September 24, 2017

東京バレエ団『20世紀の傑作バレエ』

東京バレエ団が、イリ・キリアン振付『小さな死』、ローラン・プティ振付『アルルの女』、モーリス・ベジャール振付『春の祭典』の三作を上演した。

一曲目はキリアン。"Petite Mort”を訳すと本作の邦題『小さな死』だが、同時にオルガズムも意味する。仄暗い舞台にモーツァルトのピアノ協奏曲が流れ、肌色のレオタードの男女12名が踊る。沖香菜子、金子仁美、三雲友里加、川島麻実子、崔 美実、奈良春夏、杉山優一、岡崎隼也、入戸野伊織、柄本 弾、ブラウリオ・アルバレス、秋元康臣が出演し、6つのパ・ド・ドゥを披露。川島・柄本のペアが、攻める箇所と手放す箇所を巧みに使い分け、振付の粋を表していた。フェンシングの剣、ステージを覆う大きな布を使った出入り、脱ぎ捨てるためにあるような、半分にスライスされたロココ調のドレスなど、小道具や装置をダンサーが使いこなしながら踊る。それゆえかバレエ団として初演である今回は、全体的には少々余裕が不足ぎみだったように感じられた。無駄な動きを削ぎ落とした先に、痺れるようなキリアン流の官能が立ち上がるのだろう。

『アルルの女』は「メヌエット」と「ファランドール」の抜粋をガラ公演で見ることがあるが、今回は全篇上演でバレエ団初演。フレデリ役にロベルト・ボッレを迎え、婚約者ヴィヴェットに上野水香が出演した。ボッレはアイコンタクトを控え、舞台には登場しない”アルルの女”との世界に酔っている様子が様になる。ラストの「ファランドール」は振付とフレデリの内面が合致し、狂気の世界に突き進んだ。上野はリフトの際につま先をパタパタと動かしたり、スカートを指先でつまんだりする仕草に、恋する女のいじらしさが見られる。長い手足を伸びやかに使ったアラベスクなどで存在感を示しつつも、ボッレの鬼気迫る演技を後押しする、一歩引いた立ち位置を守り、ベテランとしての余裕と成熟を感じさせた。ボッレの迫真のステージと、上野の絶妙な立ち振る舞いが融合した見事な舞台で、カーテンコールは熱狂に包まれた。

ラストはベジャールの『春の祭典』。バレエ団の十八番である。今回は三公演で男性2人、女性3人の生贄がキャストされた。初日は奈良春夏と岸本秀雄が出演。奈良が素晴らしかった。両手を広げて深く腰を落とす振りは、バランス良く上半身の力を抜き、パーカッションのタイミングにピタリとはまる。振付と音楽が連れて行く先に身をまかせる潔さがあった。女性のダンサーたちが連なって動く場面では、凛とした姿で渦の中心に立つ。これまでも様々なベジャール作品に出演していたが、本公演では更に一皮むけた踊りで観客を圧倒した。岸本は愛嬌と純粋さを感じさせる持ち前の雰囲気が、一風変わった面白みをもたらした。生贄に選ばれてからは、獣の群れにおいて唯一”顔”のある個体に見える。二人のリーダーにアルバレスと和田康佑。『小さな死』をエレガントにまとめたアルバレスが、本作では荒々しく男臭い踊りで目を引いた。野性味を感じさせるダンサーは、東京バレエ団のレパートリーにはなくてはならない存在。今後どのような役を踊るのか、活躍が楽しみだ。

『小さな死』の上演は、2015年に初演したフォーサイスの『イン・ザ・ミドル・サム・ホワット・エレベイテッド』あたりから注目される、バレエ団の新たな挑戦の流れを感じる。コンテンポラリーダンスの経験豊かなカンパニーによるこのような取り組みは、バレエ団の魅力を更に高めるだろう。『20世紀の巨匠たち』というタイトルに叶った、非常に見応えのある公演だった。

(隅田有 2017/09/08 東京文化会館大ホール 19:00)


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