March 23, 2016

ダンス・タイムズが選ぶ 【2015年ベストパフォーマンス&アーティスト】

2015年1月から12月に上演された公演の中から、ダンス・タイムズのライターが最も心に残る公演とアーティストを選びました。

◆山野博大

【ベストパフォーマンス】
・ Noism 1『ASU〜不可視への献身』(神奈川芸術劇場、1月)
・ ローザス『ドラミング』(東京芸術劇場、4月)
・ バットシェバ舞踊団『DECADANCE-デカダンス』(神奈川県民ホール大ホール、10月)

【ベストアーティスト】
・ 井関佐和子(Noism 1『ASU〜不可視への献身』神奈川芸術劇場、1月)
・ 中村祥子(熊川哲也Kバレエカンパニー公演『海賊』オーチャードホール、5月)
・ 佐東利穂子(勅使川原三郎+KARAS アップデイトダンス『ペレアスとメリザンド供戰ラス アパラタス、11月)

金森穣の『ASU〜不可視への献身』は、日本人の持つ独特の動きのニュアンスをみごとに結晶させたものだった。井関佐和子がその中心にいた。ローザスとバットシェバはいつもながらの楽しさいっぱいのダンスに好感。中村祥子、佐東利穂子は、共に動きの質の高さを買う。


◆稲田奈緒美

【ベストパフォーマンス】
・ K-Ballet Youth第2回公演『トム・ソーヤの冒険』(オーチャードホール、4月)
・ 三陸国際芸術祭2015(岩手県大船渡市・碁石海岸キャンプ場、9月)
・ 大駱駝艦・壺中天 我妻恵美子『肉のうた』(壺中天、12月)

【ベストアーティスト】
・インテグレイテッド・ダンス・カンパニー響-kyo(3月『知るということ』アサヒ・アートスクエア、7月『Open State』東京芸術センター、8月《サマー・アートスクール》ワークショップ&パフォーマンス、日本橋社会教育会館、11月『Border』アサヒ・アートスクエア)
・鉾久奈緒美(大駱駝艦・壺中天での自作「阿修羅」、9月)
・KENTARO!!(東京ELECTROCK STAIRS『傑作は西に死す』吉祥寺シアター、12月)

長年、様々なダンスを見続けてきたことから、2015年のベストには個々の公演レベルだけでなく、目覚ましい変化や飛躍が見られたもの、またダンスを育てる環境、社会での役割などを考えるうえで重要と思われるものを選んだ。

K-Ballet Youth『トム・ソーヤの冒険』(総合演出:熊川哲也、演出・振付:小林由明)では、若いダンサーがバレエのアカデミックな技術を要するシーンは端正なパで美しく踊り、元気を溢れさせる民俗舞踊などのシーンでは、生き生きと踊る喜びを表現していた。日本のダンサーは技術の高い優等生が多いが、失敗を恐れず、踊る喜びを客席に向かって溢れさせるダンサーにはなかなか出会えない。年齢を経るごとにその傾向は強まるように思うが、この公演ではダンサーに必要な二つの資質をたっぷり見ることができた。ダンサーの育成について考えさせられた公演だった。

三陸国際芸術祭については、ダンス・タイムズの舞台評で詳細を報告したが、東日本大震災の復興にアートの力を活かそうとするもの。地域に伝わる郷土芸能、風土や人と人のつながりを活かした現代の民俗舞踊ともいえるコミュニティダンスなどを見ることができ、その可能性を再確認できた。

大駱駝艦・壺中天ではダンサーが次々と作品を創り、踊っている。我妻恵美子『肉のうた』は2014年初演だが、ベストダンサーであげた鉾久奈緒美『阿修羅』を受けて、さらに磨きをかけた再演となった。我妻と鉾久のように、優れたダンサーが創作の機会を得て、互いに切磋琢磨するという好循環が生まれている。

インテグレイテッド・ダンス・カンパニー響は、障碍のある人もない人も、年齢も背景も異なる人たちがダンスをしている。3月の旗揚げ公演では鈴木ユキオ、7月はアダム・ベンジャミン、11月には岩淵多喜子が振付を担当し、それぞれにスタイルも考え方も異なる振付家の意図をダンサーが受けとめて質の高い作品を作り上げた。柔軟な創造性に今後の可能性を感じる。

鉾久奈緒美については、我妻恵美子『肉のうた』で触れたとおり。黙々と舞踏に取り組んできた鉾久が、故郷の奈良・興福寺にある「阿修羅」を取り上げて、これまでの経験と思索を見事に作品化し、踊りきった。

