July 18, 2016

新国立劇場バレエ団 『アラジン』

新国立劇場バレエ団のプリンシパルに昇格したばかりで進境著しい奥村康祐が、このシーズンで初めて『アラジン』に主演した。意気込みの表れだろう。例え中央で踊っていない場面でも、丁寧に細かいところまで作り込んでおり、彼から目が離せなかった。ステップやジャンプに気負いがなく終始踊りに余裕があるので、演技が自然でユーモアと活力に溢れている。なにより踊りを全身で楽しんでいる姿に観客全体が引き込まれている空気があった。 いつものことながら相手役のサポートには愛が感じられて好ましい。
その相手役のプリンセスには米沢唯。こちらもまたテクニックに隙がなく、フォームが端正、かつ演技が瑞々しい。なかでも、ハマムに忍び込んだアラジンに彼から受け取ったリンゴを渡し、一瞬にして恋に落ちるデュエットは美しかった。パッと顔が華やぐところなど、以前よりも表現力が豊かになったと感じる。
奥村のアラジンは、幕開きから徹底して可愛らしくやんちゃな少年で、特に母親との掛け合いには心が温まる。本来、ハマムに忍び込んだ罪で裁判中に立派な男性へと変貌を遂げ、周囲の信頼を得るはずなのだが、その段階ではまだ“へなちょこさ”が残っていた。華奢な体型に加え、若干体幹が弱いことも影響しているのだが、「最後まで少年のままで行ってしまうのか…」と不安が過ぎった。しかし、ここから加速度的にたくましくなり、最後の大団円とカーテンコールでは男気が前面に出ていた。ギャップで魅せる心憎い演出であった。
近くで見たら子供が泣き出しそうなくらい大迫力のランプの精ジーン(福田圭吾)と魔術師マグリブ人(マイレン・トレウバエフ)、別日には主演を務めるルビーを踊った奥田花純等、同バレエ団らしいレベルの高いダンサーたちが脇を彩った。
以前の公演に比べて、一人の人間の冒険と成長の物語が、心から楽しく、かつ繊細に描かれ、あっという間に終演となった。同バレエ団の数少ないオリジナル作品だけに、この好演は価値のあるものだろう。

(吉田 香 2016/06/19 14:00 新国立劇場オペラパレス)


jpsplendor at 11:39舞台評 | 短評
記事検索