November 07, 2021

東京バレエ団 『かぐや姫』第1幕 『中国の不思議な役人』『ドリーム・タイム』

金森穣振付の『かぐや姫』は全3幕のグランド・バレエになると発表されているが、全幕完成に先立ち第一幕が世界初演された。物語としては、おてんば娘のかぐや姫が、村の孤児と恋に落ちるも、都に連れて行かれるというところまで。秋山瑛と柄本弾、足立真里亜と秋元康臣のダブルキャストで、筆者は秋山・柄本の組で観た。難しいパも軽々とやってのける、少年のような秋山には当たり役。古典の枠組みにはまりきらない秋山の魅力が、本作では余すところなく発揮されていた。世話物のうまい柄本も陽気な演技で大らかな雰囲気があり、かぐや姫の初恋の相手としての説得力があった。全編ドビュッシーの音楽が使われ、わけても『月の光』を使ったパ・ド・ドゥは、リフトが多い変化に富んだ振付で、詩情に溢れていた。金森作品らしさといえば、環境問題に対する視点があり、ダークサイドの象徴のような不気味な黒衣も登場する。また、かぐや姫があっという間に成長する様子を、影絵のような映像で見せるのも面白かった。同時に、きらびやかな衣装を纏った24人の緑の精の背景に、リアルな竹やぶの映像が使われたり、演出が十分キャラクターを捉えているにも関わらず、ことさらに役柄を説明するような衣装やセットが選ばれていたりと、見せたいものや伝えたいものを明確にするためには、少し引き算が必要ではないかと感じる部分もあるにはあった。とまれ第一幕だけで批評するのはフェアではない。全幕の完成が楽しみである。

同時上演はベジャールの『中国の不思議な役人』とキリアンの『ドリーム・タイム』。カンパニーの指導陣の一人である木村和夫は、かつて不気味な役人を当たり役としていた。今回はキャストが若返り、大塚卓が初役で中国の役人を務めた。途中で帽子を取ると、若さの象徴のような大塚のサラサラの髪が現れる。髪は工夫次第でいかようにもできるだけに、役人を踊るダンサーの若さを意図的に見せようとしたのだろうか。見応えのある舞台ではあったが、出演者と役の間に多少距離が感じられる部分もあった。『ドリーム・タイム』は沖香菜子、三雲友里加、金子仁美、宮川新大、岡崎隼也の5名が、序盤から終盤のパ・ド・ドロワまで、ムーヴメントを途切れさせることなく、一筆書きのように描きあげた。極めて完成度の高い舞台だった。

(隅田 有 2021/11/06 東京文化会館大ホール 14:00)


outofnice at 20:39舞台評 
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