KETARO!!はこの作品で、これまでのプラスしていく振付、演出方法にマイナスのベクトルを取り入れた。結果として踊りに絶妙な“間”が生まれ、彼にとっての新たな音楽性が体を満たしており、飛躍が感じられた。


◆阿部さとみ

【ベストアーティスト】
・ 井上八千代(《舞の会ー京阪の座敷舞》国立劇場小劇場、11月》
・ 吾妻節穂(《第58回日本舞踊協会公演》国立劇場大劇場、2月)
・ 藤蔭静枝(《ふじかげ会別会(新作研究会)》国立劇場小劇場、5月)

【ベストパフォーマンス】
・ 志田真木(琉球舞踊《真木の会》セルリアンタワー能楽堂、11月)
・ 猿若清三郎(《清三郎の会》国立小劇場、10月)

<井上八千代>
2015年11月21日、国立劇場舞踊公演《舞の会ー京阪の座敷舞》(国立劇場小劇場)、地唄「虫の音」。「虫の音」の中に亡き人を偲ぶという作品。舞台面は座敷の体で舞うが、幕あきの、二、三歩の歩みで一気に背景が草むらへと変化したかのよう。虫の音に興じる場面からすっと静かな終局への運びもよく、作品構成や意図、そして日本の美学を見事に描写。

<吾妻節穂>
2015年2月22日、《第58回日本舞踊協会公演》(国立劇場大劇場)、『都風流』。9月 東京新聞《推薦名流舞踊大会》(国立大劇場)、『青海波』。『都風流』は江戸時代の浅草界隈の情緒を描いたもので、節穂はくるくると変わる情景を的確に描き分け、その世界の情緒を彷彿とされる。『青海波』でも指の先まで弛みなく、それでいてしなやかなに繰り出される緩急が小気味よく、女流舞踊家の素踊りの格好よさで魅了した。

<藤蔭静枝>
2015年5月31日、《ふじかげ会別会(新作研究会)》(国立劇場小劇場)、新邦楽『春信幻想曲』。

『春信幻想曲』は春信描く『笠森おせん』の錦絵を新邦楽で描いたもの。新舞踊運動の歴史で初代藤蔭静枝と並び称される初代五條珠実の作品で、三代目五條珠実と共にこれまで三回演じているが、再演ごとに練り上げられ、今に生きる作品とした。錦絵を彷彿とさせる線の描写にすぐれ、どこかレトロでモダンな趣が良く出ていた。

<志田真木>
2015年11月9日、琉球舞踊《真木の会》(セルリアンタワー能楽堂)古典女踊り「柳」「天川」、創作舞踊「水鏡」、雑踊り「浜千鳥」など(すべて志田真木の一人立)。

従来の形の良さに加えて、情感の描写に一段の成長が見られ、女の思いが過不足なく表現された。ことに母であり師である志田房子の作品「水鏡」が秀逸。小道具や衣装の扱いにもさりげなく配慮が行き届き、女心の切なさを美しく描いた。

<猿若清三郎>
2015年10月30日《清三郎の会》(国立小劇場)、常磐津『飴売り』、創作『鏡花三彩』(共に猿若清三郎の一人立)。

『飴売り』は流派に伝わる演目。女装していた飴売りを表現するもので、男が女装しているという二重構造をきちんと見せ、後に男となった時との仕分けがきちんとなされ、作品の意図が十分に伝わった。

『鏡花三彩』は、名手・猿若吉代の名作として知られる作。泉鏡花描く三作、三人の人物を題材にし、それらの人物を的確に演じ分けた。お三重(『歌行燈』)では純朴さと一途な思い、清葉(『日本橋』)のすっきりとした江戸前の芸者という役と亡き人を思う心根、丁山(『通夜物語』)では花魁の潔さなど。女形ではない人だが、身体の内部まできちんと使い、きちんとした表現がなされ、優れた作品となった。


◆折田 彩

【ベストアーティスト】
・ 佐東利穂子(KARAS『ハリー』、シアターΧ、7月)
・ 井関佐和子(Noism0『愛と精霊の家』、りゅーとぴあ・劇場、9月)
・ 鉾久奈緒美(大駱駝艦『阿修羅』、壺中天、9月)

