July 24, 2020

《シアターΧ-国際舞台芸術祭2020》 菊本千永『この子が無事に帰るまで』 江原朋子『ムシ to be continued』


シアターΧ(芸術監督/プロデューサー=上田美佐子)主催の《国際舞台芸術祭(IDTF)2020》で藤田佳代舞踊研究所の『この子が無事に帰るまで』(作舞=菊本千永)と江原朋子の『ムシ to be continued』を見た。他に劇舎カナリアによる『ムシムシメヅルシ-Bye o! Hi story』(作=山崎永莉、演出=山本健翔)も上演されたが、舞踊分野の2本のみ、見たままを記す。

シアターΧの《国際舞台芸術祭(IDTF)》は、2年ごとの開催で14回目。毎回、実行委員会がメイン・テーマを設定し、参加者はそれに沿った創作を上演する。今回のテーマは「蟲愛づる姫と BIOhistory=生きものの物語」だった。
 
藤田佳代舞踊研究所に所属する菊本千永作舞の『この子…』から始まった。「この子」をとり囲んで白装束の3人が踊る。「この子」はハンチングを被った反抗的な身振りの少年だ。外の世界に遊び自分を試そうと、舞台を降りて客席の通路で踊る。舞台で踊る白衣の3人にも、それぞれにソロを割り振り、動きのつながりも綿密に作って、確固とした生活空間があることを示す。疲れ果てた「この子」が「無事に帰り」横たわる。それを白衣の3人がとり囲むところで作品は終わる。菊本作品は、どこにでもある少年の放浪を受け止める強靭な社会の仕組みを描いたもの。少年と白衣の3人のていねいに作り込まれた動きの流れ、日本の神社の巫女を思わせる白衣の衣裳デザインの巧みさなどがひとつになり、格式を感じさせる佳作が出現した。師匠であり、母である藤田佳代を通じて法喜聖二、法喜晶子ら関西現代舞踊界の本流に連なる菊本の作品は、時間をかけて自らの世界を練り上げた佳作だ。

江原朋子の『ムシ to be continued』は、人類よりもずっと長い歴史をたどる「ムシ」の生態を描いたもの。ゆるやかな動きをさまざまにつないだ踊りが続く。7人の群舞のひとりひとりに動きを任せたように見える無統制な動きの連鎖は、虫たちが無秩序に繰り広げた盛衰史を思わせる。その混沌に乗って江原が何度も登場し、彼女ならではの踊りを披露した。若くして三条万里子、厚木凡人ら海外の舞踊動向に敏感な舞踊家たちの影響を強く受けた江原は、自らも海外に進出して舞踊の最先端に接し、その後も異色の舞踊家たちと舞台を共にして、独自の領域を探り続けてきた。『ムシ…』は、その末にたどり着いた世界なのだ。江原は2011年の舞踊作家協会公演で『虫めづる姫君たち』を踊っている。彼女のあでやかなソロは、それにつながるもの…。

日本の現代舞踊の歴史を引き継ぐ正統派、菊本千永の『この子…』、今の時代の野放図さを象徴するような緩やかな作りの、江原朋子の『ムシ…』という、対照的な佳作が並んだ。

(山野博大 2020/7/11 シアターΧ)

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