February 28, 2017

日本バレエ協会『ラ・バヤデール』

改定演出・振付は法村牧緒。日本バレエ協会としての本作『ラ・バヤデール』は初演という。ニキヤと奴隷による神に捧げるバ・ド・ドゥや、婚約式の太鼓の踊りがあり、影の王国で終わらずに結婚式も付いてくる。ソロルが婚約式の会場に象で乗り付けるのは、マリインスキー版などでもお馴染みの演出だ。長田佳世のニキヤは、正確なポーズが瞬時に決まり、腕は身体から遠く美しいラインを通る。ガムザッティとの対決でナイフを振り上げる場面では、直前にソロルの肖像画を見上げて決意を固める。聖なる火の前で立てた誓いを守るためには、手段を選ばないといった風だった。二幕のソロは悲しみを表すだけでなく、道理を説いているようでもあり、失恋の哀れさを超越している。影の王国ではクラシック・バレエのスタイルを崩さないソリッドな踊り。ラストの結婚式の場は、ユーリー・ペトゥホフの振付が採用された。かつてソロルが愛を誓ったことを、ニキヤの亡霊が高らかに告げるのを合図に、建物が崩れ出す。恋人に対する愛情もさることながら、信仰心に篤い高潔な舞姫だった。ガムザッティの馬場彩は華やかさと初々しさがあった。ソロルの肖像画の下で一瞬涙ぐむ演技が、ニキヤに懇願する場面で生きる。イタリアン・フェッテではポーズをきちんと見せ、丁寧なパの運びに育ちの良さを重ねた。ソロルの橋本直樹はジャンプの際、空中で頭を少し上げるので軽やかさが増す。舞台映えする技術を備えており、ニキヤと組んでいるときよりもソロの方が伸びやかだった。出演は他に、黄金の像に高橋真之、大僧正にマイレン・トレウバエフ、マグダヴェアに土方一生、ラジャに桝竹眞也、神に捧げる踊りのパートナーに輪島拓也。新国立劇場でプリンシパルとして活躍した長田は、本公演を最後に現役を去る。ベテランの表現者ならではの見事な舞台を観ただけに、早過ぎる引退が惜しまれる。
(隅田有 2017/01/22 18:30 東京文化会館大ホール)


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