【ベストパフォーマンス】
・ ローザス『ドラミング』 (東京芸術劇場・プレイハウス、4月)
・ Co.山田うん『春の祭典』(東京芸術劇場・シアターイースト、4月)
・ バロウランド・バレエ『タイガーテイル』 (那覇市職員厚生会厚生会館多目的ホール、8月)

ベストアーティストは、テクニックの披露に留まらずダンスの本質を追求する姿勢が強く感じられたダンサーを選んだ。

佐東利穂子は、SF小説を題材にした『ハリー』で、「自死した女性の魂のコピー」という難しい役を演じた。極限まで抑制された動きの中に、人形振りや痙攣などの「異物」が差し込まれ、ヒロインの絶望と苦悩が胸に迫る。満席の観客は身じろぎも咳もせず、佐東の一挙一動をその目に焼き付けていた。

金森・井関コンビが、気心の知れた小㞍健太と山田勇気、そして俳優の奥野晃士を迎えて作り上げた『愛と精霊の家』は、二人がこれまで積み重ねてきたものが昇華した珠玉の公演となった。井関は奥野、山田、小㞍とそれぞれパ・ド・ドゥを踊り、人形、ダンサー、母になれなかった女性を演じ分けた。最後の井関のソロ『Under the marron tree』は、ソロでありながら不在の他者とのパ・ド・ドゥのようにも感じられる情感溢れるものであった。

鉾久の5年ぶり、2作目の振付作品となった『阿修羅』は、彼女の踊り手としての資質を存分に味わえるものであった。鉾久は胎児から少女、仏神阿修羅、そして母へと自在に姿を変容させる。床に倒れては立ち上がり、倒れては立ち上りを繰り返すその体からは、凄まじいエネルギーが放出されていた。

ベストパフォーマンスは、ダンサーが振付家の意図を明確に把握し、振付家の理想通りのパフォーマンスを見せたと感じられた作品の中から、群舞を中心に選んだ。

『ドラミング』は、ローザスの代表作であるにとどまらず、1990年代のコンテンポラリーダンス界を代表する傑作である。スティーブ・ライヒの楽曲、ケースマイケルの数学的で緻密な振付、ダンサー達のよくコントロールされた動きが絶妙に調和しており、その完璧な構成は何度見ても唸らされる。

2013年に初演され2014年にも各地で再演を繰り返した『春の祭典』が、果たして2015年のベストにふさわしいだろうかと躊躇したが、パフォーマンスが素晴らし過ぎて除外できなかった。2014年の再演時と比べても、ダンサー達の振付の理解度が格段に上がっている。Co.山田うんは、少人数ユニット中心、新作主義の日本のコンテンポラリーダンス界では珍しく、常時10人以上の団員を抱え、レパートリー制を採用している。同じメンバーで再演を重ねているからこその作品の進化を実感できた。

『タイガーテイル』の鑑賞は、2015年のベストにとどまらず、ダンスに対する自分自身の価値観が揺さぶられるエポックメイキングな経験となった。ギルモアの振付は、夫婦の不仲、親による子供への抑圧、親の精神錯乱などの、現実の子供達を取り巻く出来事を丁寧に掬い上げて踊りに紡ぎ上げていた。「ダンスでは義理の姉という複雑な関係性を表現することはできない」と語ったのはイリ・キリアンだったか。私もこれまでそう思っていたが、本作は、「ダンスでも、複雑な関係性やそこから生まれる微妙な機微をこんなにも明確に表現できるのだ」という驚きと発見を私に与えてくれた。


◆ 隅田 有

【ベストアーティスト】
・ 井関佐和子(《青山バレエフェスティバル Last Show》『Under the marron tree』青山劇場、1月)
・ 林ゆりえ(スター・ダンサーズ・バレエ団《オール・チューダー・プログラム》『火の柱』テアトロ・ジーリオ、ショウワ、9月)
・ 細田千晶(新国立劇場バレエ『くるみ割り人形』新国立劇場オペラパレス、12月)

【ベストパフォーマンス】
・ 《第14回 世界バレエフェスティバルAプロ》『フェアウェル・ワルツ』(東京文化会館大ホール、8月)
・ 《シルヴィ・ギエム ライフ・イン・プログレス》『バイ』(東京文化会館大ホール、12月)
・ バーミンガム・ロイヤル・バレエ団『白鳥の湖』(東京文化会館大ホール、4月)


素晴らしいパフォーマンスは甲乙付け難いため、基準を設けずに3人のベストアーティストを選出することは難しい。今回は既にキャリアのあるダンサーの中から、新たな発見があった3人を選んだ。

