり犠牲になるシーンが、衝撃を観客に与えた。今回の公演チラシでも、アリを演ずる山本雅也、伊坂文月、関野海斗3人の写真が最も大きく扱われており、熊川版『海賊』は、アリを中心に組み立てられたバレエであることが、明らかだった。

私が見た15日の配役は、メドーラ=成田紗弥、コンラッド=堀内將平、アリ=山本雅也、グルナーラ=小林美奈、ランケデム=石橋奨也、ビルバント=西口直弥、サイード・パシャ=ビャンバ・バットボルトだった。初演から13年を経た熊川版『海賊』は、手際のよいストーリー展開と活気あるダンス・シーンをリズミカルに融合した絶妙の仕上がりで、最近来日したウィーン国立バレエ(2018年5月、マニュエル・ルグリ版)、イングリッシュ・ナショナル・バレエ(2017年7月、アンナ=マリー・ホームズ版)、ミハイロフスキー劇場バレエ(2016年1月、ファルフ・ルジマトフ版)などにまさるみごとな出来栄えだった。

(山野博大 2020/10/15 オーチャードホール)

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November 15, 2020


バレエシャンブルウエストが、第88回定期公演で今村博明・川口ゆり子振付の『コッペリア』を再演した。幕が開くと、ポーランドのガルシア地方の、とある村の風景。2016年から使っているヴァチェスラフ・オークネフの舞台美術が、はなやかな雰囲気を漂わせた。

スワニルダを川口まり、フランツを藤島光太、コッペリウスを正木亮が演じた。川口まりは、2017年の『くるみ割り人形』で定期公演の主役デビューを果たし、その後の着実な成長ぶりが見込まれ、スワニルダに指名された(清里の野外バレエでは他にもいろいろと踊っている)。小柄でかわいらしいタイプだが、しっかりした動きを身につけており、芝居もできる。

バレエシャンブルウエストが定期公演で『コッペリア』を初めて上演したのは1996年だった。スワニルダ役の川口ゆり子、吉本真由美の着実な演技が手堅いストーリー展開と調和し、オークネフの美術・衣裳となじんで安心して見ていられるレパートリーの一本となっている。その後を川口まりら、次の世代が担って行くことになった。フランツの藤島光太は、四国高松の樋笠バレエ出身。勢いのある舞台さばきが爽やかだ。そして今回コッペリウスを演じた正木亮は、時に優雅な雰囲気を漂わせるところもあり、新しい役作りへの意欲がうかがえた。

市長の逸見智彦、村の人ソリストの山田美友、コッペリアの石本紗愛、時のワルツのソリストの柴田実樹と江本拓、夜明けの石原朱莉、祈りの石川怜奈、伊藤可南、河村美希、キューピッドの近藤かえでなど、新旧の団員がひとつになって、次の時代を目指そうという意気込みが感じられる『コッペリア』だった。磯部省吾指揮、大阪交響楽団の演奏。

(山野博大 2020/10/10 オリンパスホール八王子)

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November 08, 2020


スターダンサーズ・バレエ団が、堀井雄二の原作を河内連太の台本により舞台化したバレエ『ドラゴンクエスト』(鈴木稔振付)を2年ぶりに再演した。初演は25年前の1995年。以来、人気レパートリーとして上演を繰り返し、細部の調整を行ってきた。

2017年に、美術・衣裳をディック・バードのものに一新したところで、クラシック・バレエとしての風格が漂うようになった。今回はさらに、プロジェクション・マッピングの技術を使いこなして劇的な高揚感を増したりして、バレエとしてのおもしろさをさらに向上させた。私はその初日を見たが、白の勇者の林田翔平、黒の勇者の池田武志、王女の渡辺恭子をはじめ、魔王の大野大輔、賢者の福原大介、戦士の西原友衣菜、武器商人の鴻巣明史、伝説の勇者の久野直哉、聖母の角屋みづき、国王の関口武、王妃の周防サユルまで、ほとんどの役を経験者が固め、手際よくサスペンス・シーンを推し進めた。それを美しく迫力あるダンスで盛り上げたバレエ『ドラゴンクエスト』は、欧米のバレエ市場でも通用する一級のエンターテイメント作品に仕上がった。田中良和の指揮、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の演奏。

