November 19, 2015

新国立劇場『ホフマン物語』

主演はトリプルキャストで、この日のタイトルロールは井澤駿。全三幕にそれぞれヒロインが登場し、人形のオリンピア、踊りが好きなアントニア、娼婦ジュリエッタの役に、長田佳世、小野絢子、米沢唯が出演した。ホフマンの現恋人でオペラ歌手のステラ(本島美和)は踊らない役である。リンドルフのマイレン・トレウバエフには不気味な存在感があった。

オペラと同じタイトルのバレエでは、あえてオペラの曲を使わないことがあるが、本作では歌のメロディを楽器が演奏する形式で、オッフェンバックの同曲が使われる(編曲はジョン・ランチベリー)。またアントニアの情熱が歌ではなくダンスであることを除けば、概ねオペラと同じ設定だ。新国立劇場としては今回が初演だが、芸術監督の大原永子はスコティッシュ・バレエ時代に三人のヒロイン役を全て踊っているそうだ。そのせいあってか、序盤の三人のウェイトレスの踊りから、一気に観客を惹き付ける力を感じた。音を無駄なく汲み上げ、ステップを踏みながら上半身を捻るなど、畳み掛けるような振付が面白い。二幕はデヴェルティスマン形式で、小野絢子が完成度の高い踊りを見せた。甲を空中に釣り上げるように脚を出すステップなど、要所要所の音を粘って使いメリハリがある。一転して死の場面では、腕を力なく振り回す取り乱した踊りに、それ以前の場面とのコントラストがあった。第三幕の米沢唯は、すっきりとした中性的なイメージを思わぬ方向に転じさせて、高級娼婦の役を作り上げた。パートナーに媚びるような分かり易い色気ではないので、あるいは物足りなさを感じた観客もいたかもしれない。しかし、米沢の正確な脚さばきが、少々のことでは動じない場慣れした女の風情に重なり、まるで歌舞伎の女形のような、性別を超越した色気を打ち出した。素晴らしかった。

ステラがシモテの建物のドアを開けた際、内側から赤いライトが漏れて、建物が劇場であることを印象づけたり、ホフマンの心理を表すラストでは、背景が影に沈み奇妙に白い空が浮かび上がったりと、照明(沢田祐二)が演出に大きく貢献していた。本公演に合わせて、セットや衣装も新調されたそうだ。ところで緞帳が上がると現れる、ホフマンの漫画タッチのイラストとウェスタン風のフォントを使ったタイトル表記には、何らかの必然性があったのだろうか。

(隅田有 2015/11/03 新国立劇場オペラ劇場) 


outofnice at 12:02舞台評 
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