井関佐和子は1月の《青山バレエフェスティバル Last Show》で、金森穣の初期の作品『Under the Marron Tree』を踊り、ある高みまで到達した表現者ならではの、圧倒的なステージを見せた。間の取り方や、無駄を削ぎ落とした正確なステップが、ダンサー本人の身体のあり方と結びつき、確かな説得力をもたらした。

林ゆりえはスター・ダンサーズ・バレエ団のプリマとして、数々の舞台に主演していたが、チューダーの『火の柱』を踊った9月の《オール・チューダー・プログラム》公演で、これまでにない新たな一面を見せた。感情を押さえつけている様子を、意図的に身体を強張らせたようなポーズで表現。身体表現の可能性に向き合い、心理劇としての面白みを表した。

細田千晶は12月の『くるみ割り人形』で、可憐さと、素手では触れられないような冷たさを兼ね備えた、清々しい雪の女王を踊った。パに入る際の音の掴みがクリアで、動きにキレがあり、コール・ド・バレエと調和するが見失わない。役柄を作り込むというよりは、振付や音楽の中にあるエッセンスを引き出しているように感じた。雪の女王のように、具体的な性格付けのないクラシック・バレエ作品を踊る際の、ストレートなアプローチだろう。細田に限らず、新国立劇場はダンサーの層が厚い。彼らが幅広く活躍できるようなプログラムが、今後更に取り入れられることに期待したい。

ベスト・ダンサーが日本人3人となった為、ベスト・パフォーマンスは海外勢から選出した。

パトリック・ド・バナの作品はこれまでも観る機会があったが、男性同士のパ・ド・ドゥが多く、独特で濃厚な世界を繰り広げていた。しかし『フェアウェル・ワルツ』は男女のパ・ド・ドゥで妖しさはない。バナのホームページによると、ジョルジュ・サンドとショパンの関係からインスパイヤーされた作品とのこと。歩み寄ろうと努めながらも行き違う、男と女の切ない関係が詩的に描かれ、パリ・オペラ座の元エトワールで大ベテラン、イザベル・ゲランとマニュエル・ルグリが完璧に表現した。

年末はシルヴィ・ギエムの引退公演が日本各地で上演された。『バイ』はマッツ・エックがギエムの為に振付け、2010年12月に初演。日本では2011年の復興ガラの際に上演されている。舞台中央のパネルに投影した映像から登場し、映像の中に帰って行くような場面は、前回以上にタイミングがぴったり。「舞台で起きていることが全て正解」という、批評の余地のないパフォーマンスだった。少し前屈した特徴的な姿勢で歩き、踊り、逆立ちするギエム姐さんは、本当にこれが見納めだったのだろうか。

ピーター・ライト版の『白鳥の湖』は過去にも日本で上演されており、筆者も1988年の来日公演を見ている。今更取り上げることもないかもしれないが、今回の公演を観て古典の演出について考える事が多かったのでここに挙げる。王子を物語の核に据えた本作は、前王の葬儀の列から始まる。このプロローグが加わることで、青春時代が終わり、王となるために花嫁を選ぶ必要に迫られた、若い王子の葛藤がより切実になる。しかもこの設定は、主人公の行動の動機付けに留まらない。本作はゴシック小説的な視点で『白鳥の湖』を描き直すことに成功している点が素晴らしい。人里離れた城、善と悪の二人の美女、現実に紛れ込むミステリアスな事件など、『白鳥の湖』は確かにゴシック小説的な要素を持っていることに、筆者は今回始めて気付いた。衣装にも工夫があり、一幕では王子も女王も喪服、そして悪魔ロットバルトは中世の不気味な騎士のような兜を被っている。他のプロダクションでは王子の友人ベンノは登場しないことが多いが、ライト版ではなくてはならない存在だ。当時の小説は思い出話や手記のような形式による展開がしばしば見られる。"事件"の全貌を目撃し、ラストで王子の亡骸を抱いて舞台中央に歩み出るベンノは、この物語を語り継ぐ者としての役を担っているのだろう。

バレエは振付という"コア"な部分を改訂することが可能であるため、演出の変更は、振付の改訂に伴ってなされることが多い。演出そのもので冒険することは、少ないのではないだろうか。しかし巧みな演出が古典に新たな解釈をもたらすことがある。それは作品が生命力を保ち、上演され続けることにも繋がるのではないだろうか。


