April 09, 2017

パリ・オペラ座バレエ団『ラ・シルフィード』

前夜の公演終了後、パリ・オペラ座の新エトワールがアナウンスされたというニュースに、会場は沸いていた。昇進したのはマチュー・ガニオの代役を務めたユーゴ・マルシャン。日本の舞台でのエトワール任命は初である。


明けて4日は、ミリアム・ウルド=ブラームとマチアス・エイマンが登場。ウルド=ブラームは妖精らしさを伝える表現の引き出しが多く、素晴らしいシルフィードだった。寝ているジェームズの脇で踊る冒頭、ほとんど床を離れずに滑るグリッサードが体重を感じさせない。一幕は床から常に少しだけ浮いた位置を漂っているようで、軽やかさが際立った。ポーズに入ってからほっそりとした首を少しだけ揺らすなど、ロマンティック・バレエらしい"揺らぎ"の仕草が巧みで、人間とは異なる存在であることが感じられる。ピルエットの際は、アン・オーに挙げた腕を着地後にふわりと下ろす。回転から次のパへの連続性が美しく、残像が残るようだった。

昨年末にエトワールに昇進したばかりのレオノール・ボラックがエフィに出演。ボラックもまた透明感のある可憐なエフィだった。テンポの早いソロを音感良く踊り、若さに輝く娘らしさを表した。婚約者が去ったことを知ってブーケを投げ捨てる仕草には勢いがあり、それに続くガーンの求婚のタイミングと合わさって、一幕は息の合った演技の連続で幕が降りた。

その魅力的な二人の女性に愛されるジェームズにマチアス・エイマン。エイマンはキャリアの充実期にさしかかっているのだろう。若い頃からのジャンプや回転の実力はそのままに、人間味が加わり味わいのあるダンサーになった。ウルド=ブラームとの相性も良く、パ・ド・トロワのコーダでジェームズがシルフィードをリフトする場面では、本当に宙を飛んでいるかのような、精度の高いリフトに拍手が湧いた。ジェームズという役には複数の解釈が可能だが、エイマンのジェームズは終始エフィに優しく、婚約者を大切に扱っている。一度に一人の女性しか愛せない朴訥さゆえに、破滅に突き進んでいったように感じられた。

本公演の巧みなキャスティングにも触れたい。エイマンは自分から感情を発して行くタイプではないが、パートナーの感受性と共鳴し、彼の豊かな内面が化学反応を起こす。それがウルド=ブラームやボラックとの間に幾度も見られた。一幕のパ・ド・ドゥのエレオノール・ゲリノーとフランソワ・アリュは、エネルギッシュな踊りが似合うタイプだ。申し合わせたようにうなずき合う村人の手本のような二人には、妖精の世界と対極にあるドメスティックな安定感がある。同じくガーンもその世界に属している。イヴォン・ドゥモルは、舞台に立っているだけで場所を塞ぐような、役に相応しい"うるささ"があった。かれらが確信犯的に引き立て役を好演したことで、シルフィードとジェームズの詩的な趣がよりはっきりと描き出された。

(隅田有 2017年3月4日 18:30 東京文化会館)


outofnice at 23:23舞台評 
記事検索