(山野博大 2020/10/3 東京文化会館 大ホール)



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October 12, 2020


勅使川原三郎が、宮沢賢治原作の『銀河鉄道の夜』を舞踊化した。彼は2008年頃から、舞台と客席がひとつになったシアターχの開放的な空間を使って、さまざまな作品を世に送り出してきた。文学作品の舞踊化が多く、B ・シュルツ原作『春』による『春、一夜にして』、『ドドと気違いたち』、『空時計とサナトリウム』、『天才的な時代』、『青い目の男』、原作『肉桂色の店』による『シナモン』、S・レム原作『ソラリス』による『ハリー』、S・ベケット原作の『ゴド―を待ちながら』、ドストエフスキー原作の『白痴』、A・ランボー原作の『イリュミナシオン〜ランボーの瞬き〜』などが並ぶ。

『銀河鉄道の夜』は、彼自身が作ったエレクトロミュージックと朗読でスタートする。まず勅使川原のジョバンニが登場し夢の世界へ。銀河に沿って走る列車の中の風景が繰り広げられる。佐東利穂子のカンパネラが乗っている。舞台カミ手には全身灰色の旅行客6人が座る。舞台の前に置かれた白い布の帯は、宇宙を流れる天の川だ。ジョバンニはどこまでも親友のカンパネラといっしょのつもりなのだが、とつぜん舞台は地上の日常に。カンパネラの父親が登場して、息子が溺れた子供を救おうとして水死したことを伝える。

いつのまにか列車からカンパネラの姿が消えている。ひとりになったジョバンニ。彼は舞台の奥へ静かに消え『銀河鉄道の夜』は終る。しかしその先に、勅使川原と佐東の長いデュエットがあり、宮沢賢治の原作にない、踊りでなければ表現できない何かを観客に伝えた。勅使川原の文学作品の舞踊化は、朗読をバックに流し、シアターχの照明、音響の機構を巧みに使い、舞台上に抽象的な小道具を置いたりして、原作の内容を伝え、そこに勅使川原と佐東の踊りを重ねる。

しかしバレエや現代舞踊の分野でストーリーを伝えようとする時には、動きをどのように創るかが大事なポイントになる。原作の朗読をそのまま使う方法は、安易な手段として一段低く見られてきた節がある。ところが日本の芸能では古来、言葉に重要な役割を担わせる。長唄、義太夫などの歌詞がストーリーのすべてを語りつくしくれるので、踊り手は踊ることに専念することができる。勅使川原の『銀河鉄道の夜』は、その手法を用いて今回も大きな成果をあげた。

(山野博大 2020/9/19 シアターχ)

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September 20, 2020


コンドルズが新作『ビューティフル・ドリーマー』を上演した。ライン・キューブ渋谷(渋谷公会堂)の大舞台でAプロ“シャングリラスペシャル”と、Bプロ“アルカディアスペシャル”の2公演をやったのだ。各プロの上演時間を約1時間としたのは、コロナ感染対策のためだったと思う。私は1人おきに指定された客席でBプロを見せてもらった。コンドルズの公演はいつも開幕前に、舞台前面に下ろしたスクリーンにテレビ番組のようなタイトル、スタッフ、キャスト、そしてコマーシャルを流す。スクリーンの白幕が落ちると全員の踊り。黒い学生服姿のメンバーを白い衣裳の近藤良平が颯爽とリード。