◆平野恵美子

【ベストパフォーマンス】
・ ストラヴィンスキー・トリプル・ビル『火の鳥』(マルコ・ゲッケ振付、酒井はな・アレクサンダー・ザイツェフ出演)(草月ホール、12月)

【ベストアーティスト】
・ アリシア・アマトリアン(8月《第14回世界バレエフェスティバル》東京文化会館大ホール、11月シュツットガルト・バレエ団『ロミオとジュリエット』東京文化会館大ホール)
・ マニュエル・ルグリ(《第14回世界バレエフェスティバル》『こうもり』東京文化会館大ホール、8月)
・ シルヴィ・ギエム(12月《ライフ・イン・プログレス》東京他)

本年は公演に数多く足を運んだと言えないながらも、次の理由で選んだ。

『火の鳥』は再演ということだが、M・フォーキンの原版『火の鳥』とは全く異なる、2羽の鳥が共鳴するような斬新な振付と簡潔な衣装が、ストラヴィンスキーの現代的な曲によく合って、印象に残った。

シュツットガルト・バレエ団プリンシパルのアマトリアンは、アラベスクで後ろに高く上がる脚から胸までの曲線が、弧を描くようで非常に美しい。ベテラン・ダンサーであるが、ジュリエットを演じるのに不可欠な若さ、清楚さ、恥じらい、そして情熱を見事に表現していた。

《世界バレエフェスティバル》に出演していたルグリの同年代の他のダンサーが、若手にどうしても見劣りがしてしまう、あるいは自分の経年劣化を認められずいわゆる「イタい」感じになってしまう中、ルグリだけは、若手には表現できないであろう中年の「粋」と色気を、コミカルにまた軽快に、フランス人らしいエスプリを添えて見せてくれた。観客を楽しませ、愉快だった。

我々の時代の最高の舞姫シルヴィ・ギエム。「100年に1人の」という形容に異議を唱える者は誰もいないだろう。アクラム・カーン振付の『テクネ』で観客を圧倒し、『ボレロ』で会場の空気を1つに集め、消えた。その引き際は最後まで潔く、美しかった。


◆宮本珠希

【ベストパフォーマンス】
・ モナコ公国モンテカルロ・バレエ団『LAC〜白鳥の湖〜』(東京文化会館、2月)
・ 《オーチャード・バレエ・ガラJAPANESE DANCERS》(オーチャードホール、8月)
・ スターダンサーズ・バレエ団《オール・チューダー・プログラム》(テアトロ・ジーリオ・ショウワ、9月)
(※公演日順)

【ベストアーティスト】
・ 飯島望未(8月《オーチャード・バレエ・ガラ JAPANESE DANCERS》『海賊』『精密の不安定なスリル』、8月《吉田都×堀内元 Ballet for the Future》『Valse Fantaisie』『La Vie』)
・ 木本全優(7月《マニュエル・ルグリとウィーン国立バレエ団ダンサー 沖縄限定プレミアム公演》『ル・スフル・ドゥ・レスプリ—魂のため息』『モーツアルト・ア・ドゥ』、8月《オーチャード・バレエ・ガラ JAPANESE DANCERS》『眠れる森の美女』『精密の不安定なスリル』)
・ 島添亮子(8月 小林紀子バレエ・シアター《ミックス・プログラム》『グローリア』、9月 スターダンサーズ・バレエ団《オール・チューダー・プログラム》『リラの園』)
(※五十音順)

『LAC〜白鳥の湖〜』は、同団芸術監督のジャン=クリストフ・マイヨーが古典に新たな息吹を吹き込んだ良作。従来の物語を大胆に解釈・再構築し、疾走感溢れるダンスで魅せた。光と闇、善と悪、人間と獣など、様々な対立構造を孕みながら、強烈なまでに個性的なキャラクターたちが織り成す作品の世界に飲み込まれた。

昨年夏は、例年以上に多数のガラ公演が開催されたが、中でも熊川哲也が総合監修を務めた《オーチャード・バレエ・ガラ JAPANESE DANCERS》は印象深い。所属バレエ団にゆかりの深い演目の選定、オール日本人キャストでは初となる『精密の不安定なスリル』の上演など、グローバルな活躍を見せる日本人ダンサーの実力を堪能できた。

