January 09, 2016

ミハイロフスキー劇場バレエ『ローレンシア』

全二幕、各幕約40分。ソビエト時代に作られた演目で、タイトルはヒロインの名前である。海外のバレエ団としての全幕上演は日本初という。17世紀初めにスペインの劇作家が書いた戯曲を題材にしているが、虐げられた村人の怒りが爆発し、支配階級を倒して勝利するという構造は、制作された時代を考慮すると何やら政治的だ。気っ風の良いスペイン娘たちと情熱的な男達の、技の見せ合いのような踊りは楽しい。しかし、一幕では村娘が、二幕では婚礼の場のローレンシアが、騎士団の男らに連れ去られ、ボロボロの衣装で再登場するという生々しい場面がある。クラシックバレエ作品で暴力的な性が表現されること事態珍しいが、本作はさらにぶっ飛んでいて、被害に合った娘は嬲り物にされた怒りと絶望を踊りで表現する。ラストは、引き裂かれた花嫁衣装を着たローレンシアが村人を導き、金で解決しようとする暴君を成敗する。

タイトルロールはイリーナ・ペレン、ローレンシアを口説き続け、一幕終わりで婚約するフロンドーソにイワン・ワシリエフ。ペレンの踊りにはキレがあり、パとパのつなぎが早い。主役としての存在感は十分で、勝利した村人達とともに踊るラストは、腕を前に出すだけで迫力満点だった。ワシリエフは複雑なジャンプを組み合わせ、ピルエットは回転数も多く、超絶技巧で客席を沸かせた。しかしつま先が緩みがちなど、細部には粗が目立った。身体能力で押しまくる踊りで、派手な技だけでなく、一幕で男達を従えて、シモテからカミテに向かい身体を前後にしならせて激しく踊る際の、背中の軟らかさが素晴らしかった。主役を含めてダンサー達は、高く脚を上げたり沢山回るが、止まるべき処をを止まらずに踊りを流して行くので、振付は今ひとつ見えてこない。雑ではあるが、勢いもある。ここは一つミハイロフスキーの持ち味と思い、楽しまなければ損だろう。ステップは多少適当でも、上半身には多様な表現があった。ロシアバレエらしい大きく身体を開くポーズに加え、胴や腕を捻ったり伸ばしたりと、上半身が常に動き変化し続ける。舞台が濃厚な印象を与える理由の一つではないだろうか。
(隅田有 2016/01/05 19:00 東京文化会館大ホール)

outofnice at 16:08舞台評 
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