August 06, 2015

世界バレエフェスティバル全幕特別プロ『ドン・キホーテ』

今回の世界フェスの開幕はワシリエフ版『ドン・キホーテ』全二幕。一幕は長丁場で「プロローグ」「町の広場」「ジプシーの陣営」「夢の国」まで。二幕は「酒場」と「結婚式」。東京文化会館のロビーに入ると、ダンサーの写真や、星の形の電飾が頭上に釣られ、灰色の柱は白い布で覆わている。白い布の一部はカーテンの様に垂れ下がり、まるでバレエコンサートのステージのような飾り付けがなされていた。当初、本作の振付家でありボリショイの伝説的ダンサー、ウラジーミル・ワシリエフがどこかにサプライズで登場するという発表があったが、頸椎を痛めて出演がキャンセルとなった。しかしそんなことがあっても、会場には世界フェスならではの華やかな雰囲気が漂っていた。


主演は、2013年に英国ロイヤル・バレエ団から、タマラ・ロホ率いるイングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)に移籍したアリーナ・コジョカルと、昨年ENBから英国ロイヤル・バレエ団に移籍したワディム・ムンタギロフ。脇を固めるのは東京バレエ団である。コジョカルのキトリは、テクニックも主役としての華も素晴らしい。ドルシネア姫として登場する「夢の場」では、シュ・スーで立ち、腕をアン・オーに上げる時などに、少し上体を斜め前に傾けて、古めかしさを感じさせるポーズを取っていたように見られた。動きの速度や仕草の雰囲気を変えるだけでなく、スタイルの違いを使って、庶民的な町娘と夢の国の姫君を踊り分けていたように思われる。ムンタギロフは大柄だが動きに重さはない。片手のリフトは軽々とこなし、足を前に伸ばして跳ぶダイナミックなジャンプでは、客席から歓声が聞かれた。ドリアードの女王の渡辺理恵は、長い脚を高く上げている時も無理を感じさせず、動きに余裕がある。多少頼りないところもあったが、癖がなくすっきりとした踊りは「夢の場」に相応しい。コジョカルと並んでも引けを取らない、伸びやかな踊りだった。

『ドン・キホーテ』は、元来笑いあり超絶技巧ありの陽気なバレエだが、出演者たちは自分の個性の中に上手に役を落とし込み、更に舞台を楽しいものにしていた。例えば、本作のプロローグには、旅立つ前のドン・キホーテの書斎に、早々とキトリとバジルが登場する。ドン・キホーテの髭をあたる床屋のバジルと、その脇で早く仕事を終えろとじれるキトリ。椅子の上に立ち可愛く悪態をついているキトリが、業を煮やしてがに股で飛び降りる。"がに股”のジャンプは誰がやっても様になるという訳ではないだろうが、小柄でお転婆な雰囲気のコジョカルのキトリにはぴったりだ。ムンタギロフのバジルは二枚目だがキザではない。ジプシーの陣営の場では、追いかけてきたガマーシュ一同を目にして、思わず頭を抱える仕草に面白みがあった。木村和夫の夢見がちなドン・キホーテは、速度はゆっくりだが明後日の方向を向いて常に動き続け、他の登場人物たちを右往左往させる。方や大きなお腹のサンチョ・パンサ(岡崎隼也)は、ジャンプを多用した踊りにキレがあり、主人との間に静と動のコントラストを作った。キトリの友人に乾友子と吉川留衣、メルセデスにキューバ国立バレエ団のヴィエングセイ・ヴァルデス(一幕)と川島麻実子(二幕)、エスパーダに柄本弾、ジプシーの女に奈良春夏、ガマーシュに梅澤紘貴、キューピッドに松倉真玲、ロレンツォに永田雄大が出演した。
(隅田有 2015/07/29 19:00 東京文化会館大ホール) 


outofnice at 22:59舞台評 
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