May 26, 2016

舞踊批評家協会賞について

 笠井叡さんが舞踊批評家協会賞の受賞を辞退したと聞いて、とっさにこのままにしてはおけないと思いました。そして知っている限りの協会に属さない批評家、専門紙誌の記者等の方々に呼び掛け、4月10日に澁谷の貸会議室で「舞踊批評家の集い」を開催しました。緊急の呼びかけだったにもかかわらず、当事者の笠井さんをはじめ、20数名の方々が参加してくれ、率直に意見を交しました。その時のあらましは、THE DANCE TIMESの4月16日のレポートの通りです。

 出席者の発言の中には、憶測に基づくものがあったにもかかわらず、そのままを書いてしまったために、舞踊批評家協会賞の選考の模様等につき、誤った情報をお届けする結果となりました。私のチェックが行き届かなかったために各方面にたいへんなご迷惑をおかけしました。心よりお詫び申し上げます。

 舞踊界では、舞踊批評家のほとんどが舞踊批評家協会に所属していると思っている人が多いようです。私も、何人もの舞踊家から「笠井さんのことはどうするの?」と聞かれ、「会員ではないから知らない。どうなるのでしょうね」と答えるしかありませんでした。「集い」に参加してくださった方々からも同様の声があがり、そのような一般の認識とのずれを改めるには、協会に多くの批評家が参加して現状を改革するしかないのではないかということに話が進みました。そして協会へ入ってもよいという人を募ることになり、後日私宛に郵便又はメールで連絡してもらうことにしたのです。しかし、協会へ入ってもよいという人はわずか数名にとどまりました。入会のご決意を示された方にはまことに申し訳ないことながら、この人数では思い通りにことを運ぶことが難しいと判断し、協会への働きかけは取りやめることにしました。

 今年の舞踊批評家協会賞の贈呈式は4月23日にNHK青山荘で行われました。例年通りお招きを頂いたので、出席させてもらいました。当日配られたパンフレットに、小さな字で笠井さんが受賞を辞退されたと断り書きが載っていました。彼の辞退の理由に対する協会の姿勢は不明のままに、式はとり行われました。

 舞踊批評家協会賞の贈呈式では、まず受賞者の名前が披露され、協会員が立って賞を贈ることになった理由をたっぷりと時間をかけて説明し、賞状を渡します。そして受賞者が受賞の感想を語るという段取りになっています。このやり方は協会設立の頃から変っていません。

 賞を決めるために、年間3回、事前の会議を行います。会員ひとりひとりが賞の候補を持ち寄り、ここで意見をたたかわせます。そうしてとりまとめた年間の候補者の中からその年度の賞を選び出すのです。このやり方も変わっていないということでした。

 受賞者の発言は、お礼に終始する紋切型、舞台の模様を詳しく話す説明型、今後の活動の意気込みにまで話が及ぶ情熱型などさまざまですが、いずれの場合も賞を貰ったことの喜びに嘘はなく、聞く者にひとりひとりの「嬉しさ」がじかに伝わってきました。賞を受けたことが次の飛躍につながりそうだと思わせる場面にも出会いました。

 この賞は、1970年の第1回から今回の47回まで、途切れることなく贈り続けられています。今年が66回目となる芸術選奨・文部科学大臣賞、64回目の東京新聞・舞踊芸術賞に次ぐ歴史を重ねているのです。受賞者が貰って「嬉しい」と感じるのは、この歴史の重みによるものでしょう。尊敬する先輩が貰った舞踊批評家協会賞を、こんどは自分が貰うのだと思ったら、文句なしに嬉しくなるはず。少ない会員数で「よくやっている」と正直思います。

 この賞の持つ重みを協会の皆さんがよく認識して、いっそう舞踊家のやる気を高めて行ってくださることを期待します。軽々しい授章理由を発表したことで、笠井さんを困惑させたことをまず率直に反省し、それを何かのかたちで発表して協会の信用を取り戻してください。(2016/05/24 山野博大)



inatan77 at 08:37レポート 
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