February 08, 2017

勅使川原三郎/KARAS アップデイトダンスNo.42 『シェラザード』

王の愛妾と奴隷の不貞を描いた同名のバレエのストーリーは全く追っていない。勅使川原三郎がルルベで腕を高く伸ばし身体を長く見せるようなポーズをとったり、エキゾチックな舞踊に見られるような指先を強調した動きをしたり、その指を頰から自身の身体を這わせたり、最後に10秒足らず佐東利穂子と絡んだりするところに若干のエロティシズムとバレエへのオマージュが垣間見らえる。また、要所要所で激しい波音が入り、テシガーラ&サトー版の『シェラザード』は、リムスキー・コルサコフの交響組曲同様、海がモチーフではある。しかし、バレエを観慣れて、音楽に聴き馴染みのある者をも、先入観から解き放ち、徹底的に自由に、純粋に、音楽に寄り添った作品となっている。

彼らは、旋回しながら流れるように縦横無尽に動くのが特徴だが、今作では立ち位置を固定した動きを多用しているところに面白みがあった。勅使川原は目に見えない“気”を取り入れているようであり、空気を切って結界を張る祈祷師のごとく、実に力強い。佐東はフラメンコのように、ステップを踏む。ニュートラルな表情が多い彼女が鬼気迫る形相である。場所が固定されている分、観客の目は彼女の身体に集中する。四肢と体幹それぞれの筋肉が個別に螺旋を描くように動いている。「ああ、この人はまた一段高みに昇っていくのだな」と感じずにはいられない。佐東が海の渦に巻かれ、消えてしまう。波際に打ち寄せられた男=勅使川原は何度スポットが当たっても目を覚まさない。美しい最後であった。

 (吉田 香 2017/01/07 20:00 カラス アパラタス)


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