《オール・チューダー・プログラム》は、普段あまり目にすることが多くないアントニー・チューダーの作品のみで構成された貴重な公演であった。バレエ団の垣根を越えたゲスト陣も豪華で、それぞれの踊り手が持ち味を発揮。スターダンサーズ・バレエ団設立のきっかけにもなったチューダー作品の上演は、創立50周年の節目に相応しく、意義深いものとなった。

続いてベストアーティストの1人目、飯島望未は華やかな佇まいと強靭なテクニック、そして豊かな音楽性がひと際目を引いた。とりわけ、『精密の不安定なスリル』では、緩急自在のシャープかつ伸びやかな動きと押し出しの強さで舞台を牽引。また、自身のファッションやライフスタイルが様々なメディアで話題となっており、彼女の存在を通してバレエに興味を抱く人々も増えてきているのではなかろうか。更なる飛躍に期待したい。

ウィーン国立バレエ団の木本全優は、持ち前の柔らかく端正なムーヴメントがそれぞれの作品で際立っていた。中でも、『ル・スフル・ドゥ・レスプリ—魂のため息』で見せた大きく滑らかなシークエンスと清々しい表現は、無垢な魅力に溢れており心を打たれた。

『グローリア』『リラの園』で、圧倒的な存在感や表現の説得性を誇ったのが、小林紀子バレエ・シアターの島添亮子。ふとした表情や視線、仕草のひとつに至るまでもが役柄の心情を如実に映し出しており、各作品のドラマ性をいっそう高めた。技術、表現ともに今、充実期を迎えているダンサーであろう。

また、例年に比べるとコンクールを見る機会は多くなかったものの、4月の第72回全国舞踊コンクールバレエ第一部で『パキータ』よりエトワールのヴァリエーションを踊り1位に輝いた塩谷綾菜に注目したい。彼女は、一昨年も同部門で『ジゼル』を踊り、その繊細な踊りが印象に残っていたが、今回も、しなやかなラインを描くポーズや優雅な上体の使い方がとても美しく、今後の活躍を予感させた。既に、日本バレエ協会の『眠れる森の美女』、チャコット株式会社主催の《バレエ・プリンセス》等にキャスティングされており、これからが楽しみである。


◆吉田 香

【ベストパフォーマンス】
・ バットシェバ舞踊団『DECADANCE-デカダンス』(神奈川県民ホール大ホール、10月)
・ 勅使川原三郎 KARAS『ある晴れた日に』(シアターχ、12月)
・ 小林紀子バレエ・シアター《ミックス・プログラム》『グローリア』(新国立劇場中劇場、8月)

【ベストアーティスト】
・ 佐東利穂子(勅使川原三郎+KARAS アップデイトダンス『ペレアスとメリザンド』カラス アパラタス 5月、『ペレアスとメリザンド供戰ラス アパラタス、11月)
・ 島添亮子(小林紀子バレエ・シアター《ミックス・プログラム》『グローリア』新国立劇場中劇場、8月)
・ 小野絢子(《DANCE to the Future〜Third Steps〜》『Revelation』新国立劇場小劇場、1月)

『DECADANCE-デカダンス』は過去の作品をコラージュしたオハッド・ナハリン=バットシェバの集大成的な作品。個々の作品の完成度、オリジナリティ、ダンサーの実力、すべてにおいて圧倒された。そして、ダンスを、舞台を、一層愛おしいものに感じさせてくれたのも素晴らしい。


『ある晴れた日に』は、勅使川原の最後のソロに尽きる。あのテキストからあの音楽へという発想に驚かされ、救いに慰められ、クールなイメージの強い彼の作品では珍しく、じーんと心に沁みるものがあった。あの味わいと包容力は今の彼だからこそ出せるもの。


小林紀子バレエ・シアターがまた一つケネス・マクミランの秀作を日本に紹介してくれた。『グローリア』は、柔らかな稜線を描くシンプルなセット(アンディ―・クルンダー)、シルエットが物悲しい照明(ジョン・B.リード)、そして、胸に迫るフランシス・プーランクの合唱曲を用いて、戦争で失われた世代への哀歌を奏でた。振付は、徹底して自由にならない様を表すかのように女性は男性にリフトされ続け、一人で踊ることがない。そのリフトが支える方も支えられる方も難しいものばかり。凛とした佇まいでこの振りを難なくこなした島添亮子に、プリマたる所以を見た。

平山素子が初めて振付けた作品『Revelation』は、小野絢子が一皮むけたことを証明するのに最適だった。削がれた身体に凄味と神々しさを宿し、すっかり気圧されてしまった。




outofnice at 22:51舞台評 
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