March 19, 2019

Unit Dance Bookshelf/吉福敦子『スフィンクスの絵本〜若葉町バージョン〜』(TPAMフリンジ参加作品)

2017年に初演。今回は、昭和の風情が残る横浜の下町にしっくりと溶け込んでいる「若葉町ウォーフ」に場所を移してのリニューアル版である。小さなスタジオの壁には、来島友幸による手のひらサイズの音響装置が無数に張り巡らされており、その壁沿いに観客がポツポツと座る。

「朝は四本足、昼は二本足、夕は三本足、この生き物はなあに?」というスフィンクスの謎かけに着想を得ている。答えは、取りも直さず人間である。ハイハイする赤ちゃんが大人になり、歳を取って、やがて杖を突く。人生を一日に例えているのだ。

構成と演出は吉福敦子、出演と振付は尾形直子、平田友子、吉福の三人。それぞれが「自分史」をスケッチブックに描いて持ち寄り、舞踊譜として作ったという。自分史と言っても、日常の動作やライフイベントを表すような当て振りはない。夜明けから日没、そして…と変わり行く照明と来島の音響装置から発する、気付けば鳴っている程度のスイッチのような弱音が、時を刻む。踊りも音も説明に走らず、今まさに立ち会っている時間、空間に身を委ねて、感じる、考える自由を観客に与えている。実際に、別日の公演後にはファシリテーターが入って、観客が自分の感じたことを自由に話す「対話による鑑賞会」が開催されている。

出演者全員にセラピーやボディワークのバックグラウンドがあるだけに、作品全体が五感に心地良く、癒しの効果があった。ただその分、印象に残り難い側面もある。
甲高い素っ頓狂な声を出しながら、三人が縦一列に進むところは、黒沢美香の作品を彷彿とさせ、くすりと笑いが出てもよいところだが、爽やかにスルーしてしまった。人生は山あり谷あり。もう少しスパイスが効いた場面があっても良いかもしれない。とは言え、全編を通して、興味深いボキャブラリーがいくつもあり、小さなスペースを有効に使って観客の間を絶妙に縫うように動いていたのが面白かった。リニューアル版だけあって、じっくりと練られた作品であった。

(吉田 香 2019/02/09 19:00 若葉町ウォーフ)


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