August 14, 2015

第14回世界バレエ・フェスティバル(Aプロ)

途中3回の休憩を挟む約四時間半の公演で全17作品、女性16名、男性18名の、合計34名が出演した。


第一部最後、イザベル・ゲランとマニュエル・ルグリの『フェアウェル・ワルツ』が素晴らしかった。パトリック・ド・バナの振付である。近年ルグリは自身のガラなどで、頻繁に日本の観客にバナの作品を紹介してきた。男性同士が絡む濃厚なものが多かったが、今回はストレートに男女のパ・ド・ドゥである。これまで見たバナの振付の中で一番美しい作品であった。お辞儀をするように体をしならせてゲランに腕を差し出す、ルグリの動きに哀しみが滲む。バナのホームページによると、ショパンとジョルジュ・サンドの関係からアイデアを膨らませたダンスなのだそうだ。舞台に大きな円を描いて、リフトから床を滑るシークエンスが心に残った。

ハンブルク・バレエ団の男女2組による『いにしえの祭り』からの抜粋も見応えがあった。男性は軍服を羽織っており、プログラムによると間もなく出征する若者なのだそうだ。舞台の後方にはパーティションがあり、その奥に晩餐の席が準備されている。前半はアンナ・ラウデールとエドウィン・レヴァツォフによるパ・ド・ドゥ。長身でスタイリッシュな二人が、放心したようにカクカクと体を揺らして踊る。後半はシルヴィア・アッツォーニとアレクサンドル・リアブコのペア。体を素早く激しく動かすエモーショナルな踊り方は、いかにもリアブコらしい。前半の二人と打って変わって感情が迸るようだった。

今年パリ・オペラ座を引退したオレリー・デュポンは、エルヴェ・モローと『トゥギャザー・アローン』を踊った。振付は2014年にパリ・オペラ座の芸術監督に就任したバンジャマン・ミルピエ。舞台上のピアノの演奏に合わせて掌を重ね合う動きには、内省的な雰囲気があった。ストレッチ素材と思われるが、ジーンズのように見えるパンツに、白いタンクトップを合わせた衣装は、まるでティーン・エイジャーのようだ。二人ともベテランだが、未来に不安を覚える若い恋人同士のような瑞々しさがあった。

シュツットガルト・バレエ団のアリシア・アマトリアンとフリーデマン・フォーゲルは『オネーギン』の鏡のパ・ド・ドゥを踊った。フォーゲルは2008年の同バレエ団来日時にレンスキーを好演したが、昨年シンガポールとタイのツアーで、ついに『オネーギン』全幕に主演したそうだ。11月の来日公演でも同役が披露される予定であり待ち遠しい。ウリヤーナ・ロパートキナはダニーラ・コルスンツェフと共に『白鳥の湖』第二幕に出演。マリーヤ・アレクサンドロワとウラディスラフ・ラントラートフは二幕最後のパ・ド・ドゥに一幕のヴァリエーションを加えてグラン・パ・ド・ドゥ形式にした『ライモンダ』を踊った。

トリの『ドン・キホーテ』は、7月29日の『ドン・キホーテ』全幕で一幕のメルセデスを踊ったヴィエングセイ・ヴァルデスと、同じくキューバ・バレエ団のオシール・グネーオ。ヴァルデスは2006年の第11回の世界フェスにも出演しており、その際も今回と同じ『ドン・キホーテ』と『ダイアナとアクティオン』を踊り、長いこと片足のポアントで立っていた。大きくぐらつきながらもポアントから落ちないことには驚いたが、耐久時間よりも身体のラインの美しさを優先して欲しい。グネーオは回転のラストに身体を捻るなどして、立体的なラインに色気を添えた。全体的にアクロバティックではあったが、クラシック・バレエとしての見所の少ない、少々残念なラストだった。

怪我等による降板が4名いた。ミリアム・ウルド=ブラームが降板し、ペアを組む予定だったマチアス・エイマンはヌレエフ振付のソロ『マンフレッド』を踊った。また『海賊』を踊る予定だったマリア・コチェトコワが降板。幕開きにスティーヴン・マックレーと『チャイコフスキーのパ・ド・ドゥ』を踊ったヤーナ・サレンコが二度登場し、ダニール・シムキンと『パリの炎』を踊った。デヴィッド・ホールバーグは怪我の回復が遅れ、スヴェトラーナ・ルンキナ共々出演を取りやめた。第二部の冒頭、今年5月に89歳で亡くなったマイヤ・プリセツカヤを追悼し、第一回の世界フェスでプリセツカヤが踊った、瀕死の白鳥の映像が上演された。
(隅田有 2015/08/01 14:00 東京文化会館大ホール)


outofnice at 00:05舞台評 
記事検索