1996年創立のコンドルズは、全国各地の劇場で踊り続け、2005年3月、近藤良平振付・主演の『ジュピター』で、ついに渋谷公会堂の大舞台をわがものにしたのだった。20周年のNHKホールをはじめ、海外の舞台など多くの公演を積み重ねて、コンドルズが新装のライン・キューブ渋谷(渋谷公会堂)に戻ってきたのは、コロナ感染騒動真っただ中の2020年。15年ぶりだった。

いつものように、コント、人形劇などを交えたバラエティー風の舞台を、時に観客を取り込んだりして手際よく進める。その間にダンスが入ってくるのだが、全体の技術水準が、創立当時とは格段に上がっているので、踊りそのものを見たいという観客の要求にも十分に応えられる。それをリードする近藤良平はさらに別格の存在。彼は、1995年頃から野和田恵里花、山崎広太、笠井叡、木佐貫邦子、伊藤キム、川野眞子、平山素子、井手茂太、黒田育世といった個性豊かな舞踊家たちと舞台を共にして自分自身を磨いてきた。しかし彼は、強い体幹を生かしたシャープな動きで自分の踊りを貫き、他の舞踊家の影響をあまり受けていない。終り近くに、学生服姿の近藤の長めのソロが用意されていた。52歳になる彼の踊りは、今回もコンドルズの中心にあってひときわ輝いた。近藤良平の演出・振付・主演、石淵聡、オクダサトシ、勝山康晴、香取直登、鎌倉道彦、黒須育海、古賀剛、小林顕作、ジトク、スズキ拓朗、田中たつろう、橋爪利博、藤田善宏、安田有吾、山本光二郎の出演、勝山康晴の制作で、コロナ感染予防で厳重警戒下の渋谷の大舞台に戻ってきたコンドルズに、多くのファンが熱い声援を送り続け、カーテンコールを繰り返した。

[山野博大 2020/9/5 ライン・キューブ渋谷(渋谷公会堂)]

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勅使川原三郎+KARASの《アップデイトダンスシリーズ》が8年目に入った。今回はロード・ダンセイニの幻想小説『妖精族の娘』の舞踊化だった。この短編は、死と無関係に生き続ける妖精族の世界のある出来事を描く。彼らは、自然の造形の美しさに対して、人間のように敏感な反応を示すことがないという設定で物語は進行する。その妖精族のひとりの娘が、死によって必ず最後を迎える人間ならではの得難い心のときめきを感じてみたいと願うところから、話は始まる。中央に光の筋が揺れ動くオープニング。しだいに妖精族の娘役の佐東利穂子の姿が見えてくる。暗い舞台の床には白い円形の板があちこちに置かれている。それにサスペンション・ライトをあてて鮮やかな明暗の対比を作り出す。前方に紗幕を下ろした舞台で、朗読、音響と共にダンスが進む。ほとんどが白いドレス姿の佐東のソロで、黒いスーツ姿の勅使川原が物語の流れに応じて、さまざまな役割を受け持った。

娘は人間のように自然の美しさを体験してみたいと願うのだが、そのためには魂を持たなければならない。娘の希望を叶えてやろうと妖精族の大人たちが、自然界のいろいろなものを組み合わせて魂を作り上げる。娘がそれを左胸の少し上のあたりに埋め込むと、人間の感性が芽生える。嬉しそうに踊る妖精族の娘。人間のように、繊細な自然の美しさを楽しんだのだが……。魂を身体から取り出して、元の姿にもどりたいともがく娘を見せて作品は終わる。人間が必ず死ぬ存在であることの意味が伝わった。舞台床の白い円形にライトをあてて場面を組み上げた妖精族の世界が、紗幕の向こう側に広がっていた。そこを佐東が圧倒的な迫力で駆け抜けた。

終演後のトークで、今回の『妖精族…』と前回の『タルホ』で紗幕を使ったのは、コロナ対策だったことが判った。誰もが死を身近に感じる最近の状況下での『妖精族の娘』上演は、死ななければならない人間が、その代償として得ているものの「大切さ」を考えさせる舞台だった。

(山野博大 2020/8/24 カラス・アパラタス)

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